家庭で正しく測れる血圧計を目指して

家庭用血圧計にもっとも大切なこと、それは正確な血圧値を測定できる「精度」と、だれでもミスなく簡単に測定できる「使いやすさ」です。この2つがそろって初めて、家庭での正しい血圧測定が可能になります。オムロンは、家庭用血圧計の開発当初から「精度」と「使いやすさ」の向上を目指して研究を続け、日本のみならず世界各国で高い評価と信頼を得てきました。ここではオムロンの家庭用血圧計のなかでも、「精度」と「使いやすさ」の向上に大きく貢献し、エポックメーキングとなった代表的な機種をいくつかご紹介します。

オシロメトリック式血圧計(HEM-400C、HEM-700C)-1986年

血圧測定原理の革新といわれるオシロメトリック法を当社で初めて採用した機種です。オシロメトリック式血圧計は、現在の電子血圧計の主流となっています。

1980年代の前半まで、家庭用血圧計の測定原理はコロトコフ法(聴診法)が主流でした。
コロトコフ法は、カフ(腕帯)内に組み込まれたマイクロフォンでコロトコフ音を検知し、血圧を測定する方法です。カフを腕に巻くとき、マイクロフォンと動脈の位置がずれたり、外部の雑音が混入したりすると、正確に測定できないこともありました(詳細については、「電子血圧計のしくみ」をご参照ください)。
これらの課題をクリアし、精度と使いやすさを大幅に向上させたのが、オシロメトリック法です。
オシロメトリック法は、血管壁の振動(脈波)を圧力センサで検出し、血圧を測定する方法です。この方法だとマイクロフォンが不要で、カフがセンサーの役割をするシンプルな構造になり、それだけ故障が少なくなります。またマイクロフォンの位置や周囲の雑音を気にする必要もありません。
非常に使いやすくなったことから、測定値の信頼性が格段に向上し、これをきっかけに家庭用血圧計の市場も一気に拡大しました。
オシロメトリック式の血圧計は、病院向けとしてはオムロンコーリンの前身である日本コーリンが、1979年に初めて国産に成功しました(オシロメトリック式血圧監視装置「BP-203」)。家庭用オシロメトリック式血圧計の発売は他社が先行しましたが、オムロンは以前から蓄積していた技術力を駆使してわずか1年余りで追随。1986年に「オシロメトリック式血圧計(HEM-400C、HEM-700C)を発売しました。
さらに数年後、競合各社も同じ方式の血圧計を市場に投入し、オシロメトリック式は現在に至るまで電子血圧計の主流を占めるようになりました。

HEM-700C

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ファジィデジタル自動血圧計(HEM-706)-1991年・等速減圧制御機能搭載血圧計(HEM-707)-1992年

世界で初めてファジィ技術を採用し、自動で適正な加圧と減圧を行うことを可能にした血圧計が、ファジィデジタル自動血圧計と等速減圧制御機能搭載血圧計です。

1990年にオムロンでは全社一丸となって、オンリー1、ナンバー1商品(ゴールデンプロダクト)の創出を目指したプロジェクトがスタートしました。
家庭用血圧計の分野では、いままでにない画期的な機能とユーザビリティをもつ血圧計の開発を目指し、店頭調査やお客様のご意見を参考にして課題やニーズを徹底的に分析。その結果、「優・静・速」をコンセプトにした家庭用血圧計の開発にチャレンジしました。

「優」=自動最適加圧
当時の血圧計は、ユーザーが自分の普段の血圧値を把握しておき、それより一定度合い高い加圧値を自分で選択し、加圧を行なう必要がありました。そのため加圧量の過不足が原因で測定失敗が生じ、測定し直さなければならないこともあったのです。この点を解消し、その時の血圧に合った最適な加圧を自動で行う血圧計を目標に開発を進めました。
「静」=静音加圧
一般に血圧測定は、起床後や就寝前に定期的におこなうことが望まれます。しかし当時の血圧計は、加圧時の音が大きく、家庭での深夜や早朝の測定には不向きでした。そこで加圧時の音をできるだけ抑えることで、ほかの家族などに遠慮することなく、いつでも測定できる血圧計を目指しました。
「速」=等速(適正)減圧制御
当時の血圧計では、腕が太い人や高血圧の人はカフの減圧速度が遅く測定時間が長くなり、カフの締め付けによる腕の痛みやイライラ感を訴える人が少なくありませんでした。そこで腕の太さや血圧値に関係なく、常に最適な減圧速度になるよう電子制御できる血圧計の開発を目標にしました。

これらの課題をクリアするには、電子制御弁や静音ポンプなどのメカニズムのみならず、血圧計が自動で最適な加圧と減圧を行うためのアルゴリズム(マイコンのプログラム)など、開発要素はハードとソフトの多岐にわたり、かつ目標レベルも非常に高いものが要求されました。
この開発において採用したのが、「ファジィ技術」でした(詳細はコラムをご参照ください)。複雑な要素を制御して最適化するファジィ技術の導入によって、ユーザー一人ひとりの、その時の血圧レベルに合った最適な加圧値の自動設定や減圧制御が可能となったのです。
また静音加圧については、コロトコフ法の血圧計時代に培った音響技術をもとに、ポンプの専業メーカーの協力により静音ポンプなどの開発に成功しました。
そして1991年に誕生したのが、世界初のファジィ技術を搭載した血圧計、「ファジィデジタル自動血圧計(HEM-706)」です。高度な技術を数多く搭載した血圧計ですが、開発期間はわずか1年。この血圧計によって、当初の3つの目標のうち「優・静」が達成されました。

ファジィ技術に続いてチャレンジしたのが、腕の太さなどにかかわらず、常に適切な減圧速度に制御し、短時間で測定を行う「等速(適正)減圧制御技術」でした。
この技術の開発は、音響スピーカーのボイスコイル構造をヒントに、大手スピーカーメーカーの協力を得て進められました。また減圧制御の演算には大手マイコンメーカーの技術協力により新しいCPU(中央演算処理装置)を開発、さらに減圧制御のアルゴリズムのシミュレーションには大学の制御工学研究室の協力を得るなど、専門メーカーや大学・研究機関との徹底した共同開発により、こちらもわずか1年という短期間で完成にこぎ着けることができたのです。
それが1992年の「等速減圧制御機能搭載の血圧計(HEM-707)」です。この血圧計の完成により、当初の目標であった「優・静・速」のすべてが達成されました。
HEM-706とHEM-707は、新しい技術を数多く搭載した機種だったこともあり、初めて、モニターによる精度評価のためのデータ収集を実施しました。募集によるモニター100人のほか、京都府下の複数の病院の協力により約1000人分のデータを収集するなど、客観的データに基づく詳細な精度評価を行い、万全を期して発売に踏み切ったのです。
発売後、ユーザーからは「ボタン1つで測定できる簡便さ」を喜ぶ声が多く寄せられ、一方「測定時の腕の痛み」を訴える声は激減しました。オムロンの家庭用血圧計の信頼性は飛躍的に高まり、ナンバー1メーカーとしての今日のポジションを築く礎(いしずえ)となったのです。
HEM-706とHEM-707に始まるファジィ血圧計は、現在でもオムロンの電子血圧計のスタンダードとなっています。

HEM-706

HEM-707

ファジィ理論とロトフィ・ザデー博士
ファジィ理論は1965年、カリフォルニア大学バークレー校のロトフィ・ザデー教授(情報工学)によって提唱されました。ファジィは本来、「あいまい」を意味します。多数のパラメータからなる複雑なシステムを最適にコントロールする手法ですが、その考え方は科学分野のみならず哲学や文学の分野にも浸透し、大きな影響を与えました。また日本では洗濯機や掃除機の制御システムにファジィ技術が採用され、話題となりました。オムロンの家庭用血圧計では、その人に最適な加圧値を推定し、最適な加圧を自動的に行う制御システムなどに採用されています。ファジィ理論の提唱者ロトフィ・ザデー博士は自らの講演のなかで、ファジィ技術が自動血圧計のカフ圧力の調整に応用されていることを、人類に最も貢献した一例として紹介しています。
ロトフィ・ザデー博士は、1921年アゼルバイジャン生まれ。イランのテヘラン大学で学び、アメリカに渡りコロンビア大学、カリフォルニア大学バークレー校で情報工学の教授を歴任。1989年に本田賞、1995年にIEEE賞、2009年にはアメリカのノーベル賞といわれるベンジャミン・フランクリン・メダルを受賞しています。

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誰でも簡単に正しく装着できる「フィットカフ」採用の血圧計(HEM-770A)-2001年

腕にかぶせて巻き上げるだけの簡単装着を可能にした新型腕帯「フィットカフ」を採用した、上腕式血圧計です。

2000年代に入ると予防医療の時代を迎え、家庭での血圧測定はいっそう重要なものと認識されるようになりました。家庭用血圧計の普及が進むなか、オムロンではユーザビリティの視点からユニバーサルデザインの考え方を取り入れた血圧計の開発を進めてきました。その1つが、2001年の「新型腕帯フィットカフ採用血圧計(HEM-770A)」です。
フィットカフは、従来のカフに丸みを付け、片手で簡単に正しい位置にピッタリと装着できる、高齢者などが利用しやすい機能的な形状の腕帯です。さらに新開発の特殊な内部構造によって、従来より狭いカフ幅で高い圧迫性能を確保しました。このため、腕が短めの方でも正しく、簡単にカフ装着ができるようになりました。

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手首高さガイド搭載血圧計(HEM-637IT)-2002年

手首で測定する簡便タイプながら、正確に測定できる手首位置(心臓の高さ)へのガイド機能を、日本で初めて搭載した血圧計です。

ファジィ血圧計の登場によって家庭での血圧測定の普及が進むなか、オムロンではユーザーのニーズに応じたさまざまなタイプの血圧計の開発にも、積極的に取り組んできました。その1つが、手首で測定する血圧計です。
手首タイプの血圧計は、上腕タイプと比較すると装着が簡単で、小型かつ軽量なので旅行や会社にも携帯しやすいなどのメリットがあり、現在、日本では家庭用血圧計全体の約30%を占めています。
オムロンでは1992年に手首血圧計の1号機を開発して以来、改良を重ねてきましたが、1990年代の後半になると小型化を目指した開発競争が競合各社のあいだで始まりました。
このときオムロンでは小型化の限界に挑戦し、腕時計の大きさを目標にして、内部ポンプや排気弁、そしてカフにいたるまで、まったく新しい超小型タイプの開発を行いました。その結果、2000年に誕生したのが世界最小の「超小型手首血圧計(HEM-630)」です。
この血圧計によって、手首タイプの家庭用血圧計の分野でも、オムロンは業界ナンバー1のシェアを獲得するにいたりました。またこのときに培った技術は、装着しやすいフィットカフなど、その後の多くの機種に反映されています。
一方、手首血圧計は、測定時の手首の高さによって測定誤差が生じます。血圧を正確に測るには、手首の高さを心臓と同じにする必要があります。手首の位置が高すぎても低すぎても、正確な測定はできません。
この点を改良して2002年に発売したのが、日本初の「手首高さガイド搭載血圧計(HEM-637IT)」です。
高さガイドとは、手首を正しい測定位置(心臓の高さ)に合わせられるように、画面とブザーの両方で知らせるサポート機能です。HEM-637ITは、2方向の加速度センサー(重力の重みによって方向を推察するセンサー)を設置しており、心臓と、血圧計の垂直方向の高さの差異をこの加速度センサーによって推測し、正しい測定位置になると、自動的に測定を開始します。これによって、上腕タイプと同じ精度の測定が可能となりました。
さらに最新の機種(HEM-6050)では、画面を見なくても光と音で正しい測定位置を知らせ、自動的に測定する「測定姿勢チェック機能」を付加し、初心者や高齢者の方でも使いやすい血圧計を実現しました。

HEM-637IT

HEM-6050

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空気圧による自動巻きつけ技術搭載の血圧計(HEM-1000)-2004年

角度が自由に動く円筒型の可動式腕帯(スポットアーム)が、正しい測定位置に動いて測定する。それが全自動タイプの「空気圧による自動巻きつけ技術搭載の血圧計」です。

2003年からは、ユニバーサルデザインへの本格的な取り組みを開始しました。
その前提として、家庭用血圧計を購入された方々への意識調査や追跡調査により、購入の基準や実際の使用状況を確認し、ニーズや課題の検討を行いました。その結果が、色や形のデザインだけではなく、表示画面を大きく見やすいものにする、電源と加圧ボタンを1つにして誤使用を防ぐ、などの工夫につながっています。
また、老人福祉施設などの高齢者や障害者の方々の協力を得て、血圧計の使い勝手のモニタリングを行っています。さらに京都大学と共同で、インクルーシブデザイン(障害のある方々と一緒に検討しながら商品開発を進める)の手法にもチャレンジしています。
その成果の1つが、2004年に誕生した当社独自の「空気圧による自動巻きつけ技術搭載の血圧計(HEM-1000)」です。この血圧計は、カフを自分で巻きつけるのでなく、円筒型カフ(スポットアーム)に腕を通すだけの全自動タイプです。角度が自由に動く円筒型の可動式腕帯が、正しい測定位置に動き、測定ボタンを押すだけで自動的に加圧を行います。
こうした取り組みは海外でも注目され、ドイツのユニバーサルデザイン賞を受賞するなど、高い評価を受けています。
2008年に発売した「小型・軽量化モデル(HEM-7301-IT)」もその1つで、従来の血圧計のイメージを刷新する外観と、会社や旅行先などにも携帯しやすいコンパクトさは、オムロンの技術力とデザイン力の結集ということができます。
オムロンのユニバーサルデザインのコンセプトは、2008年に発行した冊子のタイトル、「ヒトを想うカタチ。」という言葉にこめられています。ヒトを想うカタチとは、人を想う気持ちから生まれる形のこと。それは家庭用血圧計をはじめ、オムロンのすべての健康機器に共通したものです。

HEM-1000

HEM-7301-IT