OMRON All for Healthcare

2017.04.10

vol.166 「異所性脂肪」っていったい何?

LINEで送る 一覧に戻る
Vol.166 「異所性脂肪」っていったい何?

皮下脂肪、内臓脂肪に続く“第三の脂肪”として、「異所性脂肪」が話題になっています。皮下脂肪も内臓脂肪も、その名前からどこに蓄積されるかわかりやすいでしょう。それに対して異所性脂肪は、同じ中性脂肪でも本来たまるはずのない場所に蓄積されます。そして異所性脂肪を放っておくと、生活習慣病につながってしまう危険性が指摘されているのです。そんな異所性脂肪の正体とは?

「太る」だけではすまない異所性脂肪の影響

最近、体脂肪のなかでも「異所性脂肪」というものが注目されています。皮下脂肪、内臓脂肪と同じ中性脂肪ですが、この二つに続く“第三の脂肪”、あるいはテレビ番組などで“場違い脂肪”とも呼ばれています。
皮下脂肪はその名のとおり、皮膚の下にある皮下組織につく脂肪のこと。体温を維持したり、エネルギーを貯蔵したり、外からの衝撃に対するクッションの役割を果たします。また、内臓脂肪はおもに腸間膜に蓄積される脂肪です。内臓脂肪がたまるとお腹がポコッと出てきますが、その腹囲がメタボリックシンドロームの診断基準の一つになっています。

それに対して異所性脂肪は、皮下脂肪や内臓脂肪の脂肪組織に入りきらなくなった脂肪が“本来たまるはずのない場所”に蓄積されたものです。その場所とは、心臓や肝臓、膵臓といった臓器自体やその周囲、さらには筋肉(骨格筋)などです。最初に皮下脂肪、次に内臓脂肪、そして最後に異所性脂肪という順番で蓄積されていくとされていますが、一方では内臓脂肪と並行して異所性脂肪が蓄積されていくという見解もあります。いずれにせよ、皮下脂肪組織に入りきらなくなった脂肪が、内臓脂肪だけでなく異所性脂肪となって蓄積されることになります。

日本人は欧米人に比べて、皮下脂肪がたまりにくいといわれています。言い換えると、皮下脂肪組織に脂肪を蓄積する能力が低いということです。それは、皮下脂肪があまり増えず太りにくい代わりに、内臓脂肪や異所性脂肪が蓄積しやすいことを意味しているのかもしれません。日本人は、あまり太っていないのに生活習慣病になってしまう人が増えているのも事実です。
内臓脂肪が蓄積されると、さまざまな生活習慣病につながってしまう危険性が問題視されていますが、異所性脂肪についても同様のリスクが指摘されています。そして、異所性脂肪が内臓脂肪以上に危険視されているのは、臓器に蓄積した場合に、その臓器が持つ本来の機能を悪化させると考えられているからなのです。

内臓に異所性脂肪がたまるとどうなるの?

異所性脂肪の代表的なものが脂肪肝です。お酒を飲まない人でも脂肪肝になる場合があり、それが非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)です。NAFLDの多くは肥満、糖尿病、脂質異常症、高血圧などを基盤に発症することから、メタボリックシンドロームの肝病変としてとらえられています。NAFLDは組織学的に大滴性の肝脂肪変性を基盤に発症し、病態がほとんど進行しないと考えられる非アルコール性脂肪肝(NAFL)と、進行性で肝硬変や肝がんの元にもなる非アルコール性脂肪肝炎(NASH)に分類されます※1。そしてNAFLDの脂肪蓄積の程度は、内臓脂肪の蓄積と比例していることがわかっています※2。つまり、内臓脂肪が蓄積されるのと並行して肝臓にも脂肪がたまり、それがのちに肝硬変や肝がんの原因にもなりかねない、ということなのです。

また、異所性脂肪は心臓の周辺、心筋細胞内・外、心外膜周囲にも付着します。すると心臓に酸素や栄養を運ぶ血管に悪影響を与えることがあり、最悪の場合、心筋梗塞などを引き起こす原因になるとも考えられています。男性では特に、加齢とともに心臓周囲脂肪量が蓄積する傾向があるとされています※3。また、異所性脂肪蓄積によって肝臓や筋肉の慢性炎症が起こったり、インスリンの働きが悪くなることで、脂質異常症、耐糖能障害、高血圧症のリスクが重なり、心臓血管病が起こりやすくなると想定されています※4。
そのほか、異所性脂肪は糖尿病との関連も指摘されているなど、生活習慣病の新たな原因の一つとして注目されているのです。

※1 NAFLD/NASH診療ガイドライン2014(日本消化器病学会)より

※2 編者:小川佳宏 著者:河田純男「異所性脂肪と肝臓」異所性脂肪――メタボリックシンドロームの新常識 第2版 日本医事新報社 より

※3 島袋充生、佐田政隆「異所性脂肪と心臓血管病」糖尿病の最新治療Vol.4. No.4 2013より

※4 島袋充生「異所性脂肪と心臓脂肪」 医学のあゆみVol.250 No.9 2014. 8. 30 より

筋肉にも脂肪がつくってどういうこと?

臓器以外で異所性脂肪が蓄積されるのが骨格筋です。骨格筋とは、関節につながる骨について運動をしたり体幹を支えたりする筋肉です。心臓は心筋と呼ばれる筋肉でできていますし、血管などにも平滑筋という筋肉があります。これらは自律神経に支配されており、意識的に動かせるものではありません。それに対して骨格筋は、意識的に動かせる“随意筋”です。

では骨格筋に異所性脂肪がたまると、どうなるのでしょうか。骨格筋は食事で摂取した糖質を吸収し、エネルギーとして蓄えています。しかし、骨格筋に異所性脂肪がたまるとその働きが低下して、インスリンの働きが悪くなってしまいます
骨格筋にたまる異所性脂肪にも、骨格筋に入り込んだ脂肪細胞にたまる脂肪と、骨格筋細胞の中にたまる脂肪との二種類があるといいます。このうち、骨格筋に入り込んだ脂肪細胞にたまる脂肪は、CTスキャンの画像で見ると霜降り肉状態で白く見えます。しかし、筋細胞のなかの脂肪は見えず、この脂肪が多い人ほどインスリンの働きが悪いということもわかっているのです※5。つまり、臓器ではなく骨格筋に脂肪がたまることでも、糖尿病のリスクが高くなってしまうことになります。

持久力トレーニングを継続的に行っているアスリートは、骨格筋に異所性脂肪が蓄積されている人でもインスリンの働きが良いという例外もあります。これを「アスリートパラドックス」といいます。また、運動習慣のある人で、日常身体活動量が多い人ほど、骨格筋細胞内脂質の増加が多かったといいます※6。なぜ骨格筋に脂肪が蓄積されるのか、まだすべてが明らかになっているわけではありません。しかし現在、さまざまな研究が進められていますので、今後に期待しましょう。

話は横道にそれますが、「アスリートの筋肉に脂肪がたまる」というのも不思議ですが、同じくらいに信じられないのが「アスリートは風邪をひきやすい」という事実です。アスリートは体を鍛えているはずなのになぜ? と思うでしょう。ほどほどの運動は免疫力を高めるのですが、ハードなトレーニングを継続するアスリートは免疫を司る重要な細胞の一つ、ナチュラルキラー(NK)細胞の活性が下がることなどで、かえって風邪をひきやすくなるのです。過激な運動で筋肉が損傷するためこれを修復しようと免疫が働き、炎症を起こしたりします。また、疲労物質が産生されたり、運動によるストレスで自律神経系などにも影響を与えます。これらによって免疫力の低下がもたらされると考えられているのです。人間の体は、実に不思議なものですね。

※5 小川佳宏 「日本人なら知っておきたい『異所性脂肪』の恐怖」より

※6 編者:小川佳宏 著者:田村好史「骨格筋からみた異所性脂肪と糖尿病」異所性脂肪――メタボリックシンドロームの新常識 第2版より

異所性脂肪を減らすことはできるのか?

エネルギーを摂りすぎると、脂肪細胞はサイズを大きくしたり、細胞数を増やしたりして脂肪蓄積量を増大して対応します。しかし、それには限界があります。やがて皮下脂肪や内臓脂肪の脂肪細胞からあふれた脂肪は血液中に遊離脂肪酸として流れ、ほかの臓器や筋肉に蓄積してしまいます。実際、肝臓に蓄積する脂肪の約3分の2が脂肪組織由来のものであると考えられています※7。

脂肪が蓄積される順番から、皮下脂肪より内臓脂肪や異所性脂肪のほうが落としやすいと考えられています。ただ残念ながら現時点では、異所性脂肪をどのように減らしていくかについての定説はありません。しかし、代表的な異所性脂肪といえる脂肪肝は、食事、運動療法による減量で早期に改善できることから、内臓脂肪の減少などとの関係の解明が治療に有効ではないかと期待されています※8。つまり、内臓脂肪が増えてしまうような食事習慣や運動不足を改善することです。
2型糖尿病の人に対して運動療法を行ったところ、明らかな効果が得られたという報告もあります。そのケースの場合、増加した運動量は平均160kcalで、歩数にすると3000~5000歩程度の運動です。それでもたった2週間で、骨格筋細胞内脂質量を約20%も低下できたというのです※9。

日本人は見た目や体重で太っていなくても、異所性脂肪をため込んでしまっている人が少なくないと考えられます。現時点、異所性脂肪についてはまだ明らかになっていないことも多く、減らす方法などを含めて研究が進められています。今後の研究結果でさまざまなことがわかり、私たちの健康生活に役立つことを期待しましょう。

※7 池田賢司・小川佳宏「白色脂肪組織の機能制御とその破綻」医学のあゆみVol.252 No.5 2015. 1. 31 より

※8 編者:小川佳宏 著者:宮﨑滋「異所性脂肪を減らすには」異所性脂肪――メタボリックシンドロームの新常識 第2版より

※9 田村好史「肥満症と異所性脂肪」最新医学 第68巻第1号 2013.1 より


shadow
このページの先頭へ戻る