
「低周波治療器を使った後の試合は疲れを感じなかったです」
全国大会の常連校がしのぎをけずった敬相杯で矢板中央高の1年生たちは、1日で2試合から3試合をこなすハードスケジュールのなかで、体のケアの重要性などをあらためて学んだようです。1年生チームが始動してまだ1カ月あまり。入学後、経験した対外試合は関東ルーキーリーグU-16など数えるほどだと言います。
大会2日目。矢板中央高の選手たちは試合の疲労が蓄積するなか、会場内に設置されたオムロンの低周波治療器が用意されたテントに続々と集まってきました。サッカーの女子ワールドカップ、オリンピックで活躍したなでしこジャパンの澤穂希さんたちをサポートしたスポーツトレーナーの山田晃広さんがリカバリーの大切さと低周波治療器の説明を始めると、真剣な表情で耳を傾けていました。各々で気になる体の部位にパッドを貼り、初めての体験。ふくらはぎをケアしていた工藤舜大選手は心地よさを感じたと言います。
「すぐに実感することはできなかったのですが、15分程度使うと、いい刺激が入っている感じでした。僕は練習後もふくらはぎや腰に疲労が溜まることが多いので、毎日のように使うことができればいいなと思いました」
効果をより実感していたのは、連戦の合間に低周波治療器を利用した福岡知典選手。パッドを貼り付けた太もも前側の部位は、疲労感が抜けたと言います。
「僕は下半身が弱くて、他の選手たちに比べて、どうしても疲労が溜まりやすいんです。そうなると、キックの精度が落ちることもあるのですが、低周波治療器を使った後の試合はあまり疲れを感じなかったです」
「空いた時間に体のケアができるところがいいなと思いました」
福岡選手は、あらゆる筋肉に貼れる機能性にも興味を持っていました。手を使うゴールキーパーというポジションがら腕、肩も酷使するため、上半身の部位にもパッドを貼ってみたかったようです。選手たちが口をそろえて話していたことがあります。
「空いた時間に体のケアができるところがいいなと思いました」
矢板中央高校のサッカー部では1年生だけで約60人が寮生活を送っています。チーム全体として、体をケアすることに気を使っており、選手たちは毎週のようにサッカー部をサポートする接骨院に通っていると言います。電気治療、マッサージを施してもらっていることには誰もが感謝しつつも、時間が限られている現実もあります。チームの練習が終わり、寮に戻るのは19時頃。遅いときは20時になることもあります。接骨院が開いているのは21時までで、寮の消灯時間は22時半。それでも、毎日のケアを欠かしたくない川隅雄哉選手は、しみじみと話します。
「ケガでチャンスを棒に振りたくない。体のケアをしっかりしていきたいです」
「決められた時間に食事を取り、お風呂にも入りますし、ぎりぎりになるんです。時間を気にすることなく、筋肉疲労を回復する機器を使えれば、良いですよね。その日の状況に応じて、寮の部屋でリカバリーができるのは理想だと思います。低周波治療器を使ったあとは、接骨院で電気治療をしたときと同じように足が軽くなった感じがしました」
川隅選手は山梨県の甲府市立東中学校時代から丁寧なケアを続けてきました。入浴後のストレッチは日課。猫背で腰に負担がかかることが多く、特に背中周りには気を使っています。高校入学後、より神経を使うようになったようです。
「僕だけではなく、矢板中央高の選手たちはみんなそうです。日頃の練習がとてもハードなので、しっかりリカバリーをしないと、次の日に練習に支障をきたしてしまうんです。少しでも体のケアを怠ると、翌日は筋肉がガチガチになって動けなくなりますから。良いパフォーマンスを発揮できなくなりますし、ケガの原因にもつながります」
1日1日が勝負です。練習から全力で激しくぶつかり合うため、毎日へとへとになるようです。試合さながらの緊張感を持って取り組まなければ、練習はすぐにストップします。毎年、全国から腕に覚えがある有望な選手たちが集まり、チーム内のレギュラー争いはし烈を極めます。ポジションを約束されていない選手たちが最も避けたいのは、負傷してチームから長く離れることです。練習に参加できないことは、レギュラーから遠ざかることを意味します。筋膜リリースの器具を個人で所有する福岡選手は、毎日のように体と向き合うのは、自分のためだと言います。
「後悔しない体づくりを心がけています。ケガをして後悔するようなことは絶対にしたくありません。ただ、闇雲にケアしているわけではないです。やりすぎもよくないので、時間はちゃんと気にするようにしています。リカバリーに気を使うのは、昨日より今日、今日より明日少しでも良いプレーをしたいからです」
矢板中央高の選手たちは体を鍛えて、ケアすることに加えて、食事と睡眠も大切にしています。運動した直後にプロテインを摂取し、効率的に疲労を回復するためにビタミンを多く取ることも意識するところ。目標に一歩でも近づくためにケガの予防に努めるのは、もはや当たり前のことなのでしょう。福岡選手をはじめ、工藤選手、川隅選手らは入学後、「まだ一度も故障していない」と話していました。彼らが夢見るのは、全国大会の舞台に自らの足で立つことです。
川隅選手は、冬の全国高校選手権に特別な思いを抱いています。地元の山梨で開催された全国中学校大会に出場し、名門の青森山田中学(青森)に0-7の大敗。当時の悔しさを忘れたことはありません。高校生のステージで雪辱を果たすと心に誓いました。
「高校の一番大きな舞台で青森山田高校に勝てるチームに行きたいと思い、矢板中央高に来ました。もちろん、夏のインターハイでも勝ちたいですが、僕の目標はやっぱり冬の高校選手権。泣いて終わるのではなく、気持ちよく卒業したい。3年生の最後の大会で勝って笑えるチームの一員になりたいです。そのためにも、ケガでチャンスを棒に振るようなことはしたくないので体のケアをしっかりしていきたいです」