vol.69 花粉症治療薬とインペアード・パフォーマンス

健康・医療トピックス
日本のスギ花粉症は、もはや国民病といえる患者数を記録してしまいました。
獨協医科大学の馬場廣太郎名誉教授らの行った『鼻アレルギーの全国疫学調査2008(1998年との比較)』によると、スギ花粉症の有病率は1998年が 16.2%、それが2008年には26.5%へ10%以上も上昇しました。4人に1人がスギ花粉症で、患者数は3000万人。なんとも驚くべき数字です。
花粉症の4大症状は「くしゃみ」「鼻みず」「鼻づまり」「眼のかゆみ」。仕事や学習能力はかなり低下します。
花粉症の治療のベースになる治療薬は『第2世代抗ヒスタミン薬』となっており、第1世代の薬に比べてかなり改善されたとはいえ、「日中の眠気」「インペアード・パフォーマンス(気づきにくい能力低下)」が起きるものもあります。
抗ヒスタミン薬は、肥満細胞から放出されるヒスタミンの働きを抑制しますが、脳の神経伝達物質として判断力や集中力などにかかわるヒスタミンの働きも抑えてしまうことがあるのです。
そのため、抗ヒスタミン薬を服用して眠気を感じなかったとしても、集中力や判断力、作業効率が落ちていることがあります。服用した本人はそのことに気づきにくいのですが、実際に作業効率が低下してしまうことを「インペアード・パフォーマンス」といいます。
例えば、米国の研究では抗ヒスタミン薬を服用した場合、眠気を感じなかったとしても、ウイスキーをシングルで3杯飲んだときと同程度にインペアード・パフォーマンスが起こると報告されています。
この状態で自動車を運転すると交通事故だって起こしかねません。抗ヒスタミン薬の服用に伴うリスクの社会的認知が進んでいる米国では、37州とワシントン D.C.で、脳に移行するタイプ(中枢神経抑制作用のある)の抗ヒスタミン薬を服用したときは、自動車の運転が法律で禁止されています。
しかし、日本ではインペアード・パフォーマンスの認識がまだまだ低いため、そのようなことは行われていません。
第2世代抗ヒスタミン薬の中には、脳に移行しないタイプの薬もあります。薬を服用しながらも自動車を運転しなければならない人は、医師に「『服薬時自動車運転等への注意』の記載のない第2世代抗ヒスタミン薬をお願いします」と伝えて処方してもらいましょう。
「飲んだら乗るな! 乗るなら飲むな!」――この考えはお酒のみならず、脳に移行するタイプの抗ヒスタミン薬についても実行していく時代を迎えたようです。
vol.69 花粉症治療薬とインペアード・パフォーマンス

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執筆者プロフィール

松井 宏夫

松井 宏夫

医学ジャーナリスト
略歴
1951年生まれ。
医療最前線の社会的問題に取り組み、高い評価を受けている。
名医本のパイオニアであるとともに、分かりやすい医療解説でも定評がある。
テレビは出演すると共に、『最終警告!たけしの本当は怖い家庭の医学』(テレビ朝日)に協力、『ブロードキャスター』(TBS)医療企画担当・出演、『これが世界のスーパードクター』(TBS)監修など。
ラジオは『笑顔でおは天!!』のコーナー『松井宏夫の健康百科』(文化放送)に出演のほか、新聞、週刊誌など幅広く活躍し、NPO日本医学ジャーナリスト協会副理事長を務めている。
主な著書は『全国名医・病院徹底ガイド』『この病気にこの名医PART1・2・3』『ガンにならない人の法則』(主婦と生活社)、『高くても受けたい最新の検査ガイド-最先端の検査ができる病院・クリニック47』(楽書ブックス)など著書は35冊を超える。

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