vol.161 骨折前の「痛み」でわかる骨粗鬆(こつそしょう)症

健康・医療トピックス

整形外科を受診する患者の訴えの中で、最も多い疾患が腰痛です。3カ月以上続くと慢性腰痛という病名で呼ばれますが、その8割は原因がよくわかっていません。近年、このような腰痛に骨粗鬆症の前段階で起こる「痛み」の存在が明らかになっています。骨粗鬆症と痛みの関連について発表しているのは、千葉大学大学院予防医学センターの鈴木都特任助教です。整形外科医として骨粗鬆症の患者を診察する中で、骨粗鬆症に痛みを起こすメカニズムがあるのではないか、と思ったことが研究を始めるきっかけだったといいます。

vol.161 骨折前の「痛み」でわかる骨粗鬆(こつそしょう)症

「骨粗鬆症由来の痛み」の特徴とは

骨粗鬆症の前段階の痛みとは、レントゲンやCT、MRIなどの画像検査をしても骨折が見当たらず、脊柱に変形もなく、他の病気でもないのに痛みだけがあります。このような痛みは、「骨粗鬆症由来の痛み(疼痛)」と呼ばれ、骨折による痛みとは異なると鈴木特任助教は話します。「骨粗鬆症による骨折やぎっくり腰は、ものすごく痛みます。骨粗鬆症由来の痛みは激烈な痛みではなく、気になる程度の痛みが慢性的に続く場合もあります。千葉大学で治療している骨粗鬆症の患者さん258人のうち、10%に骨粗鬆症由来の痛みがあり、閉経直後の女性に訴えが多いことがわかっています」。

骨に関わる細胞の働きが痛みの原因

骨粗鬆症由来の痛みは、腰や背中に起こる人が最も多く、その他の自覚症状としては、全身の痛みやだるさを訴える人がいるということです。では、骨折していないのにどうして痛みが起こるのでしょうか。その原因は、破骨細胞と骨芽細胞のバランスにあると考えられています。骨を鉄筋の建物に例えると、破骨細胞は古いビルのコンクリートを壊すもの。骨芽細胞は、新しく作り替えるコンクリートのようなものです。骨はこれらの細胞のバランスによって、壊しては新しく作るということを繰り返していますが、閉経後の女性では、女性ホルモンのエストロゲンが減少します。すると破骨細胞の働きが活性化し、炎症に関わるサイトカイン(生理活性物質)が増えます。さらに、骨が溶けて酸性になるとサイトカインを受け取る受容体も増えます。そのために痛みの信号が伝わりやすくなります。
この骨粗鬆症由来の痛みは、これらの炎症による痛みの要素が主な原因であるため、一般的な痛み止め(消炎鎮痛薬)で一定の効果があることが多いです。しかし、中には痛み止めでは効かない患者さんが存在します。このような骨粗鬆症由来の痛みに対しては、痛いからといって痛み止めを用いるのではなく、骨のバランスを整えることが重要です。すなわち骨粗鬆症に対する治療が大事になってきます。「骨粗鬆症の第一選択薬であるビスフォスフォネート製剤は、破骨細胞の活性化を抑えて骨密度を改善する薬であり、内服してもらうと痛みもよくなることが研究結果からわかっています。骨粗鬆症由来の痛みが存在しているときは、骨粗鬆症の有無を確認し、適切な治療を開始することが痛みの治療につながるわけです」。

気をつけたい閉経直後の骨の健康

女性の骨量は成長期から20代にかけて最大量になり、その後は少しずつ減少していきます。閉経を迎えるとエストロゲンの減少によってホルモンのバランスが崩れ、骨代謝の速度も急激に変化します。そのため、閉経直後はとくに注意が必要だと鈴木特任助教は指摘します。「骨粗鬆症由来の痛みは、閉経直後の比較的若い年代の女性に起こると考えられます。骨粗鬆症の治療は70~80代になって始めるイメージがありますが、骨密度がかなり低下してからでは、治療が困難になることがあります。閉経後の女性で原因のわからない腰痛や背中の痛みが続いている場合は、医療機関を受診されて、骨密度を検査することが痛みの原因や解決の手掛かりになることがあります。実際に骨密度が低下していた場合は、適切な治療が必要です」。現在、骨粗鬆症の治療に使用されている薬は、さまざまな種類があり、ビスフォスフォネート製剤は骨粗鬆症の治療薬の一つにすぎません。医師は、患者さんに合った治療を行う必要があるということです。

骨密度を知って、早期から予防しよう

骨粗鬆症は、元気なうちから徐々に進行していきます。女性の場合、閉経はその後の骨の健康に大きく影響するターニングポイントです。年1回は健康診断で骨密度を測定し、自分の骨の健康状態を知っておくことが大切です。また、骨密度の低下を防いで、骨粗鬆症のリスクを上げないためには、薬物療法のみでなく「運動して体を動かす」、「カルシウムの豊富な乳製品を摂取する」、「日光を浴びる」といった生活習慣が大事になります。カルシウムの吸収を助けるビタミンDは、適度に日光を浴びることによって体内で作られます。「80代、90代になっても元気に動ける体を維持し、健康に過ごすためには、骨粗鬆症の予防と早期治療は非常に重要です。お肌のケアをするように早いうちから骨もケアしてほしいと思います」(鈴木特任助教)。

監修 千葉大学大学院予防医学センター 医学博士 特任助教 鈴木 都先生

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