株式会社啓和運輸
業務用自動血圧計「健太郎」
遠隔点呼システムに血圧測定を組み合わせることで、
ドライバーの健康管理を強化し、安全対策を向上
株式会社啓和運輸(本社・埼玉県入間市)は、関東を中心に全国で運送事業を展開。栃木から大阪まで39の拠点(営業所)に大型から小型・軽貨物車まで1,050台以上を保有し、約1,000人のドライバーが勤務しています。年齢は20~70歳までで平均年齢43歳。同社では2022年4月より、血圧と体温測定、アルコールチェックを組み合わせた遠隔点呼を全営業所に導入しました。導入後は血圧の改善が見られただけでなく乗務員の健康意識が向上するなど成果を上げています。


導入までの経緯 - 血圧測定をセットにした遠隔点呼を導入
国土交通省が遠隔点呼制度をスタート
国土交通省は2022年4月1日から、自動車運送事業者(トラック・バス・ハイヤー・タクシー)を対象に「遠隔点呼制度」をスタートさせました。従前もGマーク(安全性優良事業所)認定を取得している営業所に限って遠隔拠点間でのIT点呼は認められていましたが、遠隔点呼制度では使用する機器やシステムなどが要件を満たしていれば全ての営業所で実施できます。
遠隔点呼導入のメリット

夜間の点呼管理者の配置を削減し、人件費を大幅にカット

管理者の負担軽減
当社では営業所ごとに対面点呼を行っていましたが、セーフティセンター(埼玉県入間市)が24時間365日全営業所を一括遠隔点呼できるようになれば多くのメリットがあります。
最も大きいのはコスト面です。ドライバーの出発時刻や終業時刻はまちまちなので夜間も点呼の管理者が必要ですが、集中管理にすれば営業所ごとに夜勤者を置く必要はなくなり、人件費を大幅に削減できます。夜間の勤務は健康面のリスクも大きく、ご家族と過ごす時間も減ってしまうため、管理者の負担をできるだけ減らしたいという思いもあり、遠隔点呼制度開始と同時期に始まった実証実験に申し込むことを決めました。
遠隔点呼制度ではドライバーの健康状態を把握するため、血圧測定・体温測定、アルコールチェックがセットになっています。当社はすでにIT点呼システムは導入していたため、血圧計や体温計など新たに必要になる機器を用意し、既存の点呼システムに連動させるなど遠隔点呼の体制を整えて国土交通省に申請し、2022年10月に認可を受けました。
導入にかかった費用の総額は約5,000万円で、そのほとんどが既存のシステムに連動させる追加機器類の購入費です。
具体的には39営業所に、血圧計、体温計、本人確認のための免許リーダーを1台ずつ、なりすまし測定など不正を防止するためのカメラは国土交通省のルールでは1台ですが、事務所内の防犯にも役立つので2台ずつ用意しました。
5,000万円はけっして安くはありませんが、いったん導入してしまえば年間2億から3億円くらいは人件費などの経費を削減できます。
遠隔点呼は、なりすまし測定などの不正があると成り立たなくなります。測定器の周囲にカメラに映らない「死角」を作らないように、慎重にカメラや測定器類の設置位置を決めました。

運用
遠隔点呼の際に実施する血圧測定では、最高血圧が180mmHg以上の場合、乗務を停止します。
血圧チェックを含めた
遠隔点呼の流れ・ルール
出社
出庫前に血圧・体温・アルコール値の測定
測定後に本部の点呼担当者を呼び出し、
測定値のデータをもとに、
点呼担当者と
ドライバーがビデオ通話で面談
24時間365日体制のセーフティセンター(埼玉県入間市)


現在この1か所で8名前後の担当者が遠隔点呼に対応。
システム連携を行っていても、血圧測定はスムーズに行えているため、点呼を受けるドライバーが集中し、点呼待ちの状態が生じるようなことも極めて少ない。
最高血圧が180mmHgを超えた場合は
再度測定、
測り直し後も180mmHgを
超えた場合は乗務停止*
乗務停止となった場合は、必要に応じてセーフティセンターから各営業所に連絡、営業所長あるいは運行管理者から当該のドライバーに、病院で適切な治療を受けることや診断書を提出することなどを指導。基準値内に下がるまで乗務停止。降圧剤を服薬していても効果が出るまでにタイムラグが生じ、測り直しになっているドライバーもいるため、服薬時刻について主治医と相談してもらうなどの措置をとっている。
運行終了後、
退社前にも再度測定、点呼・面談
運行後の測定では、「運行前との差」を注視。
運行前後の数値を比較することで、より正確に血圧の状態を把握し、適切なアドバイスに繋げていく。
*公益社団法人全日本トラック協会の「血圧計活
用のポイント」を参考にした会社基準
血圧測定の効果
健康意識が向上し、
乗務停止はほぼゼロに
導入当初は血圧が基準値(最高血圧180mmHg)を超えてしまって再測定になったり、乗務停止になったりするドライバーもいましたが、今はほとんどいません。
乗務停止は生活に直結するので、血圧が高い場合は放置しないで定期的に通院する、きちんと薬を飲むなど、こちらから働きかけるまでもなく自ら対策を取るドライバーが増え、血圧コントロールに対する意識は高まったように感じます。

毎日測定すると体調の変化に気づきやすい
測定で自分が高血圧であることに気づいて通院を始め、大事に至らずに済んだドライバーもいました。年2回の健康診断で高めの数値が出ても、「たまたま高かっただけ」と軽視しがちですが、毎回仕事の前後に測定していれば嫌でも「たまたまではない」ことに気づきますし、仕事に影響があるなら対策もせざるを得なくなります。
また、血圧が高めや微熱が続いている人は何らかの基礎疾患を持っていることが少なくありません。血圧と体温を測定することでダブルチェックができています。
測定データの二次活用
心拍数は乗務の判断には使いませんが、血圧と同時に表示されるので、自分の心拍数を知る機会になっています。頻脈の方が健康診断の心電図検査でも引っかかり、それをきっかけに弁膜症や心筋梗塞など心臓の病気が見つかったというケースはけっこうあります。
従業員の声

【Aさん】
男性 32歳
血圧は全く問題なく基準値内で、持病もありませんが、測定時には最高血圧の数値を見るようにしています。自分の中で「110mmHg~130mmHg」の間であれば問題ないことにしていますが、タバコを吸った直後だと130mmHgを少し超えることが多いことがわかりました。基準値内ではありますが、タバコを吸うと血圧が上がることを実感し、できるだけタバコを控えるようにしています。その他、睡眠時間を十分にとる、塩分の多いカップラーメンをやめるなども意識しています。
健康診断で異常がなく、何か指摘されることがないのですが、日々の点呼のおかげで血圧を含めた健康を意識することができるのだと思っています。
会社側の取り組み - 血圧データを健康管理に幅広く活用
健康起因事故の調査に活用
セーフティセンターでは血圧や体温などの数値をすべて記録に残し、点呼時のやり取りの映像も最低1年分は保管しています。急に血圧が高くなるなど気になることがあった場合は、遡って過去のデータを確認することはよくあります。特に事故を起こしたドライバーは体調が影響を与えている可能性もあるので、データは必ず見返しています。

測定データの分析
累積したデータも活用しています。たとえば2023年に3ヶ月連続で血圧の測定値が毎回150mmHg以上の人をピックアップしてExcel上で分析を行ったところ、50代以上になると高血圧の割合が12.3%と高くなることがわかりました。データをもとにポイントをしぼった対策を講じることができそうです。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)の検査と脳ドックの実施
当社は現在、ドライバーに重大な事故につながる恐れがある「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」の検査や脳ドックを実施しています。セーフティセンターでは点呼時の測定で得られた血圧などのデータ類を、産業医と各営業所の管理者に提供。産業医はドライバーのSAS検査データとすり合わせながらハイリスク者を抽出して受診を勧め、管理者も「こういうデータが出ているので医療機関に行ってください」と背中を押すことができます。データの役割はとても大きいと考えています。
まとめ
株式会社啓和運輸は国土交通省の遠隔点呼制度の導入により、コストを抑えつつ点呼の効率化を実現。遠隔点呼システムにセットされている血圧測定を含めたドライバーの健康チェックを健康管理にも役立ててきました。遠隔点呼の導入以降、血圧が基準値を超えたことによる乗務停⽌件数は減少し、ドライバー自身の健康意識も向上しています。
また、蓄積したデータは、基礎疾患の早期発見や睡眠時無呼吸症候群の予防にも活用。
今後さらなる健康管理の強化とデータ活⽤を進めて、健康起因のあらゆる事故の低減に努め、安全で持続可能な運⾏環境の確⽴を⽬指していきます。
掲載内容は2025年1月、取材時点の情報となります。