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2017.11.10

vol.173 歯が溶ける? 酸蝕歯に気をつけよう

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Vol.173 歯が溶ける? 酸蝕歯に気をつけよう

近年、「酸蝕歯(さんしょくし)」が問題となっています。これは、酸が原因で歯が溶けてしまうことがあるというものです。なぜそんなことが起こるのでしょうか。また、どんなことに気をつければいいのでしょうか。

歯を失う原因の一つ。それが酸蝕歯

虫歯や歯周病に続いて、歯を失う原因の1つに酸蝕歯があります。酸性が強いものを食べたり飲んだりすると、酸によって歯が溶け出してしまうリスクがあるというのです。歯科の専門用語では「脱灰(だっかい)」といいますが、歯のエナメル質からリン酸カルシウムの結晶が溶け出してしまうことです。
こういう症状を酸蝕症といいますが、非常にゆっくりと進行するため、これまでは大人になってからなるものだと思われてきました。しかし、子どもの食生活環境が変わったことなどから、大人だけでなく、子どものうちから酸蝕症になってしまう例が起き始めいていると警鐘を鳴らす専門家も少なくありません。

酸性かアルカリ性かは、pH値によって示されます。pH値は数字が小さいほど酸性が強く、大きいほどアルカリ性が強いことを表しています。中性はpH値7で、それより数値が小さければ酸性、大きければアルカリ性ということです。口の中は通常pH6.5~7で、弱酸性から中性となっています。
通常、私たちの口の中で唾液が十分に分泌されていると、酸を洗い流し中和してくれるので問題ありませんが、歯の表面を覆っているエナメル質は、pH5.5以下の酸性のものに対して弱く、酸性の飲食物ばかりを取っていると脱灰が起こってしまい、酸蝕症を引き起こすのです。

どんな飲み物、食べ物に気をつければいいか

酸蝕症を起こす危険性のある食べ物、飲み物は私たちの周りにたくさんあります。その例が炭酸飲料や果汁飲料などの酸性飲料です。
炭酸飲料などはpH値2.2~2.9、オレンジやミカンなどの果汁飲料はpH値4.0前後が多く、ビールもpH値5.0以下のものが見られます。これらの飲み物をよく飲んでいる人は、酸蝕症の危険があるということになります。牛乳や麦茶などはpH値6.0程度※1のため、酸蝕症のリスクはほとんどないと考えられます。
ヘルシーなイメージのある黒酢ですが、pH値3.1程度のため、酸蝕症の面からは気をつけなければいけません。特に毎日ジョギング後に黒酢を複数年にわたって飲み続けた場合で、エナメル質から象牙質へ連続した酸蝕と摩耗の合併した症状が認められた※1症例があるといいます。歯の表面のエナメル質だけでなく、その内側にある象牙質まで影響が及んだということです。この人の場合、飲み物を口の中にためながら飲む癖があったうえ、ジョギング後という口の中が乾燥した状態で飲んでいたため、より酸蝕症が発生しやすい状況にあったと考えられています。
酸の刺激を長時間、歯に与えると酸蝕症の心配があるということです。

食べ物の例の一つは、柑橘系果物です。
レモンはpH値2.1、グレープフルーツは3.2、オレンジやミカンは3.5~3.6と、いずれも酸蝕歯になってしまうリスクのある数値です。そのため、これらの果汁飲料にも注意を払う必要があります。
酢を使ったドレッシングもpH値3.1~4.0のものが多く※1、健康のために野菜サラダを多く取っても、ドレッシングの使い過ぎには注意しましょう。
前にも述べたように、エナメル質はpH5.5以下のものにさらされると脱灰が起こってしまうリスクがあるため、食事の内容にも気を付けることが必要です。

なお、飲食物のpH値だけで判断するのではなく、酸の種類によっても酸蝕能(酸蝕を引き起こす能力)が異なるために注意が必要とする見解もあります。ソフトドリンクに含まれることの多いクエン酸とリン酸を比較すると、クエン酸のほうが、酸蝕能が高いといわれています。さらに、カルシウムキレート能(溶け出したカルシウムと結合する能力)を持つ飲料水も、酸蝕能が高いことが知られている※2といいますから、注意が必要です。

※1 「各種飲食物の酸性度と酸蝕歯の関係」(北迫勇一)日本歯科医師会雑誌 Vol.63 No.9 2012-12より

※2 「子どもの発育と酸蝕歯」(朝田芳信)子どもと発育発達(日本発育発達学会編)Vol.12 No.3より

飲食物以外で酸蝕症を引き起こすのとは?

飲み物や食べ物など「外因性」の原因以外にも、酸蝕症を引き起こすものがあります。それは「内因性」といわれるものです。
内因性の大きな原因は、塩酸からなる胃液です。胃液のpH値は1.0~2.0と強酸のため、これが口の中に流れ込むことによって酸蝕症を引き起こしてしまうことがあります。逆流性食道炎、拒食症、アルコール中毒、摂食障害などで嘔吐などを引き起こすと、胃液が歯に悪影響を与えかねないのです※3。酸蝕歯にならないためには、これらの疾患を元から治療することが必要です。

かつては、メッキ工場やガラス工場などで酸性ガスを吸ってしまうことで、酸蝕症を引き起こす職業が原因と考えられる外因性の酸蝕症もあったといわれています。しかし現在では、作業環境の改善によって減少しているとされています※3。そのため、外因性のほとんどが、飲み物や食べ物が原因であると考えられています。

※3「各種飲食物の酸性度と酸蝕歯の関係」(北迫勇一)日本歯科医師会雑誌 Vol.63 No.9 2012-12より

食事直後の歯磨きは?

酸蝕症に対して、歯磨きをどうすればいいのでしょうか。
食後30分の間は歯を磨かないほうがいいという意見があります。これは、新聞やテレビで多く取り上げられているため、聞いたことのある人もきっといらっしゃるでしょう。エナメル質が軟化しているときに歯を磨くことで、酸蝕症が進行してしまうリスクがあるからだというのです。

これに対して日本小児歯科学会は、子どもが通常の食事をしたときは早めに歯磨きをして、歯垢とその中の細菌を取り除いて脱灰を防ぐことのほうが重要です、という見解を表しています。
酸性飲料を飲んだとしても、エナメル質への酸の浸透は象牙質よりずっと少なく、唾液が潤っている歯の表面は酸を中和する働きがあります。酸性飲料の頻繁な摂取がない限り、すぐには歯が溶けないように防御機能が働いているので、一般的な食事では酸蝕症は起こりにくいと考えられるからだといいます。
子どもの歯磨きの目的は、虫歯予防のために歯垢の除去、すなわち酸を産生する細菌を取り除き、その原因となる糖質を取り除くことです。歯磨きをしないままでいると、歯垢中の細菌によって糖質が分解されて酸が産生されて、歯が溶け出す脱灰が始まります。このように、歯垢中の細菌がつくる酸が歯を脱灰してできる虫歯と、酸性の飲食物が直接歯を溶かす酸蝕症とは成り立ちが違うものだという説明です※4。
また大人の場合でも、「酸性飲食物の摂取直後のブラッシングは避ける」としながらも、「食後のブラッシングは、これまで通り、虫歯の予防に有用といえる」※5とされています。つまり、極端に酸性食品が多いメニューでない通常の食事の場合には、食後の歯磨きは、虫歯を予防するために必要だということです。

ただ、これまでの食習慣によって、酸蝕症が進行してしまっているのではないかと心配する人もいるでしょう。酸蝕症は自分では気づきにくいので、そんな場合は、歯科医を受診しましょう。歯科医に通院するのは歯の痛みを感じたとき、という人も多いかもしれません。しかし、虫歯も歯周病も酸蝕歯も早めの対応が重要です。自分の歯がどんな状態にあるのか、確認しておくことをお勧めします。

また、酸蝕症の予防には、適切なブラッシングを心がけることが大切だとされています。ブラッシングの歯磨き圧は、毛先を歯面に当てた時、毛先が軽くたわむ程度(150~200g)がいいとされており、歯磨き圧が強すぎたり、乱暴であれば、エナメル質は摩耗します。酸性食品の摂取頻度が高まれば、一気に酸蝕症が進行してしまうリスクがあるというのです※6。
歯を丈夫に保つためには、歯科医に相談してみることが一番ではないでしょうか。

※4 「食後の歯みがきについて」(日本小児歯科学会) より

※5 「食後30分間、ブラッシングを避けることの是非」(日本口腔衛生学会 フッ化物応用委員会) より

※6 「子どもの発育と酸蝕歯」(朝田芳信)子どもと発育発達(日本発育発達学会編)Vol.12 No.3より


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