vol.150 寝不足の子どもたちが警告する!現代の「睡眠」

健康・医療トピックス

携帯電話、スマートフォン、ゲーム、部活動に塾通い。子どもたちの日常生活は情報にあふれ、忙しく、夜型になっています。2014年11月、文部科学省が実施した小中高生の生活習慣に関する調査(回答者数2万3139人)によると、小学生では午後10時までに就寝しているという回答が41.4%と最も多く、次いで午後11時までが36.2%、午後9時前は7.8%。中学生では深夜0時以降に就寝しているという回答が22%、高校生は47%という結果でした。睡眠の自己評価については、「十分ではない」と回答した小学生が14.9%、中学生では24.8%、高校生は31.5%と学年が上がるにつれて寝不足を感じている子どもが増えていました。
また、携帯電話やスマートフォンで通話やメール、インターネットをする時間と就寝時刻との関係では、する時間が長いほどいずれの学年でも就寝時間が遅く、寝る直前までしている子どもほど、翌朝、ふとんから出るのがつらいと感じる割合が高くなっていました。
さらに、就寝時刻の遅い子どもほど、「なんでもないのにイライラすることがある」という回答も多くなっています。小児科医で睡眠に詳しい東京ベイ・浦安市川医療センターCEOの神山 潤さんは、「スマホをはじめとするブルーライトは、眠りをもたらすメラトニンの分泌を害して生体に影響のある光です。また、夜ふかしでは睡眠不足になりますし、寝ないと太るということも世界中のデータからわかっています。夜ふかしはメタボリックシンドロームの基礎づくりをしているようなものです」と警告します。

vol.150 寝不足の子どもたちが警告する!現代の「睡眠」

人間は昼行性の動物。夜は光を浴びてはいけない

睡眠は、私たちの生体リズムと密接な関わりがあります。生体リズムとは、睡眠や覚醒、深部体温、心拍、血圧、ホルモンの分泌、細胞の分裂や再生など体のさまざまな現象に見られるリズムのことです。地球という環境で生きていくには、1日24時間の地球のリズムと、それよりやや長い生体リズムを合わせて生活する必要があります。この2つのリズムを合わせるには、光、食事、運動などが因子として知られ、とくに朝の光が地球のリズムと生体リズムとを合わせるには重要といわれています。夜の光は地球のリズムと生体リズムとのズレを拡大し、健康に悪影響を与えます。しかし、日本では寝る間を惜しんで仕事をすることがいいことだという考え方や、時間を自由にコントロールできると思い込んでいる人が多いと神山さんは指摘します。「人間は昼行性の動物で、夜は光を浴びてはいけないようにできています。自然は外にあるのではなく、自分の体が一番身近な自然という謙虚さを取り戻すことが大事ではないでしょうか」。
睡眠は一定のリズムがありますが、睡眠時間や睡眠の質は主観が大きく影響します。そのため、自分にとって最適な睡眠時間は何時間なのか。快適な眠りの環境については、体の声に耳を傾けて考えることが大切といいます。夜ふかしをする子どもたちを注意する前に、まずは大人が自分の睡眠をきちんと考えてほしい、と神山さんは話しています。

なぜ、夢を見るのか。進みつつある睡眠の研究

ごくあたりまえの生活習慣として、毎日繰り返している睡眠。実は解明されていないことが多く、なぜ、夢を見るのかも謎です。願望の表れや不要な記憶を消し去るためなど諸説ありますが、科学的な根拠がなく脳科学の大きな謎とされてきました。その解明の一歩となる研究成果が2015年10月に発表されています。研究を行ったのは、筑波大学と理化学研究所の共同研究グループ。睡眠と覚醒に関わる脳の部位を調べて、レム睡眠とノンレム睡眠を切り替えるスイッチ役の神経細胞を発見。レム睡眠を操作できるマウスを開発して詳しく調べたところ、レム睡眠を無くすとノンレム睡眠中に生じるデルタ波が弱くなり、逆に増やすとデルタ波が強まりました。この結果から、レム睡眠にはノンレム睡眠中に生じるデルタ波を強める作用があり、記憶や学習など脳の機能に重要な役割を担っていることが明らかになりました。神山さんは「夢のメカニズムはよくわかっていません。この結果はレム睡眠をコントロールしている神経細胞を同定したということで画期的な研究です」と高く評価します。
レム睡眠は、新生児期や学習した直後に多く表れ、ノンレム睡眠中に生じるデルタ波は、記憶の形成や学習を促す効果などがすでに明らかになっています。中高年に増えるアルツハイマー病やうつ病では、デルタ波が減少することが知られています。今回の研究成果をきっかけに睡眠が脳の発達や回復にどのように関わっているのか。謎の多い脳の病気や不眠、夢の解明につながってほしいものです。

監修 東京ベイ・浦安市川医療センター CEO 神山 潤先生

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