vol.163 食後高血糖を抑える「セカンドミール効果」って何?

はじめよう!
ヘルシーライフ

野菜を最初に食べる「ベジファースト」は、今や“常識”とまでいわれています。1度の食事だけを考えると、野菜から食べることはもちろん健康効果を期待できるやり方です。でも、それに加えて「セカンドミール効果」を考えてみてはいかがでしょう。これは、朝食で糖質が少なく食物繊維が豊富なメニューを選ぶと、食後高血糖が抑えられるだけでなく、昼食後でも血糖値を抑える効果があるという理論です。それはどんなものでしょうか。
探っていくことにしましょう。

vol.163 食後高血糖を抑える「セカンドミール効果」って何?

食後に血糖値が上がるのは自然なこと。でも……

通常、食事をすると血糖値は上昇します。そして、食後の血糖値が高いと糖尿病になりやすいだけでなく、動脈硬化が進行したり、太りやすくなるともいわれています。ではどうすればいいのでしょうか。
食事をすると血糖値が高くなりますが、健康な人の場合はインスリンがすぐ分泌され、血液中のブドウ糖がさまざまな臓器や細胞に取り込まれるため、食後約2時間以内には正常値に戻ります。しかし、インスリンの分泌が十分でなかったり、働きが悪いと血糖値が下がりにくくなります。そのため、食事をして2時間後に測った血糖値が140mg/dl以上の場合には、食後高血糖と判断されます※1。
食後の血糖値が高いと、糖尿病の発症リスクが高くなるといわれています。また、食後高血糖によって活性酸素が産生され、血管が酸化ストレスにさらされてしまうため、動脈硬化のリスクも高くなるとされています。動脈硬化は、空腹時の血糖値より食後の血糖値が高いことのほうが大きな影響を及ぼすともいわれています。動脈硬化は高血圧を引き起こすケースが多く、将来的には心筋梗塞や脳卒中という恐ろしい病気を引き起こしかねませんので注意が必要です。また、血液中のブドウ糖がエネルギーとして使い切れずに余ったままでいると、脂肪組織などに運ばれ脂肪として蓄えられてしまいます。これが太る原因の一つです。さらには、食後高血糖が認知症のリスクを高めるとする報告もあります。食後の血糖値を抑えることは、さまざまな疾患のリスクを抑えることにつながるのです。

私たちが健康診断で計測するのは、空腹時血糖値です。ちなみに空腹時血糖値(110mg/dl以上※2)は、メタボリックシンドロームを診断する基準の一つになっています。しかし、空腹時には正常値でも、食後の血糖値が高ければ糖尿病や動脈硬化のリスクにさらされることに変わりはありません。
糖尿病に関しては、空腹時血糖値が110mg/dl未満で、食事2時間後の血糖値が140mg/dl未満の場合には正常型と判定されます。そして空腹時が126mg/dl以上、または食事2時間後が200mg/dl以上の場合には糖尿病型と判定されます。この「正常型」と「糖尿病型」の間の場合は「境界型」とされますが、心配な点は、この境界型にはメタボを伴うケースが多いとされていることです※3。

※1 厚生労働省 e-ヘルスネットより

※2 日本肥満学会、日本糖尿病学会など8学会による合同基準

※3 日本糖尿病学会「糖尿病治療ガイド2016-2017」より

1日の最初の食事で何を食べる?

さまざまな研究結果から、食事の最初に野菜を食べると食後の血糖値が上がりにくくなるとされています。野菜を最初に食べ、次にたんぱく質が豊富な魚や肉、卵類、そして最後に炭水化物を摂るベジファースト(食べる順番ダイエット)なども、そうした効果を活用したものといえるでしょう。
1度の食事に対する考え方はそのとおりです。それに対して「セカンドミール効果」は、1回目の食事が2回目の食事(セカンドミール)にも影響を与えるという考え方です。セカンドミール効果は、1982年にカナダ・トロント大学のジェンキンス博士によって発表されました。1日のうちで最初に摂った食事が、2回目の食後血糖値にも影響を及ぼすという理論です。

では、セカンドミール効果のある朝食とは、どんなものなのでしょうか。
シリアルが朝食にいいという報告があります。なかでも、麦類などの穀物にナッツやドライフルーツなどを加えたグラノーラを勧める専門家もいます。穀物は炭水化物が多く、カロリーも低くはありません。しかし、大麦やオートミール(えんばく)は精製された小麦粉や白米より食物繊維を多く含んでいるのです。
100g中の成分を確認すると、大麦の炭水化物は72.1~77.8gで、そのうち食物繊維は8.7~10.3g、オートミールの炭水化物は69.1gで、そのうち食物繊維は9.4gとなっています。これに対して“全粒粉以外の小麦粉”の炭水化物は70.6~75.8gで、そのうち食物繊維は2.1~2.8g、白米(うるち米)の炭水化物は77.6gで、そのうち食物繊維は0.5gしかありません。ヘルシーメニューとして最近、小麦粉なら全粒粉を選ぶ傾向が見られますが、実際、全粒粉であれば炭水化物68.2g中、食物繊維は11.2g含まれています※4。
また、グラノーラにはナッツやフルーツが加えられている場合が多く、これらによって多彩な栄養素を摂ることができます。グラノーラに乳製品などを加えれば、朝食として十分だとする専門家もいるのです。同じシリアルでも、単一の食材で作られたものより、グラノーラのほうが栄養バランスは優れているといえそうです。

もちろん、「パンとコーヒーだけ」とか「ごはんとお茶だけ」という食事では、セカンドミール効果はあまり望めません。ただし、同じパンでも全粒粉が使用されていたり、ライ麦などを材料としていれば、精製された小麦より期待できそうです。ごはんの場合も精白米だけでなく、麦ごはんや発芽玄米などを組み合わせることを考えましょう。100gの発芽玄米には74.3gの炭水化物の中に食物繊維は3.1gと、精白米の6倍以上含まれているからです※4。

炭水化物を構成しているのは糖質と食物繊維です。「糖質オフダイエット」を否定する意見の中には「炭水化物を制限すると食物繊維の摂取も減少してしまうから、健康に悪影響を与えかねない」という理由もあるようです。また、糖質を抑えようとして炭水化物を制限するあまり、脂質やたんぱく質を摂取しすぎる懸念も指摘されています。セカンドミール効果を望む朝食を摂る場合も、バランスを考えながら行うのがよさそうです。

※4 文部科学省「日本食品標準成分表2015年版(七訂)」より

豆類のセカンドミール効果は?

豆類のセカンドミール効果を調査した研究があります。
1日の1食目に大豆焼き菓子、せんべい、何も食べないという3つのグループに分け、3時間後には3グループとも同じ市販栄養食品を食べるという実験を行ったところ、大豆焼き菓子を食べたグループは、1回目の食後だけでなく、2回目の食後の血糖値も下がったという結果が得られたといいます。2回目の食事30分後の血糖値は上がるのですが、60分後や120分後はせんべいや何も食べないというグループより低くなっていたのです※5。これはセカンドミール効果によるものと考えられます。

21~22歳の男女が「普段の朝食」を摂取したのち昼食にごはんとお茶を摂取、翌週は「普段の朝食+豆乳400ml/普段の朝食+納豆90g」を摂取したのち昼食にごはんとお茶を摂取して、それぞれの食後血糖値を比較した研究もあります。その結果、豆乳400mlを摂取した場合は昼食後30分の血糖値が低くなり、納豆90gを摂取した場合は、昼食後15分、30分、45分の血糖値が低くなりました。この結果から、豆乳や納豆を摂取しなかった場合より、摂取した場合の方が血糖上昇を抑えられ、不溶性の食物繊維が関与する可能性があると考えられました※6。
ところが翌年、同じ研究グループが朝食にごはんと一緒に豆腐400gまたは納豆90gを摂取した場合と、大豆製品を摂取しない場合とを比較したところ、昼食後の血糖上昇抑制効果は見られず、セカンドミール効果はなかったと報告されています※7。
セカンドミール効果があった場合となかったとされる研究結果の違いについて、理由はまだわからないとされていますが、朝食の量やほかの栄養素がかかわった可能性があるといいます。

セカンドミール効果に関しては、まだ明らかになっていないことも多いのですが、最初の食事で血糖値やインスリン濃度の上昇を抑制すると、2回目の食事で摂取した後の反応も改善することが、世界中で数多く報告されています※8。少なくとも暴飲暴食を避けて、糖質が少なく食物繊維の多い食事を心がけることは、食後高血糖を抑制できる可能性が高いといえます。特に仕事が忙しくて昼食を“手抜き”しがちな人にとって、朝食であらかじめカバーできる可能性があるなら、トライする価値は十分にあるはずです。食後高血糖になるような食生活を毎日続けていたら、糖尿病やメタボをはじめとした生活習慣病のリスクが高まってしまうからです。
簡単にいうと、朝食のメニューをしっかり考えれば、昼食はサンドイッチやパスタ・麺類、丼物だけといった簡単な外食ですませても、昼食後の血糖値を抑えられる可能性があるということになります。これなら、手抜きメニューの昼食に対する罪悪感が軽くてすむのではないでしょうか。「ベジファースト」を実践している人も、「ファースト」は食事の最初という意味だけでなく、「1日の最初の食事」という意味もあるのではないかと考えましょう。

※5 大塚製薬株式会社「GIについて学ぼう!」(五十嵐脩 お茶の水大学名誉教授)より

※6 愛知学院大学心身科学部紀要第8号(53-58)(2012)「健常大学生における豆乳・納豆のセカンドミール血糖上昇抑制効果」(末田香里 伊藤みゆき 酒井映子)より

※7 愛知学院大学心身科学部紀要第9号(31-38)(2013)「健常大学生における朝の豆腐・納豆食が昼の米飯摂取後の食後血糖に及ぼす影響―大豆製品のセカンドミール血糖上昇抑制効果(2)―」(末田香里 酒井映子 宇野智子 佐藤祐造)より

※8  Jenkins DJ, Wolever T M, Taylor RH et al: A slow release dietary carbohydrate improves second meal tolerance. Am J Clin Nutri 1982; 35: 1339-46 などより

GI値とは何?

セカンドミール効果を発表したジェンキンス博士は、GI値を提唱したことでも知られています。GI値とは、ブドウ糖の血糖上昇率と比較して、食品ごとにどれほど血糖値を上昇させるかを数値化したものです。ブドウ糖を100とした場合、80以上はGI値が高く、49以下は低いという形で分けられます(50~79は中間=中GI値)。つまり糖質を多く含む食品ほどGI値が高く、血糖値を上昇させやすいことを意味しています。

では、GI値の高い食品、低い食品とはどんなものでしょうか。
主食でGI値が高いものはパンや精白米、うどんなどです。低いのは全粒粉のパスタや玄米がゆなどです。つまり、精製された小麦粉や米などは、GI値が高くなる傾向があることがわかります。そばや玄米などは中間に分類されます。
野菜でもGI値が高いものがあります。ジャガイモやニンジンなどです。中GI値の野菜類はカボチャやトウモロコシ、里芋、さつまいもなどが挙げられます。根菜やイモ類は、GI値が中間から高いものが多いといえます。トマトやキャベツ、タマネギ、レタスなどは低GI値の野菜です。根菜類のなかでも大根はGI値が低い食材です。
魚・肉類ではGI値の高いものは少なく、ほとんどが低GI値の食品です。中GI値の食品ではかまぼこ、ちくわといった魚肉加工品とウニなどが挙げられます。牛レバーやベーコン、チャーシューも中GI値です。
きのこ類と海藻類、乳製品は全般的にGI値が低いため、血糖値が気になる場合には、これらの食品を積極的に摂るようにしましょう。 チョコレートやドーナツ、キャンディなどはGI値が高く、クッキーやポテトチップスも低くはありません。これらの食品を朝食代わりにしたり、間食で食べ続けることは避けたほうがいいでしょう。

GI値の低い食品を多く摂ることが、血糖値の急上昇を防ぐことに結びつきます。そして、朝食で血糖値の上昇しにくい食品=低GI値の食品を食べると、昼食後の血糖値の上昇を抑える効果が期待できるとジェンキンス博士は唱えています。
もちろん、昼食にもバランスのとれた食事を摂るに越したことはありません。しかし、時間に追われる現代人にとって、1日3食すべてをバランスのとれた食事にすることはなかなか難しいでしょう。ならばせめて朝食を重視することで、生活習慣病などのリスクを減らせるようにするのが合理的ではないでしょうか。

このコラムは、掲載日現在の内容となります。掲載時のものから情報が異なることがありますので、あらかじめご了承ください。

関連コラム

商品を見る