ニュースリリース

「住まいと健康」に関する共同調査 第2弾報告
就寝中の寝室室温が低いと、
起床後に測定する朝の血圧は上昇

-就寝中の平均寝室室温が10℃低下することにより、朝の血圧は7mmHg上昇-
調査

オムロン ヘルスケア株式会社(本社所在地:京都府向日市、代表取締役社長:荻野 勲)と慶應義塾大学 理工学部(伊香賀俊治教授)、自治医科大学 循環器内科学部門(苅尾七臣教授)、住宅や建築物の省エネルギーシステムの開発・販売を行うOMソーラー株式会社(本社所在地:静岡県浜松市、代表取締役社長:飯田祥久)が実施する、「住まいと健康」についての共同研究により、就寝中の寝室の室温が低いと、起床後に測定する朝の血圧は上昇することがわかりました。

本研究では、室温の変化が血圧に与える影響についての調査を行っています。今回は、冬季の実生活場面での就寝時の寝室の室温と、起床後に居間で測定した家庭血圧、また寝室と居間の室温差に関する実測結果の分析を行いました。
その結果、就寝中の寝室の平均室温が10℃低くなると、朝の平均収縮期血圧は7mmHg高くなる傾向が見られ、寝室の室温の変化が大きい住環境では朝の血圧への影響が大きいことが示唆されました。寝室に加えて血圧測定時の居間の室温についての分析も加えたところ、居間の室温が18℃以上と高い場合でも、寝室の室温の変化が大きい住環境では同様の血圧上昇結果が見られ、朝の血圧の上昇を防ぐには、居間の室温管理だけではなく、就寝中の寝室の室温管理が重要であることが明らかになりました。
また、就寝時の居間と寝室の平均室温を比較すると、断熱性能の高い住宅*1では温度差は平均1.5℃であったのに対し、断熱性能の低い住宅では平均5.5℃の温度差が見られました。中には、居間の室温が20℃でも、寝室の室温は約5.0℃の住宅もあり、部屋によって室温差が大きいことがわかりました。

脳卒中や心筋梗塞などは早朝から午前中に多く起こることから、本来は低いはずの朝の血圧が高い「早朝高血圧」*2を予防することが重要とされています。
今回の調査により、早朝高血圧の予防のためには、睡眠中の寝室の室温管理が重要であること、また住宅内での室温差管理が大切であることが明らかになりました。

  • *1平成11年に改訂された断熱基準(次世代省エネ基準)を満たしている住宅
  • *2人間の血圧は一日のうちで常に変動しており、その変動の仕方には個人差があります。正常の血圧の人では、起床後徐々に上昇し、夕方ごろにピークになり、その後徐々に低下して深夜(就寝中)にもっとも低くなります。しかし、この血圧パターンが変化して、起床後血圧が高くなるケースがあります。これを「早朝高血圧」といいます。早朝高血圧には、起床後に血圧が急上昇するタイプと、就寝中に血圧が下がらないまま起床後に血圧が上昇するタイプがあります。

今回ご報告する調査の概要、結果の詳細は次のとおりです。

実証調査の概要

調査対象: 首都圏に在住の35~74歳の男女180名(100世帯*)
*断熱性能が低い住宅への居住世帯46世帯
+高断熱住宅(次世代省エネ基準相当)への居住世帯20世帯+その他
調査期間: 2014年11月~2015年2月のうち、各世帯2週間
測定項目:
  • 温湿度
     居間(高さ1.1m)、寝室、トイレにおいて10分間隔の連続測定
  • 家庭血圧(最高血圧/最低血圧)
     居間において起床後/就寝前の1日2回測定
有効サンプル: 138名(87世帯)

本実証調査から得られた結果

1.就寝中の寝室の室温が低いと、朝の血圧は上昇

起床後に居間で測定した最高血圧値と、就寝中の寝室の平均室温の関係を分析したところ、寝室の平均温度が10℃低くなると、朝の最高血圧(収縮期血圧)は7mmHg高くなる傾向がわかりました。また、寝室の室温に加えて血圧測定時の居間の室温についての分析も行ったところ、居間の室温が18℃以上と高い場合でも、寝室の室温の変化が大きい住環境では同様の血圧上昇結果が見られました。
これにより、朝の血圧の上昇を防ぐには、睡眠中の寝室の室温管理が重要であることが明らかになりました。

図1 寝室の室温と収縮期血圧(起床後)の関係(イメージ図)

図2
寝室の室温と収縮期血圧(起床後)の
関係の具体例(50歳以上のケース)

図3
寝室の室温変化の具体例
(参加者の実測データ)

2.断熱性能の低い住宅では、居間と寝室の温度差が大きい

就寝時の居間と寝室の平均室温を比較すると、断熱性能の高い住宅*では温度差は平均1.5℃であったのに対し、断熱性能の低い住宅では平均5.5℃の温度差が見られました。中には、居間の室温が20℃でも、寝室の室温は約5.0℃の住宅もあり、同じ住宅の中でも部屋による室温差が大きいことがわかりました。

寒い時期になると脳卒中や心筋梗塞を発症する率が高く要因として、家の中の急激な温度差によって血圧が大きく変動して身体に悪影響がおよぶ「ヒートショック」があげられます。今回の結果からは、居間と寝室の室温差にも注意を向けた方がよいということも明らかになりました。

  • *平成11年に改訂された断熱基準(次世代省エネ基準)を満たしている住宅

図4 就寝時の居間と寝室の室温の関係

(参考1)暖房方法の違いにより、居間と寝室の室温差は変化する

平成11年に改訂された断熱基準を満たしている断熱性能の高い住宅のうち、住宅内のすべての部屋を温める全館暖房(太陽熱床暖房)を導入している住宅と、導入していない住宅の就寝時の居間と寝室の平均室温を比較すると、全館暖房を導入している住宅では居間と寝室の温度差はほとんど生じないことがわかりました。

図5 就寝時の居間と寝室の室温の関係(断熱性能が高い住宅)

(参考2)断熱性能の低い住宅では、起床時の居間とトイレの温度差が大きい

起床時(起床後の血圧測定時)の居間とトイレの平均室温を比較すると、断熱性能の高い住宅*では温度差は平均1.3℃でしたが、断熱性能の低い住宅では居間の室温が20℃でも、トイレの室温は7.0℃の住宅があるなど、居間とトイレには平均で約5.0℃の温度差が見られました。 また、断熱性能の高い住宅のうち、住宅内のすべての部屋を温める全館暖房(太陽熱床暖房)を導入している住宅と、導入していない住宅では、全館暖房を導入している住宅の方が居間とトイレの温度差が生じにくいことがわかりました。

  • *平成11年に改訂された断熱基準(次世代省エネ基準)を満たしている住宅

図6 起床時の居間とトイレの室温の関係

■慶應義塾大学 理工学部 伊香賀俊治教授のコメント

イギリスの英国保健省は、「Cold Winter Plan 2015 for England」*において、9~12℃以下の室温では循環器系疾患リスクが高まり、16℃以下でも呼吸系疾患リスクが高まるとして、居間の昼間最低室温を21℃、寝室の夜間最低室温を18℃に保つことを英国民に推奨しています。また、住宅の断熱性能強化と適切な暖房に国家予算をかけた方が、それ以上の疾病・介護予算軽減につながるとして、住環境改善による疾病・介護予防政策を推進しています。
今回の調査によって、夜間の寝室室温の平均が12℃以下になっている住宅が多いことが示されました。同様の結果は、他の多くの調査によっても裏付けられており、「寝具の中は暖かいので、寝室は寒くても良い」という誤った考え方を改める上でも貴重な調査報告となっていると思います。

■自治医科大学 循環器内科学部門 苅尾七臣教授のコメント

心筋梗塞や脳卒中などの循環器疾患の発症には明確な季節変動があり、冬季は夏季に比べて1.5倍ほど増加します。このように冬季に循環器疾患の発症リスクが高まる要因の一つが、気温の低下で血圧が著しく上昇する高血圧、"気温感受性高血圧"です*1
今回の共同研究において、早朝の気温低下に加え、同じ住居内においても室間での気温差が大きいこと、また、就寝時の室温の低下によって冬季の早朝血圧が上昇することが初めて示されました。過去実施している20,000名を超える高血圧患者の研究でも、早朝高血圧が循環器疾患のリスクになることが明らかとなっています*2。ここから、循環器疾患の予防には、24時間を通じた室温の変化に加え、各部屋間の室温差も最小限となる住環境づくりが大切であると考えます。

  • *1Karioら、Hypertension 2015
  • *2Karioら、Hypertension 2014