vol.56 むち打ち症と脳脊髄液減少症

健康・医療トピックス
注目され始めた病気に脳脊髄液減少症があります。この病気は以下のような症状に悩まされます。「頭痛」「頸部痛」「めまい」「耳鳴り」「視機能障害」「倦怠・軽い疲労感」など――。それも、横になっているとき症状はおさまっていますが、座位や起立位になって3時間以内に症状に苦しめられるようであれば、この病気が強く疑われます。
このような症状の脳脊髄液減少症と似た病気に『むち打ち症』があります。その大半は半年間で治るとされていますが、慢性的なむち打ち症は不治の病ともいわれています。ところが最近、『慢性的なむち打ち症が治る!』と話題になりました。
しかし、それは正確ではありません。正しくは、慢性的なむち打ち症と診断されていた人の中に、本当は脳脊髄液減少症と診断されるべき患者がいた、ということなのです。
むち打ち症と診断された人のうち10%程度がそうなのでは、と推測されています。起き上がると頭痛がする『起立性頭痛』を訴えて受診する人も、やはり10%程度は脳脊髄液減少症と思われます。
患者はもちろん、医師さえも十分認識していない脳脊髄液減少症とは――。
その名称にあるとおり、頭の中の脳脊髄液が減少することで、さまざまな症状を引き起こす病気です。この頭の中にある脳脊髄液は無色透明で、脳はこの液の中に浮いている状態です。
この液が減少する原因としては、以下の3つが考えられます。

(1)髄液の産生低下
(2)髄液の吸収過多
(3)髄液の漏れ


最も多い原因は(3)の「髄液の漏れ」です。何らかの原因でくも膜に裂け目なりができて、漏れているのです。その何らかの原因としては、「交通外傷」「頭を打った」「スポーツ外傷」「転倒して尻もちをついた」「出産」などがあるものの、まったく原因が分からないケースも多いのが現状です。
治療には「保存的治療」と「ブラッドパッチ治療」とがあります。
保存的治療とは十分な水分を摂取してベッドでの安静を保つ方法です。自然治癒するケースが90%程度もあるからです。
保存的治療で効果がないときは入院してブラッドパッチ治療が行われます。この治療法では局所麻酔を行ったあと、エックス線透視下で脳脊髄液の漏れている近くに針を刺します。そして、患者の腕から摂取した血液に造影剤を混ぜ、刺しておいた針から注入します。すると、血液が漏れているところで凝固し、漏れを止めるのです。
効果は早く出る人で治療後数時間。一般的には平均1カ月くらいといわれています。専門医と十分に話し合い、よりよい選択をすべきでしょう。
vol.56 むち打ち症と脳脊髄液減少症

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執筆者プロフィール

松井 宏夫

松井 宏夫

医学ジャーナリスト
略歴
1951年生まれ。
医療最前線の社会的問題に取り組み、高い評価を受けている。
名医本のパイオニアであるとともに、分かりやすい医療解説でも定評がある。
テレビは出演すると共に、『最終警告!たけしの本当は怖い家庭の医学』(テレビ朝日)に協力、『ブロードキャスター』(TBS)医療企画担当・出演、『これが世界のスーパードクター』(TBS)監修など。
ラジオは『笑顔でおは天!!』のコーナー『松井宏夫の健康百科』(文化放送)に出演のほか、新聞、週刊誌など幅広く活躍し、NPO日本医学ジャーナリスト協会副理事長を務めている。
主な著書は『全国名医・病院徹底ガイド』『この病気にこの名医PART1・2・3』『ガンにならない人の法則』(主婦と生活社)、『高くても受けたい最新の検査ガイド-最先端の検査ができる病院・クリニック47』(楽書ブックス)など著書は35冊を超える。

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