高血圧とほかの病気との関係

高血圧 病名・疾患解説

日本における患者数は1000万人を超える高血圧症。しかし、実際に血圧の高い人は、推計でその4倍以上! それにもかかわらず、自覚症状がないため対応を怠ってしまうケースが多いといわれています。では、高血圧の何が危険なのでしょうか。高血圧とほかの病気との関連についてお伝えします。

vol.161 高血圧とほかの病気との関係

放っておくと危険な高血圧

厚生労働省によると、日本には1010万800人の高血圧患者がいるとされています※1。これは病院・診療所など医療機関を受診している人から導き出された数字です。その一方で、日本高血圧学会は、高血圧の状態にある人が約4300万人いると推計しています※2。ちなみに厚生労働省の別の調査では、20歳以上の日本人で、収縮期血圧(最高血圧)が140mmHgを超える人は男性36.2%、女性26.8%※3も存在しているとされています。この割合を人口にあてはめると、約3300万人になります。140mmHgというのは、高血圧と診断される根拠の数値。つまり、実際に高血圧状態にあっても、医療機関を受診していない人がかなりの割合を占めているということがわかります。

高血圧はよほどひどくならないと自覚症状がないため、つい放っておかれがちです。しかし気がつかないうちに高血圧が進行して、頭痛や息切れ、動悸、頻尿といった症状が現れることがあります。その場合には、すでに重症化してしまっているケースがほとんどです。さらに、さまざまな合併症を起こしたりするリスクも増え、命にかかわる疾患につながることもあります。こうしたことから、高血圧は「サイレントキラー」とも呼ばれているのです。

日本人の死因のワースト4はがん、心疾患、肺炎、脳血管疾患です※4。このうち、心疾患と脳血管疾患に関しては、高血圧が大きなリスク要因となっています。心疾患や脳血管疾患を発症すると、命の危険が高まるだけでなく、助かったとしても半身まひなど大きな後遺症が残ることがあります。
心疾患の代表的なものは心筋梗塞と狭心症です。心臓には冠動脈があり、心筋に栄養や酸素を供給しています。しかしこの冠動脈が狭くなったり、血栓などで詰まったりした場合には心筋に栄養や酸素が届かなくなり、壊死してしまうことになります。すると非常に強い痛みに襲われ、最悪の場合は心臓の機能が停止して死に至ってしまうのです。
脳血管疾患とは、脳の血管のトラブルによって脳細胞が侵される疾患です。そのおもなものが脳卒中で、脳梗塞と脳内出血、くも膜下出血などです。脳卒中の「卒」は「卒倒する」と使われるように、「急に」や「にわかに」という意味で、「中る(あたる)」はほかのものに接触した結果、傷や痛みを生じるという意味です。つまり、突然脳の痛みに襲われ、麻痺や意識障害を起こしてしまう怖い疾患という意味なのです。脳血管疾患は、脳内を走る血管が詰まって酸素や栄養が補給されなくなって脳細胞が壊死するケースと、脳の血管が破れて出血することで血の塊りができ脳細胞を破壊するケースに分けられます。どちらの場合も心疾患と同様、突然死のリスクや後遺症が残ってしまうことのある恐ろしい疾患です。

※1 厚生労働省「平成26年患者調査の概況」より

※2 日本高血圧学会「高血圧治療ガイドライン 高血圧の話」より

※3 厚生労働省「平成26年国民健康・栄養調査」より

※4 厚生労働省「平成27年人口動態統計の概況」より

メタボリックシンドロームや動脈硬化との関係

高血圧はメタボリックシンドローム(メタボ)と深い関係にあります。
メタボのベースにあるのは内臓脂肪型肥満です。健康診断などで腹囲を測ったときに、前年の数字と比較して一喜一憂している人も多いことでしょう。男性85cm、女性90cmがメタボの境界線です。それに加えて、高血圧、高血糖、脂質異常症のうち二つ以上があてはまると、メタボリックシンドロームと診断されます。
内臓脂肪型肥満の場合、脂肪細胞が炎症を起こしてしまっているため、正常な働きができない場合があります。健康な人の脂肪細胞からはアディポネクチンなどの生理活性物質が分泌され、動脈硬化を予防したりインスリンの働きを助けてくれています。しかし内臓脂肪型肥満の場合はこれらの生理活性物質の分泌が低下するため、動脈硬化や高血圧を悪化させることになってしまいます。
さらに内臓脂肪型肥満の人は、脂肪細胞からインスリンの働きを抑える悪玉物質が分泌されてしまって血糖値が高い状態になります。その状態を防ごうとインスリンがさらに分泌されてしまい、高インスリン血症になってしまうのです。また、血液中の中性脂肪が増えて脂質異常症に陥ることもあります。すると腎臓でナトリウムが吸収されるようになるなどの影響で、結果的に血圧が上がってしまいます。
このように、高血圧はメタボの診断基準の一つですが、メタボはまた、高血圧を悪化させる要因にもなるのです。

では、高血圧と動脈硬化の関係はどうでしょうか。
動脈硬化は、動脈の血管壁が厚みを増し、弾力を失った状態になることです。古くなった水道用のホースが、経年劣化で硬くなった状態に近いものともいえます。このような状態になると血流が悪くなるため、心臓はいっそう強い力で血液を送り出そうとするため、血圧が上がってしまいます。
また、高血圧は動脈硬化を悪化させる面もあります。
高血圧の場合、心臓から送り出される血液の量(心拍出量)が増えることで動脈に高い圧力がかかり続けるため、血管の細胞や弾性繊維が発達してしまいます。そのため血管壁がさらにぶ厚くなって血管の内腔が狭くなり、抵抗が増して血液が流れにくくなるというわけです。そのため心臓は、より強い力で血液を送り出します。それで血圧が上昇してしまうのです。また、動脈にかかった圧力のために血管の内膜が傷ついてしまうと、その部分にコレステロールなどが入り込み、粥状動脈硬化を起こしたりします。粥状(じゅくじょう)とはコレステロールや脂肪がドロドロとしたおかゆのような状態になり、これが血管の内膜に沈着して血管にコブ(プラーク)を作ってしまいます。その状態を粥状動脈硬化といいます。
このように高血圧と動脈硬化は、表と裏の関係といってもいいほど密接にかかわっているのです。

さらに怖い疾病との関係

高血圧は、ほかにもさまざまな疾病と関係しています。
腎臓は血液をろ過して老廃物を尿として体外に出し、体の水分量を調節する臓器です。腎臓には毛細血管が多数ありますが、そこに動脈硬化が起こると血液の流れが悪くなり、血圧も上がってしまいます。すると腎臓の機能が低下してしまい、高血圧がさらに悪化したり、糖尿病や脂質異常症、肥満、つまりメタボリックシンドロームなどが発症しやすくなります。腎臓機能の低下がさらに進行すると、最悪の場合は腎不全になってしまいます。腎不全になると血液をろ過する機能が働かないため、人工透析を行う必要があります。いったん人工透析を始めると、一生続ける以外に選択肢がないのが現状ですから、QOL(生活の質)はさらに悪化することになります。

糖尿病で血糖値が高くなると、体の中にある水分が細胞外に出てしまいます。すると腎臓の水分吸収が増えてしまい、体液や血液の量が増えることになり、血圧が上がってしまうことになります。また、糖尿病になると体がインスリン不足と判断して、血液中に大量のインスリンが分泌されます。すると血液中のインスリンが多い高インスリン血症という状態になることで、交感神経が刺激されたりして血圧が上がってしまいます。このように糖尿病の人は高血圧になりやすいのと同時に、高血圧の人は糖尿病になりやすいので注意が必要です。

睡眠時無呼吸症候群も高血圧の原因の一つだとされています。睡眠時に呼吸が何度も停止してしまうため、交感神経が優位になり、通常は夜間に下がるはずの血圧が上がってしまうからと考えられています。夜間高血圧や早朝高血圧の原因ともいわれているのです。
高血圧によって、目に障害が起こる場合もあります。眼底の網膜の血管が詰まってしまうことがあるからです。網膜の血管が詰まって出血する眼底出血を起こすと、視野が欠損するなどの障害が起こってしまいます。
このように、症状が現れていないからといって高血圧を放置すると、さまざまな病気につながってしまうリスクを背負って生きていくことになるのです。

高血圧に対応するには?――家庭血圧の重要性

このように、実は怖い高血圧。「健康診断で測ったら大丈夫だった」と安心している人もいるでしょう。しかし、血圧というのは常に変動しています。多くの人は通常、朝の血圧は低く昼は高くなり、夕方から夜にかけて低くなっていきます。また、一般的に夏は低く、冬は高くなります。そのため、年に1回血圧を測ったからといって、まったく安心できないのです。
また、医療機関で測ると血圧が高めになる「白衣高血圧」、職場で血圧が上昇する「職場高血圧」といった状態が知られていますが、普通は夜に下がるはずの血圧が高いままになってしまう「夜間高血圧」、早朝になっても下がらない「早朝高血圧」などは、健康診断や医療機関で血圧を測っても把握できないケースがほとんどです。

そういった場合に重要視されるのが「家庭血圧」です。家庭血圧とは、文字通り自宅で測った血圧のこと。朝起きてトイレに行った後、食事前、薬を服用する前に血圧計で測ってみましょう。できるだけ長い期間、朝晩2回ずつ測定し、記録しておくことをお勧めします。
家庭で血圧を測るメリットは実際に証明されています。健康診断で測定した血圧より、家庭で測った血圧のほうが、脳卒中リスクの予測能力の高いことが証明されているのです※5。家庭で血圧を測ることを習慣にし、その数値を医療機関に持参すれば、一層適切な対応が可能になるのです。

高血圧の原因で取り上げられるものの筆頭が塩分の摂取量です。塩分を摂りすぎると血液中のナトリウムが増えてしまい、これを元に戻そうと細胞から水分が浸透し、循環している血液量が増加します。増えた血液を送り出そうと心臓が通常より多く働くことになり、血圧が上がってしまうのです。
また、血液中に増えたナトリウムや水分をろ過するのが腎臓です。心臓は腎臓に濾過させるため、大量の血液を送り込みます。そんな状態が長く続くと腎臓に負担がかかり、疾患につながったり、腎臓の血管が動脈硬化を起こして高血圧を悪化させるという悪循環に陥ってしまいます。
厚生労働省が公表している18歳以上のナトリウム(食塩相当量)の目標量は、1日あたり男性8g未満、女性7g未満とされています※6。しかし実際の食塩摂取量は男性は10.9g、女性は9.2g(いずれも20歳以上)※7と、目標から大きく乖離している状態です。ちなみに世界保健機関(WHO)が推奨しているのは5g未満。いかに日本人の塩分摂取量が多いかわかるでしょう。摂り過ぎたナトリウムを体外に排出するために、カリウムを摂取することも忘れてはいけません。
塩分だけでなく、加齢やストレス、運動不足、喫煙、アルコールの過剰摂取などでも高血圧は進行します。加齢以外に関しては、生活習慣などを見直すことで、対応しましょう。

女性の場合、閉経以降に高血圧になりやすいという面もあります。女性ホルモンの一つであるエストロゲンには血管を拡張させ、しなやかに保つ働きがあります。しかし閉経を迎えてエストロゲンの分泌が減少すると、血圧が上がりやすくなってしまうのです。一般的に更年期以前の女性の血圧は、男性より低めです。しかし更年期以降に高血圧になるリスクは、男性と変わらなくなってしまいます。また、更年期になると、精神的に不安定だったり睡眠不足などが重なってしまうこともあり、これらが血圧を上げる原因となる場合もあります。さらに、閉経後に高血圧になると、脂質異常症など代謝異常を伴うことが多いため、気をつけなければいけません。

高血圧の対策は、減塩、運動、禁煙、アルコール過剰摂取の抑制などです。これらは「どれか一つをやればいい」というものではありません。むしろ「すべてを行ったほうがいい」といえるでしょう。
高血圧を放っておくか、対策をすぐ始めるか。答えは明らかなはずです。

※5 Ohkubo T, et al. J Hypertens, 2004 ;22:1099

※6 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2015年版)」より

※7 厚生労働省「平成26年国民健康・栄養調査」より

このコラムは、掲載日現在の内容となります。掲載時のものから情報が異なることがありますので、あらかじめご了承ください。

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