vol.31 風邪に似た「呼吸器の病気」に注意を

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長引く風邪は肺炎かも

風邪をひくことが多い季節です。普通の風邪なら3~4日で治りますが、もし咳や痰が続く、息切れするといった症状がみられたら要注意。肺炎やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)、ぜんそく(喘息)などを起こしているケースがあるからです。

なかでも肺炎は、日本人の死亡原因の第4位を占めるほど多い病気です(※1)。とくにお年寄りは、免疫力の低下などが原因で、肺炎にかかりやすい傾向がみられます。肺炎というと高熱や激しい咳をイメージしますが、お年寄りの場合には、軽い咳や微熱といった程度でも、肺炎を起こしているケースがあります。

「なんとなく元気がない、食欲がない、脱水症状を起こしている、話しかけてもはっきり返事をしない(意識がもうろうとした状態)」など、ふだんと違う様子がみられたら、すぐに受診しましょう。本人は自覚していないこともあるので、家族など周囲の人も気を付けてあげることが大切です。

(※1)厚生労働省による人口動態統計(平成30年度)によれば、死亡原因の順位は、1.悪性新生物(がん)(27.4%)、2.心疾患(15.3%)、3.老衰(8.0%)、4.脳血管疾患(7.9%)、5.肺炎(6.9%)となっていて、男性では肺炎が第4位です。1965年ごろまでは減少傾向にありましたが、その後横ばいとなり、1990年代後半からは急速に増加しています。

<風邪と似た症状が出る呼吸器の主な病気>

肺炎、COPD(慢性閉塞性肺疾患)、ぜんそく(喘息)、肺がん、結核、喉頭炎、胸膜炎、肺水腫など。

vol.31 風邪に似た「呼吸器の病気」に注意を

若い世代にもみられる肺炎

肺炎はお年寄りだけの病気ではありません。お年寄りの場合は肺炎球菌による肺炎が多いのですが、クラミジアやマイコプラズマといった病原菌が原因となる肺炎は、若い世代にも多くみられます(※2)。

クラミジア肺炎とマイコプラズマ肺炎は、どちらも当初は軽い風邪のような症状がみられます。しかし咳が長く続き、やがて高熱が出やすいという特徴があります。とくに夜間になると激しい咳が出る傾向があるので、こうした症状が続くときは注意しましょう。そのほか人によって、咳や熱による頭痛、のどや胸の痛み、息苦しさなどの症状もみられます。

若い人は体力があるので、お年寄りの肺炎のように死に至ることは少ないのですが、放置していると心臓や肝臓、脳、聴覚などに障害が残ることもあります。また乳幼児の場合、発見が遅れると重い合併症を起こしかねないので、早めに受診することが大切です。

クラミジア肺炎とマイコプラズマ肺炎は、咳やくしゃみによって飛沫感染します。そのため家庭や学校、会社などで広がることがあります。予防法としては、手洗いとうがいをきちんとすること。また、自分が感染した場合にはマスクをして、家族や同僚などにうつさないように心がけましょう。

(※2)クラミジア肺炎は中高年にもみられますが、マイコプラズマ肺炎の80%が14歳以下の若い世代です。

息切れを感じたら注意したいCOPD

最近、COPD(慢性閉塞性肺疾患)という病名を見聞きすることが多くなりました。これは新しい病気ではなく、以前から知られていた肺気腫や慢性気管支炎など、肺や気管支に炎症が起こり呼吸困難などを引き起こす病気の総称です。それが話題となっているのは、最近になって患者数が増加しているからです(※3)。

厚生労働省発表の「人口動態統計の概況」によると、平成30年(2018)1年間の慢性閉塞性肺疾患(COPD)による死亡数は1万8,577人でした。潜在的患者数は530万人以上いると推定されています。

COPDも当初は、咳や痰など風邪に似た症状がみられます。呼吸器が弱っているため、実際に風邪をひいたときにも治りにくくなります。COPDに特有の症状は「息切れ」です。健康な人でも加齢とともに呼吸機能が低下し、階段を駆け上ったりすると息切れを起こすことがあります。しかしCOPDの場合には、普通のペースで階段や坂道を上るなど、ちょっとした動作でも息切れを起こします。

ところがほとんどの人は、加齢によるもの、あるいは風邪の症状だと考え、なかなか治療を受けようとしないのが実情です。そのため発見されたときにはかなり重症化しているケースも少なくありません。重症化すると、肺がんを起こす可能性も指摘されているだけに、見過ごすのは危険です。ちょっとしたことで息切れを起こす場合には検査を受けましょう(※4)。

一般に次の項目で該当するものが多い人は、COPDへの注意が必要です。

  • 40歳以上(とくに男性に多い)
  • たばこをよく吸う
  • 風邪ではないのに、咳や痰が続く
  • 同世代の人と歩くと遅れがちになる
  • 階段を上ると息が苦しく感じる

また、予防のためには、日ごろから腹式呼吸や適度の運動(ウォーキングや水中運動のアクアサイズなど)で呼吸機能を高めることが大切です。ただし、すでに咳・痰・息切れなどの症状がある人は、まず治療を受け、医師の指導のもとで運動などを行ってください。

(※3)世界的にみると、肺の病気のうち亡くなる人がもっとも多いのはCOPDです。2030年までに、世界における死因の第3位になると予想されています。アメリカでは、この病気による死亡者数は15万5000人に達し、死亡原因の第3位を占めています(2015年)。

(※4)病院ではスパイロメトリー(肺機能測定器)という機械を使って、1秒間に吐き出すことができる息の量を測定するほか、胸部X線検査や血液中の酸素飽和度の検査を行い、肺機能を総合的に調べ、COPDかどうかの診断が行われます。

咳や痰と肺がんとの関係は

咳や痰が続くと、肺がんを心配する人もいるでしょう。がんの中でも、肺がんは日本ではもっとも亡くなる人が多く、また患者数も増加しています。それだけに早期発見が大切ですが、そのきっかけとなるのが咳や痰などの症状です。

肺がんには大きく分けると、太い気管支付近にできる「中心型肺がん」と、肺の奥にできる「末梢型肺がん」とがあります。このうちの中心型肺がんの場合には、風邪に似た咳や痰がみられます。一方の末梢型肺がんでは、こうした症状はあまりなく、進行してから胸や背中の痛みなどがみられます。

とくに初期の中心型肺がんは、検診の画像検査などでもわかりにくい面があるだけに、しつこい咳や痰が続く場合には受診し、喀痰細胞診(かくたんさいぼうしん:痰に含まれるがん細胞を調べる検査)などで調べてもらうほうがいいでしょう。

COPD(慢性閉塞性肺疾患)や肺がんの最大のリスクは、喫煙習慣です。したがって予防の第一は、禁煙すること。長年たばこを吸っている人は「いまさら遅い」と思うかもしれませんが、中高年からでもたばこをやめると肺は少しずつきれいになり、呼吸機能も改善されることがわかっています。

増えている大人のぜんそく

ぜんそく(喘息)も、風邪と間違えやすい病気のひとつです。子どもの病気と思われがちですが、実際には大人のぜんそくも珍しくありません(※5)。それも大人になってから初めて発症するケースが増えています。

ぜんそくは、気道(気管や気管支など)の慢性的な炎症によって起こります。咳が長く続き、とくに発作を起こすと激しい咳に加えて、のどがゼイゼイと鳴って(喘鳴=ぜんめい)呼吸困難を引き起こします。ただし、のどの喘鳴は起こらず、咳だけが続くぜんそくもあります。

ぜんそくの発作は夜間、とくに明け方に多いので、こうした発作がみられる場合は受診して調べてもらいましょう。風邪薬などで咳だけを抑えていると、病気をこじらせ、大きな発作で心不全を起こす可能性があります。

ぜんそくの中には、ほこりなどに対するアレルギーが原因となるものも少なくありません。予防のためには、部屋の掃除をこまめにしてハウスダストを減らすことに加えて、ストレスをためない、禁煙する、激しい運動はしないなど、日常生活の注意も大切です。

(※5)正確な患者数は把握されていませんが、日本における成人型ぜんそくの有病率は、1960年代には1%程度だったものが、最近は9~10%に増加していると推定されています。

結核の集団感染にも注意を

結核は、結核菌による感染症で、日本ではすでに撲滅されたと思われていた病気です。ところが近年になって患者数が増加し、会社や学校、高齢者施設などでの集団感染が社会問題にもなり、2005年4月には50年ぶりに結核予防法が改正されました(※6)。その2年後の2007年には同法が廃止になり、結核は「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)」において2類感染症に位置づけられています。

結核(とくに肺結核)は、初期には軽い咳と痰、それに微熱が出るため、風邪とよく似ています。症状が進むにつれ、強い咳、倦怠感などがみられ、やがて血痰や喀血(かっけつ)もみられるようになります。

感染力はそれほど強くなく、感染しても発症しない人も多いのですが、放置していると呼吸器障害を起こすことがあります。また、会社などで知らずに集団感染を起こしたり、家庭では乳幼児が感染すると重症化するリスクもあります。

咳や痰、微熱が2週間以上続く場合には、結核を疑って受診しましょう。とくに糖尿病の人、胃を切除した人、副腎皮質ホルモン剤による治療を受けている人、若い人(初めての感染)などは、感染した場合に発病しやすいので注意が必要です(※7)。

結核は、免疫力が低下していると感染あるいは発病しやすくなります。予防のためには、日ごろから栄養バランスのよい食事をする、睡眠時間をしっかりとる、ストレスをためないなどの心がけも大切です。

(※6)結核は昭和20年代まで、年間数万人(最大時で約15万人)が亡くなる恐ろしい病気でした。その後ストレプトマイシンなどの特効薬によって急速に患者数は減り、日本ではほとんどみられなくなっていました。ところが厚生労働省による調査で、1990年代末から患者数が増加しはじめ、2016年には新たな患者数だけで約1.8万人に上ることが判明しています。

(※7)(財)結核予防会『結核の常識2005』などより。

参照URL
『平成30年(2018)人口動態統計(確定数)の概況』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/kakutei18/index.html
『日本では毎年約18,000人が新たに発症!古くて新しい感染症、「結核」にご注意を!』政府広報オンライン
https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201509/3.html
『成人喘息の疫学』COPD・喘息の 最新情報(Ⅲ)
https://www.kyorin-pharm.co.jp/prodinfo/useful/doctorsalon/upload_docs/170561-2-44.pdf
『慢性閉塞性肺疾患(COPD)』MSDマニュアル
https://www.msdmanuals.com/ja-jp/ホーム/07-肺と気道の病気/慢性閉塞性肺疾患(copd)/慢性閉塞性肺疾患(copd)
『IDWR 2012年第35号<注目すべき感染症>マイコプラズマ肺炎』NIID国立感染症研究所
https://www.niid.go.jp/niid/ja/mycoplasma-pneumonia-m/mycoplasma-pneumonia-idwrc/2633-idwrc-1235.html
『結核予防法の廃止と新感染症法への統合について』結核予防会
https://jata.or.jp/rit/rj/313p3.pdf

更新日:2021.05.14

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