
月経は個人差があるため一律指導はしない
筑波大学女子ハンドボール部は、通算11度のインカレ優勝を誇る名門です。2012年からチームを率いる山田監督は、セミナーに耳を傾けながら静かに頷いていました。選手の健康状態については、細かく観察していると言います。直接一人ひとりの顔色を見ることはもちろんのこと、目では見えない部分までデータで管理しています。
「選手にはコンディション情報を記録、管理するアプリをスマートフォンに入れてもらっていて、こちらで毎日チェックできるようになっています。記入してもらう項目は、多岐に渡ります。日々のトレーニングに対する主観的な疲労度、睡眠時間、抱えているケガの状況も報告してもらっています」
筑波大学では練習中の状態もしっかり見ています。選手に心拍計を着用してもらい、トレーニングの強度がかかり過ぎていないかどうかもチェック。通常よりも心拍数が高くなれば、コンディションの悪化を疑います。練習前から心拍数が高いときは、決して無理はさせません。
「指導者側の立場としては、ストップするべきレベルなのかどうか、数値を見ながら見極めるようにしています」
月経に関しても同様です。女性ホルモンの変化は、練習、試合でのパフォーマンスに影響を及ぼすことがあります。そのため、アプリには月経周期も入力してもらっています。選手たちには、日頃から自分の体調は自分で把握することを促しています。ただ、月経とコンディショニングについては、全員一律で語ることは難しいと言います。
「やはり、個人差がありますから。月経1日目がきつい人もいれば、2日目、3日目に苦しむ人もいます。パフォーマンスに及ぼす影響も大小それぞれ。機械的に『月経2日目だから練習は半分のみ』と言うのは失礼だと思っています。すべてのメニューをこなせる選手もいれば、まったくできない選手もいます。指導者としては、選手個人で自らの状況を把握し、『無理しないように』と伝えています。ここで気をつけたいのは、日本女性特有の我慢強さ。そして協調、調和を重んじる空気です。言うべきところで言える教育は大事なのかなと」
だからこそ、仮に選手から体調不良の申し出がなくても、明らかにパフォーマンスが低下していれば、山田監督から声をかけるそうです。
「一番良くないのは自分のコンディションを何も分っていなくて、ケガをしてしまうこと。学習しなければ、ケガを繰り返しますから」
筑波大女子ハンドボール部では監督同様、竹上綾香トレーナーも選手から体調不良を訴えやすい雰囲気づくりを大事していると話していました。
「アプリに記録さている数値変化を見て、疲労度が平均値よりも一定以上超えているときは、声がけをしています。そこから月経の話になることもあります。最初はこちらからアプローチしていましたが、時間が経つにつれて、選手から月経の相談をしてくれるようになりました」
スポーツは時として我慢も必要ですが、コンディション不良を隠していても良いことは一つもありません。