vol.125 中高年のための「変形性膝関節症」対策と予防法

健康・医療トピックス
年齢とともに増えてくる膝の痛み。中高年にとって身近で気になる悩みです。そこで今月は前回に引き続き「変形性膝関節症」を取り上げ、進行を抑えて長期的に膝の健康を守る予防法などをご紹介します。
vol.125 中高年のための「変形性膝関節症」対策と予防法

進行を抑えて重症化を防ぐ「筋力訓練」

変形性膝関節症は、発症すると少しずつ進行し、末期になると膝関節が変形してO脚になり、歩くことが困難になります。膝の軟骨がすり減った状態で重症化すると、外科治療が選択されます。術後にスポーツやガーデニングなどでしゃがみ込む作業が多いことがわかっている方には、「高位脛骨骨切り術」が行われます。これはすねの骨の上部を切ってプレートやねじで固定し、荷重のかかる位置をずらす治療法です。一方、高齢などによって骨の強度が弱い状態ならば、傷んだ部位を人工関節に置き換える「人工関節置換術」などの手術が行われます。
これらの治療法は、あくまでも重症化した場合の最終手段であり、何よりも大事なことは、発症したらできるだけ進行をくい止め、膝の軟骨の退行を防ぐことです。その予防法として、最近注目されているのが「筋力訓練」。大きな農村で筋力のある人と弱い人を比べた研究では、筋力の弱い人の方が変形性膝関節症になりやすいことがわかっています。筋力の低下が発症に関係しているという報告もあり、症状の改善や予防に筋力訓練が重要視され始めています。

筋肉を強化して、悪循環を断ち切る方法

変形性膝関節症は、安静時はほとんど痛みがなく、動いたり、歩いたりすると痛みます。そのため、発症すると身体活動が低下しますが、痛いからといって体を動かさないと膝周りの筋肉が落ちてしまいます。脚の筋肉は関節を動かしたり、安定させたりする働きをしています。筋力が低下すると膝関節は荷重を受けやすくなり、さらに病状が進む悪循環に陥るため、痛いときこそ筋力訓練が必要です。

膝を支える大腿四頭筋(太ももの前の筋肉)を強化するには、膝を固定して脚を動かす体操が効果的です。仰向けになって片方の脚を伸ばし、膝を動かさないようにして足首を10㎝くらい上げます。歩行訓練は、アップダウンのない平らな所をウォーキングすることが最も有効です。痛くて歩けない場合は、テーブルに両手を置いて足踏みをする「つかまり足踏み」から始めてみましょう。
筋力訓練というと、わざわざ階段の多い場所に行って上り下りをする人がいますが、この方法はかえって膝の具合を悪化させます。階段の下りはとくに膝関節に体重がかかるので、無理は避けてエレベーターやエスカレーターを利用しましょう。
また、膝関節は内側と外側にあり、脚がまっすぐな状態のときは内側と外側の両方に均等に体重がかかっています。ところが、O脚に変形した膝関節では、内側により多くの荷重がかかるので内側の軟骨ばかりがすり減ります。そのため、靴のインソール(中敷き)で荷重のバランスを調整するのも有効な対処法です。膝軟骨にかかるストレスを軽減して、進行を遅らせます。

発症を防ぐトレーニング法と膝ケア

50歳を過ぎると、健康な人でも筋肉が萎縮してきます。40代の頃と同じような日常生活を送っていると筋力は低下する一方ですから、少しずつトレーニングをして膝の健康を維持したいものです。近頃は、気軽にランニングやマラソンを始める人が増えていますが、いきなり走ると膝の痛みの原因をつくってしまいます。運動していない人では、まずはウォーキングから始め、膝に問題がないことを確認したらジョギングというように、徐々に体づくりをしていきましょう。
トレーニングでもう一つ大事なことは、クッション性のあるシューズ(運動靴)を履くことです。膝の軟骨は骨に伝わる衝撃をやわらげるクッションのようなもの。すり減っていたら補う必要があり、最も簡単な方法がシューズを履くことです。底の固い靴に比べて体重のかかり方が違います。さらに、運動前と運動後は膝周りの筋肉をストレッチして柔軟性を保ち、ケガの既往がある人は、運動後にアイシングして膝を十分にケアしましょう。

受診のタイミングと診断後の注意点

中高年になると変形性膝関節症を発症するリスクが高くなります。膝に痛みなどを感じたら整形外科を受診し、変形性膝関節症と診断されたら進行させないようにしましょう。また、MRI検査で半月板が傷んでいると診断された場合は、前回ご紹介したスポーツ選手と同じ注意が必要です。手術で取り除いてしまうとそれによって変形性膝関節症が進行し、後に問題になるケースが少なくないからです。痛みの原因はどこにあるのか。加齢によって傷んだ半月板が痛みの原因なのか。変形性膝関節症が痛みの原因であって、傷んだ半月板は痛みには関与していないなど、自分の膝の状態をよく知って治療法を選ぶことが大切です。

監修 順天堂大学医学部附属順天堂医院 
整形外科・スポーツ診療科 先任准教授 池田 浩 先生

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