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2007.11.09

vol.53 心筋梗塞を予防する食事学

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心疾患と食事との関係

Vol.53 心筋梗塞を予防する食事学 寒くなるにつれ、心筋梗塞や狭心症を起こす人が増えてきます。こうした心疾患の予防に、食事が大切な意味をもっていることをご存じでしょうか。
患者数の多い欧米では、早くから食事との関係が重視され、その研究が続けられてきました。最初に注目されたのは、グリーンランドなど北方地域に暮らすイヌイットの人々の食生活でした。魚類やアザラシなどを多く食べるイヌイットには、急性心筋梗塞を起こす人が非常に少ないのです(※1)。
調査の結果、イヌイットの人々の血液中の脂肪分には、魚類に豊富に含まれるDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)が多いことがわかりました。DHAやEPAといえば、日本では脳の血流をよくする成分とされ、「魚を食べると頭がよくなる」というCMソングまでありますが、もともとは心筋梗塞の予防効果で注目されました。
一方、昔から魚をよく食べていたはずの日本でも、近年になって心疾患の予防が重要なテーマとなっています。この30年間の死亡者数の推移をみると、脳卒中などの脳血管疾患は減少傾向にあるのに対し、心疾患は一時的に減少することはあっても全体として増加傾向にあるからです。
その背景には、肉類など脂肪分の多い食事が日常化し、逆に魚を食べる人が減っていることが指摘されています。そのため日本でも、心疾患の予防を目的に、食事を見直す動きがみられます。

(※1)1972年にデンマークで実施された調査では、急性心筋梗塞になる比率がデンマーク人の40%に対して、イヌイットはわずか3%という結果が出ています。また、イヌイットがよく食べるアザラシは、魚類を主食としています。

魚食にみる心筋梗塞の予防効果

2006年に厚生労働省の研究班が、「魚食と心疾患との関係」についての報告を発表しました。日本人の場合にも、魚食による心疾患の予防効果がみられるのかどうか…という点について、長期にわたる調査を実施した結果です(※2)。
その報告によると、魚を食べる量が最も多いグループ(週8回、1日当たり180gに相当)は、最も少ないグループ(週1回、1日当たり20gに相当)と比較して、心疾患を起こすリスクが約40%も低いことがわかったのです。とくに心筋梗塞に限ると、約55%もリスクが低い…つまり半分以下という結果になっています。
さらに魚の栄養分のうち、先ほどのDHAとEPAの効果についての調査も行われました。
その結果、DHAとEPAの摂取量が最も多いグループ(1日当たり2.1g)は、最も少ないグループ(1日当たり0.3g)と比較して、心疾患のリスクが40%以上も低かったのです。とくに心筋梗塞のリスクは約65%も低下することがわかりました。
DHAとEPAは脂肪酸の一種で、血小板が集まるのを防いだり、血液の粘りをやわらげる働きをもっています。心筋梗塞は、血管内にできる傷に血小板などが集まり、血栓をつくることから起こります。また、血液がドロドロ状態であるほど、起こりやすくなります。DHAとEPAは、まさにその2つの悪条件を緩和する働きをするのです。
この調査から、日本人の場合にも「魚を多く食べると心筋梗塞の予防効果がある」ことと、「その主役がDHAとEPAである可能性が高い」ことが判明したのです(※3)。

(※2)厚生労働省研究班による「多目的コホート研究」のひとつとして、日本各地に住む40~59歳の男女約4万人を対象に11年間に及ぶ追跡調査が実施されたものです。

(※3)この調査は、魚に含まれるDHAとEPAの効果を対象としたもので、サプリメントによる効果は検討されていません。

予防効果が注目される栄養素

私たち日本人の栄養の指針となる「日本人の食事摂取基準」(厚生労働省)が、2005年に改定されました。そのなかで、今まで以上に多く摂取すべきものとして、次の4つが選ばれています(※4)。

  • カルシウム
  • カリウム
  • 食物繊維
  • n-3系脂肪酸(DHA、EPA)

実はこの4つ、いずれも心筋梗塞の予防に重要な栄養素なのです。
例えばカルシウムは、心臓の筋肉(心筋)を動かすのに欠かせません。体内のカルシウムが不足すると、心臓を動かすために骨からカルシウムがうばわれ、その結果、血液中のカルシウム・バランスがくずれて血栓ができやすくなります(詳細は「はじめよう!ヘルシーライフ」Vol.15をご参照ください)。
次のカリウムは、ナトリウムと一緒になって心臓の筋肉を動かす電気信号を生み出し、心臓の働きを調節する栄養素です。総じて日本人はナトリウム(塩分)を多くとるため、カリウムとのバランスがくずれると、心臓の動きに悪影響を与えかねません。
従来の「日本人の食事摂取基準」では、カリウムの基準量は1日2000mgとされ、多くの人がこの数値を満たしていました(※5)。しかし2005年の改定では、1日3500mgへと大幅に増量されました。これほどカリウムが重視されたのは、初めてのことです。
3つ目の食物繊維は、最近の研究から心筋梗塞のきっかけとなる血管の炎症を抑える効果が報告されています(※6)。体内で炎症などが起こると、C-反応性タンパク質(CRP)が増加することから、CRPは心筋梗塞や動脈硬化のマーカーとして注目されています。食物繊維をたくさんとる人はCRP濃度が低く、それだけ心筋梗塞のリスクも低下します。
最後のDHAとEPAは、前述したので省略しますが、これら4つの栄養素が、心筋梗塞の予防には非常に大切であることを知っておきましょう。

(※4)「日本人の食事摂取基準」は、私たち日本人が毎日の食事からとるべき栄養の基準(必要量)を定めたもので、栄養指導の基準ともなっています。

(※5)日本人の平均的なカリウム摂取量は1日2400mg程度で、従来の基準は満たしていますが、改定された基準(3500mg)とはかなり差があります。

(※6)アメリカのマサチューセッツ医科大学の報告(2006年)によると、食物繊維を最も多くとるグループ(1日22.36g)は、最も少ないグループ(1日10.22g)と比較して、CRP濃度が63%も低いことがわかっています。CRP濃度が高いと、糖尿病のリスクも高まることから、食物繊維の摂取による心疾患や糖尿病の予防効果が期待されています。

こんな食品で上手に予防する

<DHA、EPA>

DHAとEPAを多く含む魚類の代表は、アジ、サバ、イワシ、サンマなどの青魚です。しかし、マグロやサケなどにも多いので、こういった魚を週のうち3~4回程度は食べるようにしましょう(※7)。
とくに肉食が多い人は、メインのおかずを少しずつでも魚に替えていくことが大切です。

<カルシウム>

カルシウムを豊富に含む食材には、牛乳と小魚があります。とくに牛乳はカルシウムの吸収率が高く、効率的にとることができます。脂肪分が気になる人は、低脂肪乳にしましょう。
牛乳が苦手な人はチーズなどにするか、大豆食品(納豆や木綿豆腐など)、海藻類(ひじき、昆布など)、切り干し大根、緑黄色野菜にも多く含まれているので、こうした食品をバランスよくとることが大切です。
また納豆にはカルシウムのほか、ナットウキナーゼという特殊な酵素が含まれています。ナットウキナーゼには血栓を溶かす働きがあり、心疾患の予防効果が高いことが知られています(※8)。

<カリウム>

カリウムはバナナに多く含まれていますが、野菜類ではトマト、カボチャ、ほうれん草、サトイモ、大豆類にも豊富です。このうちトマトにはカリウムだけでなく、LDL(悪玉)コレステロールの増加を抑えるリコピンという成分が含まれています。
ただし腎臓疾患がある人は、カリウムの排泄がうまくできないこともあるので、医師に相談してください。

<食物繊維>

食物繊維を多く含む食品ではコンニャクが有名ですが、ごぼうや切り干し大根などの根菜類、ひじきや昆布などの海藻類、サツマイモやサトイモなどのイモ類、きのこ類などにも豊富に含まれています。
女性には便秘解消などを目的に食物繊維をとる人が多いのですが、中高年男性も心筋梗塞の予防のために食物繊維をしっかりとりましょう。食物繊維の多い食品は、総じてカロリーの低いものが多いので、肥満解消にも役立ちます。

(※7)魚類に蓄積している水銀が妊婦に影響を与えることがあります。妊娠中の女性が魚類をたくさん摂取するときには、医師に相談してください。

(※8)ワルファリンという血栓の予防薬を飲んでいる場合は、ナットウキナーゼが薬の効果を阻害することがあるので注意が必要です。


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