現役引退の表明翌日に月経が再開
冬の厳しい寒さを感じる2015年1月。不思議なもので、ある日突然、無月経の悩みが解決したのです。現役引退を表明した翌日でした。
「婦人科の先生からは『何かのタイミングで、ストレスから解放されたときに生理は来るから安心していいよ』と言われていたんです。本当にそのとおりでしたね。そこから今に至るまできれいに来ています」
競技生活を終えた後に気づくこともありました。社会人となり、故障に苦しみ始めた頃に無月経になっていたのです。実際、無月経と故障は、無関係ではありません。実業団で疲労骨折に苦しむ女性の長距離ランナーは多く、将来的に骨粗鬆症になるリスクが上がるとも言われています。
小林さんは第一線を退いた2年後の2017年1月、皇后盃全国都道府県対抗女子駅伝のトークイベントで第一子を妊娠していることを発表しました。
「一緒に登壇した金哲彦さん(箱根駅伝などでも活躍した元陸上選手)に女子選手たちにふっくらとしたお腹を見てもらうだけでもメッセージが伝わるからと言われたんです。現役の選手たちに無月経が続くと、将来の出産にも関わることだと伝えてもピンとこないと思います。婦人科に通う暇があれば、走りたいと思うもの。私も競技者だったのでわかります。いま結果を出したいんです。でも、長い目で見てもらいたい。引退後の人生もそうですし、トップレベルで競技を続けていくのであれば、ケガのリスクを含めて、先を見つめて考えることは大事です」
時代は移り変わり、他競技の女性トップアスリートたちも無月経の問題に目を向け、情報を発信しています。いまさら隠すような話でもありません。
「指導者が少し気遣うだけでも変わります。選手が月経の悩みに関しても、言い出しやすい環境をつくってあげると違うと思います」
現在、二児の母となった小林さんは思春期の中高生年代から意識を高め、指導者の理解をより深めていく必要性も説いていました。無月経とは無縁だった時期に競技者として最も輝き、そして生理が止まって苦しんだランナーの言葉は、何よりも説得力があります。
<プロフィール紹介>

小林 祐梨子さん
兵庫県小野市出身の女子陸上競技元選手(中距離走・長距離走)
2006年1500mで日本新記録(当時)を樹立。2008年8月北京オリンピック5000mに出場。2009年世界選手権5000mに出場し、決勝進出。
現在は、一般社団法人日本パラ陸上競技連盟理事を務めるなど多くの肩書を持ちつつ、テレビでの司会、リポーターとしても活躍中。