大動脈瘤と大動脈解離...高血圧の人は要注意

高血圧 病名・疾患解説

危険な大動脈の動脈硬化

中高年の方なら、大動脈瘤(りゅう)や大動脈解離(かいり)といった病名を、一度は聞いたことがあるでしょう。家族や知人に、大動脈瘤が破裂して緊急手術を受けた方がいるかもしれません。

決して珍しい病気ではないのですが、どのような病気なのかはあまり知られていないのが現状です。「大動脈ってどこにあるの?」とか「原因は?」と改めて聞かれると、正確にいえる方は案外少ないのではないでしょうか。

大動脈とは、心臓から出て胸部、腹部にいたる、身体の中心を走る最も太い血管のことです。太さは胸部で直径約3cm、腹部でも約2cmもあります。

その太い血管で動脈硬化が進むと、血管内壁の弾力性が低下し、さまざまな異常が起こりやすくなります。もろくなった血管内壁に高血圧などの要因が加わり、血管がこぶのようにふくらんだ状態になるのが大動脈瘤。そして血管内壁の一部に亀裂が入り、剥離(血管壁が剥がれて、裂ける)を起こした状態が大動脈解離です。

どちらも放置すると、あるとき血管が破裂して大出血を起こす、命にかかわる重大な病気です。例えば大動脈瘤が破裂した場合は、緊急手術を受けても死亡率は30~50%。一方、大動脈解離の場合、2週間放置していると死亡率は75%にも達します(※1)。

それほど危険な病気なのですが、大出血を起こすまでは目立つ自覚症状がないため、なかなか気がつきません。早期発見のためにも、病気について知っておき、予防を心がけることが大切です。特に高圧血は、動脈硬化の原因になるだけでなく、血管がふくらんだり、亀裂が入る要因ともなるので、十分な注意が必要です。

(※1)厚生労働省の『人口動態統計』などによれば、大動脈瘤と大動脈解離による死亡者はこの10年間で約1.5倍に増えています。

vol.75 大動脈瘤と大動脈解離...高血圧の人は要注意

大動脈瘤とは、どんな病気?

大動脈瘤とは、大動脈が「こぶ(瘤)」のようにふくらんだ病態を指します。通常、血管の直径が通常の1.5倍程度になると大動脈瘤と診断され、2倍程度になると手術が必要とされます。人によっては、健康時には直径2~3cmの大動脈が、7~8cmにもふくれることもあります。

発症年齢は70歳代がピークですが、50歳代から増え始めます(※2)。大動脈瘤は急に大きくなるわけでなく、少しずつ拡大していくので、中年期から動脈硬化には注意が必要です。

大動脈瘤は形によって、一部分だけがこぶ状にふくらんだ「嚢状(のうじょう)動脈瘤」と、全体的にふくらんだ「紡錘状(ぼうすいじょう)動脈瘤」に分けられ、この2つが混合したパターンもあります。一般的に、嚢状動脈瘤のほうが、こぶが小さくても破裂しやすいといわれているので、早めに対処しなければなりません。

また、こぶができた場所によっても呼び名が変わり、胸部に大動脈瘤ができたものを胸部大動脈瘤、腹部にできたものを腹部大動脈瘤といいます。

大動脈瘤ができても、破裂するまでは血液がふつうに流れているため、痛みなどの前兆はありません。しかし、大動脈瘤が破裂して出血を起こすと、胸部の場合には胸や背中に強い痛みを感じ、呼吸困難に陥ることもあります。

腹部の場合には、お腹や腰の付近にやはり強烈な痛みを感じます。一般に大動脈瘤の破裂による痛みはかなり激しいものですが、高齢者のなかには知覚神経の機能が低下していて、我慢できる程度の痛みしか感じないケースもあります。

出血が一時的におさまると、痛みも引きますが、快方に向かっているわけではありません。しばらくして大出血を起こすことも多いので、おかしいと思ったときはすぐに医療機関へ行くことが求められます。

また、直接的な前兆とはいえませんが、胸部大動脈瘤の場合、ふくらんだ血管が周囲の器官を圧迫すると、いろいろな症状が出やすくなります。例えば、声帯の神経を圧迫するとしわがれ声になる、気管を圧迫すると呼吸が苦しくなる、食道を圧迫すると嚥下障害(飲み込みにくい)を起こすなどです。

腹部大動脈瘤の場合は、お腹のあたりに触れるとドクンドクンという拍動を感じることがあります。これはふくらんだ血管の拍動が外にまで伝わるためです。ただし、太っていて腹部脂肪が多いと、分かりにくいかもしれません。

胸部や腹部でこうした症状がある場合は、大動脈瘤がかなり大きくなっている可能性が高いので、すぐに受診しましょう。

(※2)大動脈瘤の発症年齢は、70歳代が断然多く、続いて80歳代、60歳代となっています。40歳代まではわずかですが、50歳代から増え始めます。男女比では、男性が女性の3倍程度になります。

大動脈解離とは、どんな病気?

血管は、内膜、中膜、外膜の3層構造となっています。大動脈解離は、血管のいちばん内側にある内膜に亀裂が入り、そこから血液が一気に流れ込むことで、次の層の中膜が裂けて剥離を起こす病気です。中膜の剥離が進んで外膜まで破れると、大出血を起こすこともあります(※3)。

大動脈解離の場合、ほとんどの人が経験したことがないほどの激痛を感じます。「引き裂かれるような痛み」とか、「バットで殴られたような痛み」などと表現する人もいるほどです。

患部が次第に広がるにつれ、その痛みは胸から背中や肩、そして腹部というように移動します。人によっては胸から腹部にかけて、長い解離が生じることもあります。したがって痛みをこらえていると、どんどん解離が大きくなり、それだけ死亡率も高くなるので、すぐに医療機関へ行くべき危険な状態です。

発症年齢は70歳代がピークですが、30歳代、40歳代にも少なくありません(※4)。特に高血圧の方は解離を起こしやすいので、早くから注意したほうがいいでしょう。

大動脈解離の場合も、大動脈瘤と同じく、前兆といえる症状はほとんどありません。ただ、最初に亀裂が入った内膜の一部が剥がれて移動し、ほかの動脈をふさぐような場合は、そこから先の器官へ血液がうまく流れない状態(虚血状態)に陥り、心臓発作や腎臓障害、手足の神経障害などさまざまな症状が起こることがあります。

また、大動脈解離を起こすと、腕や脚の脈が弱くなり、測定不可能になることもあります。動脈硬化がある人にこうした症状がみられる場合も、早めに受診することが大切です。

(※3)内膜に亀裂が入ると、そこから血液が流れ込み、血管の内腔が2つ(真腔と偽腔)に分かれてしまうこともあります。

(※4)大動脈解離の発症年齢は70歳代がトップですが、60歳代、50歳代、80歳代もかなり多くなっています。また20歳代までは少数ですが、30歳代、40歳代になると増え始めます。男女比では、中年期には男性が2~3倍ですが、高齢になるほど差は縮まり、80歳代では女性が逆転します。

治療と予防で知っておきたいこと

大動脈瘤と大動脈解離は、X線検査や超音波検査で見つかることもありますが、CT検査を受けると、患部の正確な場所や大きさなどを判断することができます。

大動脈瘤が発見された場合は、破裂する前に薬(降圧薬など)で治療するか、手術で「人工血管」に換えるかの2つの治療方法があります。大動脈瘤のある場所や大きさなどによって破裂の危険性が異なり、また治療方法も違うので、医師から詳しく話を聞きましょう。

破裂前の手術にもリスクはありますが(0.5%程度)、破裂した場合(30~50%)のリスクと比較するとかなり低いといえます。特にカテーテル手術(※5)は身体への負担が少なく、4~5日で退院できます。ただし、カテーテル手術を行う病院はまだ多くないので、その点も検討したほうがいいでしょう。

大動脈解離の場合は、患部そのものへの治療と、内膜が破れてほかの動脈をふさぐ危険を防止するための治療があります。この場合も患部の場所や大きさによって、薬による治療と手術との選択肢があります。合併症などの危険性もあるので、手術するかどうかは医師とよく相談しましょう。大動脈解離の場合も、カテーテル手術は可能です。

大動脈瘤も大動脈解離も第一の原因は高血圧です。血圧が高いと、それだけ血管への負担が大きくなり、大動脈瘤ができやすく、内膜の亀裂も起こりやすくなるため、予防については日常の血圧管理がとても重要です。

また、高脂血症や糖尿病などを併発していて、動脈硬化を起こしやすい人は、血圧を中心にコレステロールや血糖値を含めて、きちんと管理することが予防につながります。それらをコントロールするには、食事の内容や運動はもちろん、アルコールの飲みすぎや喫煙習慣にも注意が必要です。すでに動脈硬化の可能性がある人は、医師の指導を受け、生活全般にわたって見直すようにしましょう。

(※5)カテーテル手術では、脚の付け根からカテーテルという細い管を通し、ステントグラフトという網目状の人工血管を折りたたんだものを患部まで送ります。ステントグラフトは大動脈瘤などのある患部で広がって固定され、傷んだ血管の代わりをします。

参照URL
『平成28年 人口動態統計月報年計(概数)の概況』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai16/dl/gaikyou28.pdf
『大動脈瘤と大動脈解離』国立循環器病研究センター病院
http://www.ncvc.go.jp/hospital/pub/knowledge/disease/aortic-aneurysm_dissection.html

更新日:2021.03.05

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