実業団の途中から生理が止まった
適切な食事量を摂り、無理な減量をしていなかった高校時代の小林さんは、無月経で悩むこともありませんでした。月経前のむくみなどもなく、トレーニングに支障をきたすこともなかったようです。
「周期もまったく気にせず、『なんでもこい』という感じで練習していました。高校3年生のときに1500mで日本記録(当時)を出したときも、生理2日目でしたから。一般的に最も重いと言われる時期なんですけどね。生理のタイミングは『運やろ』くらいに思っていました」
とはいえ、周囲には月経痛で悩んでいる選手たちもいました。痛みが出れば、監督に話して休むことも珍しくなかったです。須磨学園高校を率いていた長谷川先生は、男性指導者ながら女性の身体への理解があったのでしょう。
「他校の話を聞くと、生理がきていないのが当たり前という風潮はありましたが、私たちは違いました。練習量は過度に多くなく、無理な体重管理もありませんでした。だから、生理不順や無月経で悩む選手が少なかったんだと思います」
健康そのものの小林さんでしたが、高校卒業後、実業団の豊田自動織機で競技を続けていると、これまでになかった身体の異変が起きました。初めて気づいたのは、2008年の北京オリンピック前の練習で追い込んでいた時期でした。毎月、同じ周期に来るはずの生理が来なくなったのです。目の前の現実をすんなり受け入れられず、自らに言い聞かせていました。
「『オリンピックのために身体を絞っているからいまは仕方ないんだ』と。でも、さすがにそれから半年くらい生理が止まると、不安がどっと押し寄せてきました」
救いだったのは実業団に女性の身体のことに関しても、オープンに打ち明けられる環境があったことです。指導陣に抱えていた自らの悩みを相談すると、実業団でも指導を受けるようになっていた元須磨学園の長谷川先生から婦人科で診察を受けることを勧められました。そして病院に行くと、ドクターからははっきりと言われました。
<半年以上、生理が来ていないのは良くないこと。薬を飲んで、生理が来るようにアプローチをしていきましょう。高校3年間、生理が来ていたのであれば、問題ないです。心配しなくても、大丈夫だよ>
思春期の中高生年代に無月経が続くと、将来もずっと来なくなる可能性もあると知り、ほっと胸をなで下ろしました。実業団ではそれ以降、月経周期を把握するために毎日のように基礎体温計で体温を測り、月経を誘発させる薬や月経周期を移動させるピルを飲みながら競技を続けていました。同じ悩みを抱える女性選手は多かったと言います。そのため、チームは婦人科と連携し、選手たちをサポートしていました。それでも、完全に悩みが解消されたわけではありません。
「自然に来ていた生理が薬を飲まないと、来ないわけですから。そのとき、抱えていた坐骨神経痛による足の痛みと同じくらいのストレスでした」