ストレスを解消し高血圧を上手にコントロールする

高血圧 予防・対策・生活改善

ストレスと血圧上昇

緊張すると、血圧が上がることはよく知られています。その典型は「白衣高血圧」です。白衣高血圧とは、病院の診察室などで血圧測定をするときに、普段と違う環境のため緊張してしまい、それがストレスとなって血圧が一時的に上昇する現象です。一般的に病院で測定する血圧は、家庭で測定する血圧より高くなりがちです

  • 人によっては反対に、病院で血圧を測定したほうが低い場合もあります。これは医師に診てもらうことで、安心感が増すことが理由と考えられています。

ストレスによる血圧の上昇でもっとも注意したいのは、脳卒中や心筋梗塞などの引き金になることです。その典型といえるのが、スポーツ中の発作です。例えばゴルフでは、パットとティーショットのときに発作を起こすケースが目立ちます。緊張し息を詰めることで、血圧が急上昇するからです。冬の早朝ゴルフでは、寒さによる身体へのストレスも影響しています。

〈こぼれ話:スポーツ中の突然死の原因と競技種目〉

日本におけるスポーツ中の突然死をまとめたデータ1)によると、突然死を引き起こす競技としては、ランニングが最も多く、水泳、野球、ゴルフと続きます。55歳以上の比較的高齢の方でみると、ゴルフに加えてダンスやゲートボール中の突然死も多くなります。これは、 高齢のスポーツ愛好家の中には心疾患の持病を抱えている人も多く、突然死などのスポーツ中の事故を起こす危険性が高くなるためです。ちなみに、スポーツ中の突然死は運動の強度とは関係なく発生することがわかっています2)

このようにストレスは、血圧の上昇と深い関連があります。ところが血圧が高めで、食事などに気をつかっている人でも、ストレスについては無関心ということが少なくありません。命に関わるような重大な発作を起こさないためにも、自分のストレスについて知っておくことが大切です。

ストレスにつながる原因を知る

そもそもストレスとは、外からの刺激で生じる緊張状態のことです。日常生活の中で起こるさまざまな変化が、ストレスの原因になります。たとえば、進学や就職、結婚、出産といった喜ばしい出来事であっても、変化であり刺激ですので、実はストレスの原因になります3)
○環境的要因:天候や騒音など
○身体的要因:病気や睡眠不足など
○心理的な要因:不安や悩みなど
○社会的要因:人間関係がうまくいかない、仕事が忙しいなど

vol.30 ストレスを解消し高血圧を上手にコントロールする

ストレスでなぜ血圧が上がるのか

身体はストレスを受けると、敵と戦ったり逃げたりする準備状態に入るため、「緊張モード(防御反応)」に切り替わります。骨格筋が最大限に働けるよう、心臓は心拍を速くして血液をたくさん送り出し、骨格筋以外の臓器の血管は収縮して血流をカットします。これによって血圧が上がります。

ストレスと血圧の関係に関する最近の解析研究によると、心理的・社会的なストレスによって、高血圧の発症は2倍以上になると報告されています4)。また、高血圧患者では、血圧が正常値である人に比べると慢性的なストレスにさらされていることもわかっています5)

家庭や職場でストレスかかっていませんか?

日中の活動時間帯はだれでもある程度は血圧が上昇します。しかし、その上昇の度合いが大きい「昼間高血圧」には注意が必要です。昼間高血圧とは、「ストレス下高血圧」とも呼ばれ、病院等で測る血圧が正常であっても、昼間の生活時の血圧平均値が135/85 mmHg以上になる状態のことをいいます。職場や家庭でストレスの多い人はもちろん、肥満の人や高血圧の家族歴のある人でも多くみられます4)。この昼間高血圧は、脳心血管疾患を発症するリスクになるので6)、朝晩の家庭血圧が正常であっても安心はできません。

ある調査によると、健診時の測定血圧も家庭血圧も正常と診断されていた就労者の血圧を職場で測ったところ、その17%に「昼間高血圧」がみられたと報告されています7)。普段の生活でストレスがかかっている人は、仕事や家事の合間に血圧を測ってみると、昼間高血圧の発見につながるかもしれません。

ストレスによる血圧上昇に注意したい人

ストレスによって一時的に血圧が上昇しても、健康な人ならしばらく時間がたつと血圧も正常に戻ります。ところがストレスを受けると、血圧が回復しにくい人や、一時的な血圧上昇をきっかけに脳心血管疾患を発症してしまう人もいます。一般に、次のような人は注意したほうがよいでしょう。

  • ● 65歳以上の高齢者
  • ● 喫煙者
  • ● 肥満の人(特に内臓脂肪型の肥満)
  • ● 糖尿病や脂質異常症などの持病を持っている人
  • ● 家族に脳卒中や心筋梗塞などの脳心血管疾患の病歴がある人

自分のストレスに気付く

ストレスを受けていても、自分ではなかなか気が付きません。そのため知らないうちにさまざまな不調をもたらしていることも。ストレスによる血圧上昇を予防する第一歩は、自分のストレスを自覚することです。次のような症状8)がみられたら、ストレスが要因ではないかを疑ってみましょう。

○気分がすぐれない
気分が沈む、憂うつ、何をするのにも元気が出ない、イライラする、怒りっぽい、理由なく不安な気持ちになる、気持ちが落ち着かない

○眠れない
なかなか寝付けなくなった、夜中に何度も目を覚ます

○食事が楽しくない
何も食べたくない、食事がおいしく感じられなくなった

このほかにも、「風邪をひきやすい」「胃痛や腹痛が起こる」「頭痛・肩こりが多い」など、ストレスの影響が体の不調として出ることもあります。

〈ストレスチェックのためにも家庭血圧を測りましょう〉

家庭での血圧の測定は、ストレスと血圧との関係を知るうえでも欠かせません。家庭血圧は、原則として朝起きたときや、就寝前などに安静状態で測定しますが、ふだんと違って大きく上昇しているときには、なんらかのストレスを受けているのかもしれません。家庭血圧の変化は、よく眠れているか、疲れていないか、職場や家庭などでもめごとや悩みはないか、不安に感じていることはないかなど、自分のストレスを考えるきっかけとなります。

ストレス解消と血圧のコントロール

ストレスが全くないという人はいません。誰にでもあるものですが、ストレスをためすぎると血圧に影響するだけでなく、心や体の調子も崩してしまいます。そのため、できるだけストレス解消を心がけて生活することが大切です。しかしストレスの内容によっては、簡単には解消できないものもあるでしょう。そのためストレスをためない生活9)をすること、ストレスに対する抵抗力を高めることも、血圧をコントロールするための大切な要素です。

●毎日の生活習慣を整える
ストレスと上手につきあっていくためには、まず毎日の生活習慣を整えることが大切です。「バランスの取れた食事を摂る」「良質な睡眠をとる」「適度な運動を習慣づける」などが、健康維持のための基本になります。

●リラックスできる時間をもつ
ストレスがたまっているなと感じる時は、日常生活の中でリラックスできる時間をもつことも大切です。ゆっくりと深い呼吸をする、ぼんやりと窓の外を眺める、ゆっくりお風呂に入る、軽く体をストレッチする、好きな音楽を聴くなど、脳をリラックスさせる時間をつくりましょう。
ただし、ストレス解消のための飲酒には要注意です。お酒を飲んでつらさを紛らわせようとすると、睡眠の質が低下してしまって心身には逆効果になるので気をつけましょう。

知っておきたい ストレスに強くなるための食生活

食事が直接ストレスの原因を解決できるわけではありませんが、体の健康維持に必要な栄養素が不足するとストレスを感じやすくなります10)。ストレスで不足しがちな栄養素を知って、ストレス対策に役立てましょう。

??カルシウム
カルシウムが不足するとイライラの原因となります。
カルシウムを多く含む食品:干しエビやしらす干しなど小魚類、納豆などの大豆製品、チーズなど

??マグネシウム
マグネシウムにはカルシウムの働きを調整する作用があります。
マグネシウムを多く含む食品:アーモンドや落花生などの種実類、大豆、納豆、ひじきなど

??タンパク質
ストレスを受けると、副腎皮質ホルモンなどの数種類のホルモンが盛んに分泌されてタンパク質の消費や分解が進み、肌が荒れたり、疲れやすくなったり、脳の働きが低下したりします。
良質なタンパク質を多く含む食品:肉類、魚介類、乳・乳製品、大豆・大豆製品など

??ビタミン
ストレスを受けると抗酸化機能が低下し、抗酸化ビタミンのβ-カロテン、ビタミンC、Eが不足します。また、ビタミンB群が不足すると、皮膚や粘膜や血管などに異常が生じ、神経の正常な働きに支障が出て精神状態が悪くなります。
ビタミンを多く含む食品:野菜や果物

ストレスがある時は、なかなか食事にまで気が回らないかもしれませんが、肉や魚などの良質のタンパク質と野菜などのビタミン類をしっかり摂りつつ、バランスの良い食事を心がけていきましょう。

<参考資料>

  1. 畔柳三省ほか.日本臨床スポーツ医学会誌. 2002; 10 (3): 479-89
  2. 大槻穣治.心臓. 2020; ?52(4):354-9
  3. 厚生労働省「知ることからはじめよう みんなのメンタルヘルス」
    https://www.mhlw.go.jp/kokoro/first/first02_1.html
  4. 日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会 編. 高血圧治療ガイドライン2019. ライフサイエンス出版, 2019
  5. Liu MY, et al. Neurol Res. 2017 Jun; 39(6): 573-80.
  6. Schnall PL, et al. Annu Rev Public Health 1994; 15: 381-411
  7. 服部 朝美ほか. 心身医 2020; 60(5): 398-404
  8. 厚生労働省「知ることからはじめよう みんなのメンタルヘルス」こころの病気の初期サインに気づく
    https://www.mhlw.go.jp/kokoro/first/first03_1.html
  9. 厚生労働省「知ることからはじめよう みんなのメンタルヘルス」ストレスをためない暮らし方
    https://www.mhlw.go.jp/kokoro/first/first02_2.html
  10. 特定非営利活動法人 日本成人病予防協会「健康管理情報>食事?ストレス解消法」
    https://www.japa.org/tips/kkj_1003/

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