vol.167 無理なくできる減塩の手引

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高血圧の予防はもちろん、むくみ対策にも役立つ減塩は、すぐにでも実行したい健康法の一つ。しかし「減塩を心がけているけれど続かない」「減塩食を試してみたけれどおいしくなかった」といった声がよく聞こえてくるのも事実です。では、どうすれば減塩を続けられるのでしょうか。そのヒントをお伝えします。

vol.167 無理なくできる減塩の手引

減塩のメリットは?

バランスのとれた食事を取っていても、日本人は塩分を取り過ぎる傾向があります。私たちの“ソウルフード”には醤油や味噌、漬物がつきものです。また、揚げ物などに使うソースやラーメンなど麺類の汁にも、塩分が多く含まれています。
WHO(世界保健機関)は、塩分摂取目標を一律1日5gとしています。これに対して日本では、1日の塩分摂取量を男性8.0g未満、女性7.0g未満(ともに18歳以上)を目標としています※1。ところが実際の塩分摂取量は、20歳以上1日平均で10.0g※2と、世界基準から考えるとほぼ倍の塩分を毎日取っていることになります。

塩分を取り過ぎると、さまざまな生活習慣病のリスクが高まります。
その一つが高血圧です。塩分を取り過ぎると血液中のナトリウムが増えます。これを一定の濃度にしようと血管内に周囲の水分が引き込まれるため血液の量が増え、血管壁に圧力がかかり血圧が上がってしまいます。また、ナトリウムは交感神経を刺激するため、血管が収縮するなどして血圧が上がってしまいます。1日に1g減塩するだけで、収縮期血圧を約1mmHg低下させることが可能だという報告もあるほど、血圧と塩分は密接に関係しているのです。

高血圧は動脈硬化と裏表の関係にあります。高血圧が進行すると、動脈硬化も一層進行するリスクが高まります。そこに“ドロドロ血液”の脂質異常症が重なると、悪循環をもたらします。さらには、内臓脂肪型肥満の人に高血圧と脂質異常症が重なると、メタボリックシンドロームのリスクが高まります。
動脈硬化は脳梗塞、心筋梗塞などの原因になります。同じ血圧であっても、塩分を多く取っている人のほうが脳卒中になりやすいというデータもあります※3。また、腎臓は末梢血管が多いため、高血圧や動脈硬化の影響を受けやすくなっているため、腎臓疾患のリスクも高まります。塩分の取り過ぎを防ぐ目的は、高血圧対策だけではありません。さまざまな生活習慣病の予防にもなるのです。

生活習慣病だけではありません。「撮影の前は塩分を控えるようにしています」という女優やモデルの人がいます。これは“むくみ対策”のためです。塩分を取り過ぎると塩分濃度のバランスをとるため、体は水分をため込みます。それがむくみとなって現れる場合があるからです。
もちろん立ち仕事を続けていたり、お酒を飲み過ぎた翌日にもむくみが起きることがあります。うっ血性心不全といった心臓病や、肝臓、腎臓の疾患でもむくみが見られることがあります。しかし、塩分の取り過ぎでもむくむのです。塩分に気をつけるだけでむくみを抑えることができるなら、減塩を心がけようという気になるのではないでしょうか。

※1 「日本人の食事摂取基準(2015年版)」(厚生労働省)より

※2 平成27年「国民健康・栄養調査」(厚生労働省)より

※3 「減塩食について」(国立循環器病研究センター)より

県を挙げて減塩に取り組んだ例

県を挙げて減塩に取り組んだ自治体があります。そのなかでもよく知られているのが秋田県と長野県の例です。
従来、秋田県では脳血管疾患による死亡率が全国一高く、全国平均に比べ、男女とも2倍近い高さを示していました。このため脳卒中を県民病と位置づけ、塩分の取り過ぎと栄養の偏りを改善することに取り組んだのです。
昭和27年には大学のチームによる高血圧の調査研究が始まり、昭和30年には栄養士がキッチンカーに乗り込み屋外で栄養改善指導を実施、昭和50年代には地域の集会所にも調理室を設置し、同時に低塩キャンペーン「しょっぱくない食生活運動」などの取り組みが行われました。塩漬け加工品や漬物、麺類の汁や“しょっぱい味噌汁”の摂取などを改善した結果、昭和40年代には1日23g程度だった塩分摂取が平成18年には11.3gに減少し、全国平均(当時)とあまり変わりのない数値となりました。そして全国で一番高かった脳卒中の死亡率に関しては、平成17年には男性3位、女性10位と改善しているのです。

脳卒中と食生活の関連を調べるために、昭和42年から県民の健康・栄養調査をスタートさせたのが長野県です。そして主婦の1日の塩分摂取量が15.9gであることがわかり、昭和55年には県民減塩運動が開始されました。味噌汁や漬物、佃煮を含めた食事の塩分濃度を測定したり、保健所で栄養教室を開催するなどの取り組みが行われた結果、平成22年には1日の塩分摂取量は男性12.4g、女性10.8gにまで減少しました。また、減塩運動と同時に野菜摂取を増やす啓発活動や運動不足対策、健康診断の受診率を上げる活動なども行われ、それらの結果、平均寿命は男女とも全国1位になりました※4。ちなみに、昭和40年の長野県の平均寿命は男性が9位、女性が26位でした。

※4 「平成22年都道府県別生命表の概況」(厚生労働省)より

減塩を成功させるには?

知らず知らずのうちに、塩分量の多い食品を食べていることはないでしょうか。また、食べ慣れたものが実は、多くの塩分を含んでいたということはないでしょうか。これらを見直すだけでも減塩につながります。
ハムやベーコンといった肉の加工食品、ちくわやかまぼこなどの練り物には塩分が多く含まれています。1週間にこういった食品をどれだけ食べたか、量や回数をチェックしてみましょう。 カレー粉自体や粉ワサビ、粉辛子には塩分がほとんど含まれていませんが、ほとんどの市販カレールウやレトルトのカレーには1食分で2.0~2.8g前後の塩分が含まれており、大半のチューブタイプワサビや辛子にも塩分が含まれています。カレー粉や粉ワサビの塩分が少ないからといって、勘違いをしないように注意しましょう。
また、味付きポン酢や顆粒の和風出汁にも塩分が含まれています。普段の調味料をポン酢に替えたり、薄味で調理しようと顆粒の和風出汁を多用したりしても、減塩の効果はあまりありません。これらを使いたい場合、減塩タイプを利用してはいかがでしょうか。商品パッケージに記載されている栄養成分表示の「食塩相当量」を確認することも、減塩の第一歩です。

玄米も精白米もご飯は塩分0ですが、パン類には塩分が含まれています。食パンは1.3g、フランスパンは1.6g(いずれも100gあたりの食塩相当量。以下、パスタまで同様)です。茹でたうどんや中華麺には0.2~0.5gの塩分が含まれています。パスタ自体の塩分は0ですが、1.5%の食塩水でゆでると1.2gの塩分が含まれます※5。主食の選び方にも注意が必要、ということです。
健康にいいからナッツ類を食べようという場合は、食塩不使用のものにしましょう。クラッカーもノンソルトタイプを選ぶといいでしょう。例えばあんを使用したまんじゅう類にも、甘さを引き立てるために食塩を加えている場合がありますので、心得ておきましょう。

「漬物に醤油をかける」「カレーライスにソースをかける」「塩鮭や鯖塩に添えられた大根おろしに醤油を真っ黒になるまでかける」といった食習慣を当たり前のようにしている人はいないでしょうか。
「焼きそばパン」「ラーメンライス」「お好み焼きをおかずにご飯を食べる」といった“炭水化物の重ね食べ”は、ダイエットの敵になるなど健康に悪影響を与えるから、避けようとする人が多いと聞いています。これと同じことで、漬物に醤油をかけるような人は“塩分の重ね食べ”をしているのではないでしょうか。こういった食べ方を癖にしている人は、濃い味に慣れてしまっていることが考えられます。そんな場合は、まず醤油やソースを食卓に置かないようにすることから始めましょう。ちなみに、醤油大さじ1杯で2.0~2.8g前後、ソース大さじ1杯で1.0~1.8g前後の塩分が含まれています。これらの調味料を毎食大さじ1杯使うと、それだけで1日の塩分摂取目標量の半分を占めることになってしまいます。

減塩の基本は、よく知られているとおり「薄味に慣れる」ことです。

  • 出汁をしっかり取って、塩分を多く含む調味料を多用しない
  • レモンやすだちなどかんきつ類の果汁、酢などを効果的に利用する
  • コショウなどの香辛料を利用する
  • 大葉やみょうが、ハーブなどの香味野菜を活用する

などの工夫で、減塩でも風味豊かな食事を楽しむことができます。調理の際に、調味料をちゃんと計量することも重要です。
また、醤油やソースはかけて食べるのではなく、小皿に入れてから、“つけて食べる”ようにすれば、塩分摂取量を減らすことが可能になります。また、寿司や刺し身を食べるときには、醤油を付けた側を舌に当たる向きにして食べると、少量の醤油でも味を先に感じることができます。ほかの調味料でも同様に試してみることをおすすめします。
もちろん麺類の汁を半分以上残すなど、これまで当たり前のようにしてきた食習慣を改めることも必要です。

しかし、毎食減塩では物足りない、という人もいることでしょう。そんなときに覚えておきたいのが、「夕食なら少しだけ塩分摂取が多くなっても、体への影響は少ない」という見解があることです。これは、ナトリウムの排泄を抑制して体内に留める働きのあるホルモン・アルドステロンの分泌される時間帯にかかわっているからだとされています。とはいえ、夕食だから塩分を大量に摂っても大丈夫、などと過信しないようにしましょう。

※5 「日本食品標準成分表 2015年版(七訂)」(文部科学省)より

味噌汁は高血圧に対して実際はどうなのか

味噌汁には1杯1.0~1.5gの塩分が含まれています。そのため、味噌汁を飲んだら減塩に結びつかない、という意見もあります。それに対して、日本高血圧学会で発表された内容は、味噌汁が体に良い影響を与えるというものでした。
まず、5日間で味噌汁を0~2回、3~5回、6~15回飲んだ3つのグループに分け、血圧を計測したところ、味噌汁摂取頻度による血圧の違いはありませんでした。
また、全体の食塩摂取量に対して、味噌汁の寄与する割合はわずか2%。調味料・香辛料が14%であるのに対して、味噌汁の塩分が与える影響はわずかだということが示されたといいます。
さらに、1日1杯程度の味噌汁のある食生活が、血管年齢を10歳程度改善する傾向が確認できたというのです※6。
味噌は発酵食品です。また、アミノ酸やビタミン、亜鉛をはじめとしたミネラルも豊富に含まれています。塩分という理由だけで、味噌汁を遠ざけることは賢明ではないかもしれません。
どうしても塩分量が気になるという人は、具だくさんの味噌汁にして汁を少なめにするといった工夫をすることをおすすめします。また、減塩の味噌を使って物足りなさを感じた場合は、味噌汁なら山椒、豚汁類には七味唐辛子を振り、風味を加えるといった工夫をしてみてはいかがでしょう。

塩分を取り過ぎたと感じたら、野菜や豆類、魚などカリウムが豊富な食品を積極的に取りましょう。カリウムには、余分な塩分を排出する働きがあります。つまり、カリウムを摂取することは、体内で減塩を実行することと同じことになります。
また、カルシウムやマグネシウムも血圧の安定に役立ちます。イカやタコに含まれるタウリンには、血圧上昇ホルモンの分泌を抑える作用があるといわれています。
これらの食品を活用しながら、徐々に減塩に慣れていくことが、長続きする一番の方法ではないでしょうか。

※6 上原誉志夫「みそ汁の塩分 血圧に影響せず」(第36回日本高血圧学会総会/平成25年10月26日発表)より

このコラムは、掲載日現在の内容となります。掲載時のものから情報が異なることがありますので、あらかじめご了承ください。

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