vol.76 お酒を飲まなくても起こる脂肪肝炎

健康・医療トピックス
今、日本人の約2000万人が脂肪肝と推測されています。かつてはアルコールが原因と考えられていましたが、お酒を飲まないのに同じような状態になる人が多くみられ(非アルコール性脂肪肝)、アルコールによる脂肪肝と同じように炎症を起こしてしまうことが分かってきました。今日では、それを『NASH(非アルコール性脂肪肝炎)』といいます。
脂肪肝の患者約2000万人のうち、非アルコール性脂肪肝が50%の1000万人。その8%の80万人がNASHと考えられています。
NASHを放置してしまうと10年後には約10%の人が肝硬変に移行し、さらに肝がんへと進んでしまうので、お酒を飲まないからと安心はできません。

NASHを知るためには、まずは脂肪肝を知る必要があります。脂肪肝は、肝臓の細胞の3分の1に中性脂肪が蓄積されて肝臓が腫れている状態。NASHのもとになる非アルコール性脂肪肝患者には、内臓脂肪型肥満、高血圧、糖尿病、さらに、その前段階ともいえるメタボリックシンドロームを合併している人が多いと分かっています。
この段階であれば脂肪肝だとは気付きません。というのは、肝臓は我慢強い臓器なのでなかなか症状は現れないからです。自覚症状がないのに生活習慣の改善を考え、実行に結びつけるのは難しいものです。結局、NASHに進行し、肝硬変、肝がんへも――。そして“どうしてこんなことに”と思ってしまう。まさに “後悔先に立たず”です。

まだ、新しく認識された病気とあって、非アルコール性脂肪肝からNASHへ進むメカニズムは十分に分かってはいません。ただ、現時点では以下の4点が考えられています。

(1) 脂肪の燃焼で活性酸素が多く発生し、肝細胞を刺激します。
(2) 炎症を増幅させるサイトカインという物質が内臓脂肪から分泌され、活性酸素と同様に刺激します。
(3) 内臓脂肪が、膵臓から分泌されるホルモンであるインスリンの効きを悪くします。いわゆる「インスリン抵抗性」で、これも関係していると考えられています。
(4) 肝臓に鉄が過剰に蓄積しているケースもあり、鉄が炎症に何らかの関与をしている可能性も指摘されています。

NASHを防ぐには、必ず定期検診を受けることです。そして、「脂肪肝が疑われる」と指摘されたときは、しっかりと精密検査を受けましょう。
治療の第一歩は、脂肪肝も生活習慣病の代表的疾患のひとつなので、何よりも生活習慣の改善が大事になります。糖尿病、高血圧、脂質異常などを合併している場合は、当然、それらの治療も同時に行っていくことになります。

vol.76 お酒を飲まなくても起こる脂肪肝炎

このコラムは、掲載日現在の内容となります。掲載時のものから情報が異なることがありますので、あらかじめご了承ください。

執筆者プロフィール

松井 宏夫

松井 宏夫

医学ジャーナリスト
略歴
1951年生まれ。
医療最前線の社会的問題に取り組み、高い評価を受けている。
名医本のパイオニアであるとともに、分かりやすい医療解説でも定評がある。
テレビは出演すると共に、『最終警告!たけしの本当は怖い家庭の医学』(テレビ朝日)に協力、『ブロードキャスター』(TBS)医療企画担当・出演、『これが世界のスーパードクター』(TBS)監修など。
ラジオは『笑顔でおは天!!』のコーナー『松井宏夫の健康百科』(文化放送)に出演のほか、新聞、週刊誌など幅広く活躍し、NPO日本医学ジャーナリスト協会副理事長を務めている。
主な著書は『全国名医・病院徹底ガイド』『この病気にこの名医PART1・2・3』『ガンにならない人の法則』(主婦と生活社)、『高くても受けたい最新の検査ガイド-最先端の検査ができる病院・クリニック47』(楽書ブックス)など著書は35冊を超える。

商品を見る