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2011.09.09

vol.99 「よい眠り」で高血圧・糖尿病の予防を

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隠れた睡眠不足の影響

Vol.99 「よい眠り」で高血圧・糖尿病の予防を わたしたちは、一生のうちの3分の1~4分の1の時間を、「睡眠」に費やしています。それだけに、いい睡眠をしたいというのは、だれしも共通の思いといえます。
では、実際にはどうなのでしょうか。「『眠り』についてのアンケート」によると、熟睡しているという方は36%で、残りの64%の方は熟睡できていなかったり、途中で目がさめたりして、満足できる睡眠が得られていないという結果がみられます(※1)。
一般に、熟睡できずに睡眠不足になると、頭がぼんやりしたり、からだの動きがにぶくなったりします。その結果、仕事でうっかりミスをしたり、昼間眠くなったり、ケガをしたといった経験のある方は多いでしょう。

こうした自覚できる症状のほかに、睡眠不足の影響は体内の気づかないところでも生じていることを、ご存知でしょうか。それは、インスリン抵抗性という症状です。
最近の国内外の研究から、睡眠不足がインスリン抵抗性を高め、高血圧糖尿病の発症や悪化に深く関係していることがわかってきました。オランダの研究者による報告では、たったひと晩の睡眠不足でもインスリン抵抗性が上昇するとされ、日本でも注目されています(※2)。
では、インスリン抵抗性とは、どういうものなのでしょうか。
高血圧や糖尿病の予防のためにも、睡眠不足の影響についてきちんと知っておきましょう。

(※1)(株)良品計画「無印良品 くらしの良品研究所」によるアンケート調査。よく眠れる(35.93%)、あまり眠れていない(23.16%)、時々起きる(20.50%)、早朝に目覚める(9.78%)、物音で目覚める(5.57%)、トイレに何度も起きる(2.06%)、寝相が悪い(1.72%)など。

(※2)オランダのライデン大学医療センター(Esther Donga博士ら)による研究報告。睡眠不足が耐糖能異常に関係しやすいことは以前から指摘されていたが、ひと晩の睡眠不足でもインスリン感受性の低下(インスリン抵抗性の上昇)をまねくことを世界で初めて警告した。

インスリン抵抗性とは

インスリン抵抗性とは、「インスリンの分泌はあるのに、効果を発揮できない状態」のことです。
わたしたちが食事をすると、エネルギー源となるブドウ糖(グルコース)は血液中を運ばれ、細胞内へと吸収されます。このとき細胞への吸収を促進するのが、グルコース輸送担体4型(Glut4)というタンパク質で、インスリンの刺激を受けることで活動します。
ところがなんらかの理由から、インスリンがあってもGlut4への刺激がうまく伝わらず、細胞へのブドウ糖吸収が低下することがあります。それがインスリン抵抗性の状態で、吸収されないブドウ糖が血液中に増加するため、血糖値が高くなります。
2型糖尿病の多くは、インスリン抵抗性が影響していると考えられています。

では高血圧の場合には、インスリン抵抗性がどう関係しているのでしょうか。
インスリンの効果がみられず、ブドウ糖の吸収がうまくいかないと、すい臓からさらにインスリンが供給され、悪循環を起こす状態におちいります(代償性高インスリン血症)。すると、血圧上昇に関係するレニン‐アンジオテンシン系や交感神経が活性化され、また、腎臓にナトリウムが貯留されやすくなります。
こうした複合的な作用によって血圧が上昇しますが、とくに血管収縮にかかわるレニン‐アンジオテンシン系のホルモンの一種アンジオテンシンⅡの影響が大きいことが指摘されています(※3)。
実際に、高血圧の患者さんの約半数にインスリン抵抗性がみられます。また、インスリン抵抗性が高いほど、心肥大や頸動脈の血管肥厚、プラーク(血管壁のコブ)形成などを起こしやすく、それだけ動脈硬化、さらには心臓病や脳卒中のリスクが高まることもわかっています。

(※3)札幌医科大学・島本和明学長らの研究報告による。インスリン抵抗性は、メタボリック・シンドロームとも深い関係にあるが、なかでも高血圧の発症頻度が高いことが指摘されている。

睡眠不足と高血圧・糖尿病

睡眠不足が、高血圧や糖尿病と関係することを示すデータが、いくつか海外でも報告されています。
アメリカのコロンビア大学医療センターの研究報告では、32~59歳の中年層について、睡眠時間7~8時間の人の高血圧発症率は12%であったのに対し、睡眠時間5時間以下の人では24%と2倍にもなっています(※4)。
睡眠不足が、高血圧のリスク要因であることを示すものですが、同時にこの報告では、睡眠時間5時間以下の人は肥満気味で、運動量が少なく、昼間の眠気が強く、心拍数も高いなどの傾向がみられることも指摘されています。

また、シカゴ大学医療センターによる研究報告では、糖尿病患者を対象に、睡眠が正常なグループと睡眠の質が低いグループとを比較した結果、後者のインスリン抵抗性が82%も高かったとしています(※5)。睡眠不足などで睡眠の質が低い人は、それだけ血糖コントロールがむずかしいことも指摘されています。
前述したオランダ・ライデン大学の研究報告(ひと晩の睡眠不足でもインスリン抵抗性が高くなる)もくわえ、これらのデータなどから、睡眠不足と高血圧・糖尿病とのあいだに、インスリン抵抗性が介在していることが解明されつつあります。
日本でも、高血圧や糖尿病の患者さんには、不眠を訴える方が多いことから、これからの治療や予防に「よい眠り」が重要な課題となるものと注目されています。

(※4)コロンビア大学医療センター(James E. Gangwisch準教授ら)による研究報告。4810人を対象に、睡眠時間と高血圧の発症との関係を追跡調査したもの。この調査では、60歳以上では大きな差がみられないとしている。

(※5)シカゴ大学医療センター(Kristen Knutson準教授ら)による研究報告。睡眠の質が低い患者グループでは、朝の血糖値が23%、空腹時血糖値が48%高いとの報告もみられる。

睡眠不足を解消する工夫

ぐっすり眠るために、枕を変えるなどの工夫をしている方は多いでしょう。1章で紹介した「『眠り』についてのアンケート」でも、半数以上(54%)の方々が、なんらかの工夫をしているという結果がみられます。
そのなかでも効果があると考えられているものに、「昼間に運動をする、寝る前に軽いストレッチなどをする、夜遅く食べない、寝室の照明を暗めにする、入浴する、枕の固さに気をつかう」などがあります。
一般に睡眠の基本条件とされるのが、体温の低下と睡眠物質(メラトニン)の分泌です。
わたしたちの体温は、夜間になると低下しますが、それには脳の温度を下げ、休ませる目的があるといわれます。実際、睡眠の前半は脳の休息にあてられ、後半はからだの休息にあてられています。
そのため寝る前に強い運動をしたり、夜食を食べたりすると、体温が低下せず、寝付きが悪くなりがちです。したがって、アンケートにみられる、夜間の運動は軽いストレッチ程度にし(リラックス効果があります)、夜遅くには食べないという工夫は、理にかなっているといえます。

もう一つの基本条件である睡眠物質のメラトニンは、眠りを誘うホルモンですが、体内時計のリセットもおこなっています。メラトニンのコントロールは、よい眠りだけでなく、翌朝のリフレッシュにもつながります。
メラトニンは夜間に分泌されますが、アンケートにもみられるように昼間、運動や散歩などで太陽の光を浴びると分泌されやすくなります。また、夜間でも照明が明るいと分泌量が減るので、寝室はもちろんですが、就寝時間の少し前からリビングなどの照明も暗めにするといいでしょう。
メラトニンの原料となるトリプトファン(アミノ酸の一種)は、バナナ、卵、魚、大豆などに多くふくまれています。加齢によってメラトニンの分泌は低下するので、こうした食品をしっかりとることも大切です。
「よい眠り」は高血圧や糖尿病の予防になることを忘れずに、あなたも自分の眠りを見直してみませんか。

ミニコラム

不眠の原因の一つに、心配ごとやストレスがあります。寝る前に考えごとをすると、脳の活動が盛んになり、眠れなくなったり、浅い眠りになりがちです。そういう状態が続くときには、睡眠薬の利用も選択肢の一つです。睡眠薬ときくと、「怖い」と思う方もあるかもしれません。でも最近は、脳の興奮を鎮める効果をもち、習慣性などの副作用の少ないタイプの睡眠薬が増えています。糖尿病による不安や痛みなどから生じる不眠に対して、睡眠薬が処方される例は少なくありません。症状によっても異なりますが、まず医師からよく話を聞いてみましょう。


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