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2015.04.10

vol.142 少量の血液で「がん」「アルツハイマー病」を診断できる最新の技術

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Vol.142 少量の血液で「がん」「アルツハイマー病」を診断できる最新の技術

血液検査といえば、まず頭に浮かぶのが健康診断での採血。血糖値やコレステロール値などの診断結果で、一喜一憂したことも多いでしょう。また、医療機関の精密検査で行われる血液検査もあります。しかしそれらと異なり、わずかな量の血液検査で早期のがんが診断できる方法が2014年8月に発表されて、注目されています。さらに、1滴の血液からアルツハイマー病を診断する方法も2014年1月に発表されました。
そんな最新の技術とは、いったいどのようなものでしょうか。

1回の採血で13種類のがんを診断できる新手法

血液検査って、こんなことまでわかるの――? そんなニュースがここ数年増えています。なかでも注目されているのが、国立がん研究センターが新エネルギー・産業技術総合開発機構などの研究機関や企業と共同でスタートさせた、次世代がん診断システムの開発。わずかな血液を検査するだけで、がんの診断ができる新しい方法の研究開発を始めると発表したのです。
研究の対象となるがんの種類は「胃がん」「食道がん」「肺がん」「肝臓がん」「胆管がん」「膵臓がん」「大腸がん」「卵巣がん」「前立腺がん」「膀胱がん」「乳がん」「肉腫」「神経膠腫」の13種類。がんになると、血液中に「マイクロRNA」という22塩基程度の小さなRNA(リボ核酸)の種類や量が変動することを利用したもので、必要となる血液はわずか5μℓ(マイクロリットル)。大腸がんにおいては、従来の血液検査では見つけることができなかった早期がんの検出の可能性があることが確認されており、数年後の実用化を目指しています。

また、1滴の血液で膵臓がんを早期発見できる検査技術の開発に成功したのが、神戸大学大学院医学研究科のグループ。2013年に膵臓がんの指標となる4つの代謝物を血液から発見したことが、この診断法のポイントです。
胃がん、肝臓がんの死亡率が減少傾向にあるのと対照的に、膵臓がんの死亡率は増加傾向にあります。胃がんはヘリコバクター・ピロリ菌が、肝臓がんは肝炎ウイルスが、ともに主な原因であることが見つけ出されており、早期発見・早期治療が可能になったことが大きな理由として挙げられます。
しかし膵臓がんは、難治がんの代表ともいわれており、年間の死亡者数は約3万人にのぼります。早期の膵臓がんは治療できる可能性が高いのですが、残念ながら自覚症状があまりなく、従来の検査方法では見つけにくいがんなのです。しかも膵臓がんの切除後、2年生存率は40%弱、5年生存率は10%以下といわれています※。そんな膵臓がんを早期に診断できるという点でも、この診断法には期待がかけられています。

※週刊日本医事日報4733 2015(45)(片山和宏・大阪府立成人病センター副院長)

「線虫」の性質を利用してがんを識別

また、血液検査とは異なりますが、1滴の尿から早期がんを診断する技術も2015年3月に発表されました。九州大学などの研究グループが、がんには特有の臭いがあり、その臭いに線虫(C.エレガンス)が反応することで、がんの有無を識別できるというのです。 線虫とは、体が細長いひも状の動物の総称。線虫は嗅覚受容体を約1200種類持っていますが、この数字は犬と同等といわれています。そして臭いに対して近寄っていく走行反応を示すため、わずかな尿で識別できるのです。しかも500円程度で診断できるという点も大きなメリットです。
特徴は、ステージ1という早期のがんでも発見できる可能性があること。「食道がん」「肺がん」「乳がん」「胃がん」「胆管がん」「膵臓がん」「大腸がん」「前立腺がん」「消化器間質腫瘍」という9種類のがんに対して識別が期待されていますが、現時点ではどのがんであるかの特定はできません。

ちなみに日本におけるがん検診受診率は約30%。「医療機関に行くのが面倒」「費用がかかる」「痛みを伴う」「診断まで時間がかかる」「がんの種類ごとに違った検査を受けなければならない」といったことが、受診率が低い理由だといわれています。この識別方法が実用化されたなら、これらの理由がクリアできるのも見逃せません。
また、同研究グループは、特定のがんにだけ反応することができない線虫株を作成することに成功していると発表しています。これらを並行して利用すれば、将来的にはがん種の特定まで可能になるとしています。

5mlの血液検査でがんを診断できるAICSとは

血液中のアミノ酸の濃度を測定することで、がんにかかっているリスクを評価するのが「アミノインデックスがんリスクスクリーニング(AICS)」。健康な人の血液中のアミノ酸濃度は、一定の割合に保たれるようにコントロールされています。しかし、さまざまな病気になると、そのアミノ酸濃度が変化してしまうのです。この性質を応用して、1回5mlの採血で複数のがんのリスクを評価するのがAICSです。
AICSでリスクを評価できるのは、男性では「胃がん」「肺がん」「大腸がん」「前立腺がん」の4種、女性では「胃がん」「肺がん」「大腸がん」「乳がん」「子宮がん・卵巣がん」の合計5種(子宮がん・卵巣がんについては、子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がんのいずれかのがんであるリスクを評価するもので、がん種の特定はできません)です。

現在AICSを導入している医療機関は全国で921施設(2015年3月11日時点)。これまでに紹介したものと異なり、実用化されているものです。そして、早期の胃がんに対して高い感度があり、大腸がんでもマーカーとして活用されることが期待されています。しかし一方では、便潜血免疫法と比べると感度が低いとする報告もあります※1。
このAICSのポイントは、これまでに紹介したほかの診断方法に含まれていない子宮がんに対してリスクを評価できるという点です。20~30歳代の女性におけるがんの1位は子宮頸がん。さまざまな啓発活動が行われているものの、羞恥心などの理由で、子宮頸がんの検査にはまだ高いハードルがあります。そんな子宮がんのリスクを評価できることも、AICS導入が進められている大きな理由なのです。

また、膵臓がんに対してもAICSが活用できることが期待されています。アメリカの研究グループは、膵臓がんと診断される2~5年前の血液中で、分岐鎖アミノ酸の濃度が上昇していることを報告しています※2。そして日本での共同研究においても、膵臓がんと診断された時点での血中アミノ酸濃度が、健康な人と比べて変化していることが明らかにされています※3。近いうちに、AICSでリスクを評価できるがんの種類に、膵臓がんが加わるかもしれません。

※1「診断と治療」vol.103 no.2 2015(109-112)(好川謙一、穂苅量太・防衛医科大学校内科学)

※2 Mayers JR, et al:Nat Med.2014;20(10):1193-8

※3 Fukutake N,et al:The 73th Annual Meeting of the Japanese Cancer Association proceedings, J-1089,2014

がんは「早期発見」が重要

日本人の死因の1位は男女ともがん。しかし早期に発見できれば、治癒率は上がります。また、がんを除去した場合、65歳の男性で3.05年、75歳で2.08年、65歳の女性で2.04年、75歳で1.43年、平均余命が延びるとされています※。早期に発見して治療を行うことで、さらに平均余命を延ばすことが可能になると考えられるのです。

※厚生労働省『平成22年簡易生命表』より

日本人の死因
男性 女性
1 がん 1 がん
2 心疾患 2 心疾患
3 肺炎 3 脳血管疾患
4 脳血管疾患 4 肺炎
5 不慮の事故 5 老衰
主な部位別がん死亡数
男性 女性
1 肺がん 1 大腸がん
2 胃がん 2 肺がん
3 大腸がん 3 胃がん
4 肝臓がん 4 膵臓がん
5 膵臓がん 5 乳がん

出典:厚生労働省「人口動態統計」2013

がんのスクリーニングとして一般的に行われている血液検査は、腫瘍マーカーです。ただ腫瘍マーカーは、がんの検出感度が40~80%程度、早期のがんの場合では20~30%程度にとどまっています。
これまでに紹介した血液や尿の検査によって、がん早期発見の可能性が高まることに期待したいものです。

アルツハイマー病も血液検査で診断可能に

1滴の血液から、アルツハイマー病の原因物質を検出できる機器が開発されたという発表もあります。
2025年には、高齢者の5人に1人が認知症になると推計されています※。そんな認知症の原因疾患の半分以上を占めるのがアルツハイマー病です。アルツハイマー病は、脳内でアミロイドβというたんぱく質の一種がたまって老人斑として沈着し、神経細胞が死滅することから起こるという説が有力とされています。この機器では、そのアミロイドβペプチドの高感度検出に成功したというのです。
これは、国立長寿医療研究センターが開発したマイクロビーズと豊橋技術科学大学が開発した半導体イメージセンサを組み合わせて検査を行うもので、愛知県が実施している産学行政連携のプロジェクトの一環として2012年から行われているものです。また、検査対象を血液だけでなく尿まで広げ、アルツハイマー病だけでなく生活習慣病や感染症などへの応用を進めていくとしています。

勤務先などで行われる健康診断では、ほとんどの場合、血液検査も尿検査も行われます。近い将来、これらの検査が健康診断と同時に行われることが期待されます。そして可能ならば、いろいろな検査方法が一本化されるのが理想です。そういったことが実現されたら、私たちの生活がさらに健康的なものになっていくことは間違いありません。

※厚生労働省研究班推計

健康診断を受診しにくい人に朗報!

重篤な病気の診断だけでなく、日ごろの健康管理に役立つ血液検査もあります。通信会社が2015年の夏にスタートすると発表したサービスは、自宅にいながら健康チェックを行えるというものです。専用の検査キットを使う血液検査は、0.065mlという微量の血液を採取し、専用検査センターに郵送するだけという簡単なもの。約1週間後にパソコンやスマホで糖尿病の指標など14の検査項目結果を確認できるといいます。そして検査結果に対する医学的見地からのコメントや、改善のためのアドバイス、自宅近くの医療機関を検索できる機能も提供されるのです。

また、薬局薬店の店頭で血液を自分で採取して、血糖値やコレステロール値を検査できるサービスも展開されています。通信販売されている血液検査キットもあります。
これらは、健康診断を受診していない人が手軽に検査できるメリットがあります。技術などの進歩によって、私たちの健康を取り巻く環境も大きく進化しているのです。


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