vol.86 アキレス腱の保護...中高年の運動では忘れずに

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中高年のアキレス腱断裂

中高年の方が運動をはじめると、からだを動かす爽快感もあって、つい頑張ってしまいます。また、週に1回くらいのペースでゴルフや野球、テニスなどをやっている方でも、「今日はすごく調子がいい」と、いつも以上に張り切ってしまうことがあります。
そんなときに起こりやすいのが、アキレス腱の断裂です。
アキレス腱の断裂はプロのスポーツ選手や、アマチュアでも本格的にスポーツをやっている人に多いという印象があるかもしれません。でも、じつは、一般の中高年の方にもよくみられる、運動障害の代表的なものでもあるのです。
アキレス腱は、足首の後ろ側(かかとの上)にある、からだのなかでもっとも太い腱です。ふくらはぎの筋肉とかかとの骨をつなぐ腱なので、走る、跳ぶ、回転するなど、ちょっとした運動でも負荷がかかりやすい場所です(※1)。
もし、断裂を起こすと、歩くときなどに痛みがあるのはもちろんですが、治るまでに3カ月以上はかかります。その間、ギプスなどで足首付近を固定するので、日常生活にも支障をきたします。それだけに運動をするときには、日ごろからアキレス腱の保護がとても大切だといえます。
アキレス腱の断裂は、ある日とつぜん起こると思っていませんか。ところが、中高年の場合には、その前兆ともいえる段階があります。あなたが、もし運動を長く楽しみたいと思っているなら、アキレス腱について知っておきましょう。

(※1)ダッシュやジャンプなど、つま先で蹴りだす動作をすると、ふくらはぎの筋肉が一気に収縮します。そのときアキレス腱も引っ張られて伸びるため、大きな負荷がかかります。

vol.86 アキレス腱の保護...中高年の運動では忘れずに

前兆となるアキレス腱炎

同じアキレス腱の断裂でも、若い人と中高年の方では、原因がちょっと違います。若い人の場合は運動のしすぎや、無理をすることで、断裂を起こすことが多いのに対し、中高年の場合にはアキレス腱の老化が主な原因になっています。
アキレス腱も老化するの?と思うかもしれません。でも、アキレス腱は主にコラーゲン線維からできているので、加齢によって柔軟性がなくなり、固くなってきます。そんな状態のときに、急に大きな負荷がかかると、対応できなくなり、断裂してしまうのです。
ただし、断裂を起こす前に、前兆ともいえる症状がよくみられます。それはアキレス腱炎です。
運動をしていると、ふくらはぎからかかとのあたりにかけて痛みなどが出ることがあります。ふくらはぎの筋肉痛やかかとの打撲だと思い、患部にシップ薬などを貼ってすませることが多いのですが、そんなときはアキレス腱にも障害が起きている可能性があります。
アキレス腱炎かどうかは、アキレス腱の部分を軽くさわると、はれていたり、痛みを感じることでわかります。しばらくいすなどに座っていて、歩きはじめるときにアキレス腱に痛みが走ることもあります。
中高年の場合、アキレス腱炎は単なる運動による炎症というよりも、腱の老化によって小さなキズ(部分断裂)が入っている状態が多いのです。それを知らずに運動を続けていると、キズが大きくなり、あるときついに断裂を起こす…ということになりかねません。
アキレス腱炎が疑われる場合は、けっして無理をせず、まず運動をしばらく休むことが大切です。そのうえでアキレス腱をアイシングしたり、シップ薬で冷やすなどのケアをします。痛みが続くときには、受診(整形外科など)して検査を受けるようにしましょう(※2)。
また、はれや痛みがおさまっても、すぐに強い運動をはじめるのは禁物です。リハビリのつもりでアキレス腱のストレッチをして、異常がないかを確認するようにしましょう(受診している場合は、運動の開始時期を医師と相談してください)。

(※2)アキレス腱炎ではなく、周囲が炎症を起こすアキレス腱周囲炎の場合も、よく似た症状がみられます。

治療は手術か保存療法を選択

アキレス腱が断裂を起こしたとき、感じる症状は人によってさまざまです。よくいわれるのは、「後ろから蹴られたような痛み」とか「ボールをぶつけられたような衝撃」です。人によっては、バチッといった断裂音を聞くこともあります。
こうした表現から、とても強い痛みが続くと連想しがちですが、実際には痛みは一時的なものです。足首も動きますし、べた足なら歩くこともできます。そのためアキレス腱が切れたとは思わず、ふくらはぎの肉離れなどと間違えることも少なくありません。
ところがアキレス腱が断裂していると、つま先立ちしたり、つま先で蹴って歩こうとすると、痛みが走ります。アキレス腱の部分をさわると、陥没個所があり、痛みを感じることからもわかります。こうした場合はすぐに受診しましょう。
治療法には、手術と保存療法とがあります。
一般的には、手術(縫合+ギプス固定)のほうが早く治ります。そのためスポーツをよくする人や仕事の関係などで早く治したい人は、手術が向いていますが、傷跡が残ります。また、手術の場合でも、運動をはじめるまでには3~4カ月程度かかると思っておいたほうがいいでしょう。もう一方の保存療法は、ギプスや特殊な用具で患部を固定しながら、断裂した個所がつながるのを待つ方法です。保存療法の場合、治療日数がかかるほかに、ギプスでの固定中に動かして再断裂を起こすことがあります。また、人によっては、よくなるまで半年以上かかることもあるので、治療中のリスクをふくめて、医師とよく相談して決めてください。

予防は日ごろのストレッチから

アキレス腱の断裂を予防するためには、直接的には運動の前にかならず足首のストレッチをすることです。
足首をゆっくり回す(両方向に)。足を前後に開き、後ろに引いた足の膝裏を伸ばした状態でアキレス腱を十分に伸ばす。次に、同じ足の膝を少し曲げた状態で、アキレス腱を伸ばす(この姿勢のほうがアキレス腱に負荷がかかります)。左右の足を入れ替えて、同じストレッチをします。
また、運動の種類にもよりますが、急なダッシュや強いジャンプはできるだけ避けるようにしましょう。とくに下り坂や上り坂では、アキレス腱にいつも以上の負荷がかかるので注意が必要です。
運動前のストレッチだけでなく、中高年の方はアキレス腱の老化による変性を遅らせるために、日ごろから少しずつでも動かしておくことも大切です。
たとえば、いすに腰かけた姿勢で、片足をあげてゆっくり足首を回す(両方向に)。床に座った姿勢で両足を前に伸ばし、つま先をからだのほうへ反らしてアキレス腱を伸ばす。こうした方法で、ふくらはぎの筋肉からアキレス腱にかけての柔軟性を高めるようにします。軽い屈伸運動も、効果があります。
じつは中高年の場合、運動不足によってふくらはぎの筋肉が柔軟性を失っていることも、アキレス腱に負担をかける一因となっています(※3)。ふくらはぎからアキレス腱にかけて、広くストレッチを心がけましょう。
ただし、痛みのある場合はやめてください。また、最初のうちは軽いストレッチでもかなり負荷がかかるので、やりすぎないようにしましょう。
運動時の靴にも注意が必要です。かかとが遊んでいる(動く)靴は、走ったりバランスをとったりするときに、アキレス腱に余分な負荷がかかるので避けること。かかとをピタッと軽く包んでくれるような靴が理想的です。
また、自分が日ごろはいている靴のかかと部分の減り具合をチェックしてみましょう。片減りといって、外側だけ、あるいは内側だけが大きく減っている場合には、運動時にアキレス腱に不自然な力がかかりやすい傾向がみられます。靴屋さんに相談し、中敷を工夫するなどしてバランスをとるようにしましょう。O脚の人も、足の外側に力がかかりやすいので、やはり中敷などで工夫することが予防につながります。

(※3)ふくらはぎの筋肉が柔軟性を失うと、運動時に筋肉の収縮などのコントロールが上手にできなくなります。すると、ふくらはぎの筋肉が動いたとき、アキレス腱に不自然な負荷がかかり、それが断裂をまねく一因となります。

このコラムは、掲載日現在の内容となります。掲載時のものから情報が異なることがありますので、あらかじめご了承ください。

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