脳・心血管疾患の発症ゼロへ

心房細動を語るゼロイベント
特別インタビュー

京都府立医科大学 不整脈先進医療学講座 講師妹尾 恵太郎 先生

推定患者数100万人超、高齢化に伴いさらに増加すると言われる心房細動

不整脈の一種である「心房細動」。加齢とともに起こりやすくなる不整脈で、すぐに命に関わるような病気ではありません。しかし問題は、心不全や脳梗塞といった大きな病気を引き起こすリスクが高いにも関わらず、早期発見が難しいことです。今回は心房細動の起こる仕組みや早期発見のためにできること、現在の治療法について専門医である妹尾 恵太郎先生にお話を伺いました。

推定患者数100万人超、高齢化に伴いさらに増加すると言われる心房細動

妹尾 恵太郎 先生

私たちの心臓は、電気信号によって規則正しいリズムで拍動し、全身に血液を送り出しています。しかし、何らかの理由で電気信号が乱れ、心臓の拍動のリズムが不規則になることがあります。その脈の乱れを「不整脈」と呼びます。心房細動は、「心房」と呼ばれる心臓内の部屋が小刻みに震えてしまうこと(細動)によって起こる不整脈です。心臓の拍動は、“発電所”の役割を果たす「洞結節(どうけっせつ)」からの電気信号によってコントロールされていますが、心房細動では洞結節以外のところから無秩序に電気信号が発生して、心房が不規則に震え、正常な拍動ができなくなってしまいます(図1)。
心房細動は加齢とともに増える病気で、80歳代では男性では4%、女性では2%以上が心房細動だとも言われています※1。また日本の推定患者数は2020年で100万人ですが※2、高齢化に伴い、これからもさらに増えていくでしょう。つまり、心房細動はより“身近な不整脈”になってきていると言えます。

参考 「心房細動患者さんの脳をまもろうプロジェクト 心房細動による脳梗塞を予防する」HPより
http://stop-afstroke.jp/af_stroke/what.html
※1 Inoue H, et al. Int J Cardiol 2009;137:102‒7.
※2 Ohsawa M, et al, : J Epidemiol 2005 : 15 : 194-196

心房細動の問題点とは?自覚症状がないまま、大きな脳梗塞を引き起こすことも

心房細動そのものは、すぐに命を脅かすような病気ではありません。動悸や息切れ、めまい、疲れやすさなどの症状が現れることがありますが、すぐに治まることも多く、4割近くの患者さんは自覚症状が全くないと言われています。
では、なぜ心房細動は怖いのか? 最も重要なポイントは「脳梗塞になりやすい」ことです。心房細動の人はそうでない人に比べ、脳卒中のリスクが約5倍高くなるというデータがあります(図4)。
脳卒中は脳梗塞と脳出血に大別されますが、心房細動は脳梗塞の大きなリスクとなるのです。しかも、症状のある・なしで脳梗塞のリスク、死亡率に差はありません。心房細動になると、心房の中で血液がよどみ、血栓ができやすくなります。それが血流に乗って脳に飛び、血管を塞ぐと脳梗塞が起きてしまいます(図5)。特に心房細動から起きる脳梗塞は、「心原性脳塞栓症」といって命に関わる大きな脳梗塞になることが多く、一命をとりとめても麻痺や寝たきりなど重い後遺症が残る可能性が高くなります。
※Senoo K. Circ J 2012; 76: 1020-1023

心房細動の脳卒中リスク

心房細動と脳梗塞(心原性脳塞栓症)

心房細動になると心不全や突然死など心臓の異常に気をつけなければなりませんが、自覚症状がないまま大きな脳梗塞を引き起こすこともあるので、命を守るために早期発見・治療が重要です。最近では、心房細動が「隠れ脳梗塞」と呼ばれるような小さな脳梗塞の原因となって、認知機能の低下につながることもわかってきています。

心房細動と認知症の関係性

心房細動が認知機能低下や血管性認知症の原因となりうることが最近、注目されています。その理由は、“隠れ脳梗塞”と呼ばれる小さな脳梗塞。心房細動になると大きな脳梗塞(心原性脳塞栓症)のリスクが高いことは従来から強く訴えられてきましたが、実は脳内の小さな血管が詰まる無症候性の脳梗塞も起こりやすく、そのために脳の血流が悪くなり、認知機能が低下すると考えられているのです。実際、心房細動がある人はない人に比べ認知症に1.4倍なりやすいという報告もあります。心房細動の早期発見・治療は、認知症予防の観点からもとても重要になっています。

気づかないうちに進行し、慢性化しやすい心房細動

心房細動は、短時間だけ起きて元に戻る「発作性心房細動」から始まり、だんだん頻度が増え、やがて持続時間の長い「持続性心房細動」に移行して慢性化する、という経過をたどるのが一般的です。
進行するにつれ自覚症状が強くなるとは限りません。実際に患者さんをみているとむしろ逆で、軽い息切れや動悸の症状を見過ごしているうちに徐々に体が慣れてしまい、症状を感じなくなるケースがよくあります。心房細動が見つかった患者さんに、これまで異常がなかったか尋ねると、「そういえば去年、何度か息切れがしたことがあったかも…」というような答えが返ってくることがよくあるのです。気づかないうちに進行し慢性化してしまうのも、心房細動の特徴です。
発作性と持続性で、基本的には脳梗塞のリスクや死亡率に差はない、つまり心房細動がたまに起きる早期の段階でも脳梗塞を起こす可能性があることも重要なポイントです。発作がたまに起きるだけだから、あるいは症状がないから・軽いからといって放置してはならない病気であることを、多くの人に知ってほしいと思っています。

心房細動のリスク要因とは?高血圧やメタボ、不規則なライフスタイルの人は要注意

では、心房細動はどのような人に多いのでしょうか?リスク要因として、心臓に関係するものとそうでないものがあります(表)。同じ心臓のトラブルですから、高血圧や心疾患を持っている人は、やはり心房細動になりやすいと言えます。一方で、心臓に関係しないリスク要因で最も大きいのは加齢で、そのほかに肥満、飲酒・喫煙、ストレスなど、いろいろな要因がありますが、実はその多くは関連しており、「生活習慣の乱れ」に起因しています。不規則なライフスタイルの人はメタボリックシンドロームになりやすく、ひいては心房細動にもなりやすい。実際に患者さんをみていても、40~50歳代で心房細動になるのは、そのような方が多い印象があります。

心房細動に対する治療と脳梗塞予防

心房細動に対する治療としては、抗不整脈薬とカテーテルアブレーションの2つがあります。抗不整脈薬は心房細動を抑えるもので、早い段階で使用することで高い効果が期待できます。一方、カテーテルアブレーションは、カテーテルを足の付け根から心臓まで入れ、異常な電気信号を出している部位を焼き切る方法です。根治を目指すことができますが、約30~40%の患者に再発リスクがあり、またそのうちの約半数以上が無症候性であるため、持続的な心電図のモニタリングが必要です。薬が効きにくくなったらカテーテル治療を行うのが一般的ですが、慢性化するとカテーテル治療の成功率も下がるため、最近は年齢などを考慮して早めにカテーテル治療に踏み切るケースが増えていると思います。
心房細動の治療時には、必ず脳梗塞のリスクを評価して、必要に応じ脳梗塞を予防するための治療も行います。薬物療法(抗凝固療法)が主流ですが、最近では、血栓ができやすい心臓の部位にフタをして血栓が脳に飛ぶことを防ぐカテーテル治療(左心耳閉鎖システム)も行われるようになっています。
抗不整脈薬もカテーテル治療も早期に行ったほうが高い効果を期待できるので、心房細動とうまく付き合っていくためにも、また脳梗塞予防のためにも、早期発見・治療が大切です。

カテーテルアブレーション治療

症状のない心房細動を早期発見するために

自覚症状がないのにどうやって心房細動を見つけるのか? これは、なかなか難しい問題です。まずは、軽い息切れや動悸の症状を見過ごさないこと、自分で脈を調べること(検脈・図6)が大切です。また定期的に健康診断を受けていても、心電図検査を受けたそのときに心房細動が生じていないと検出することはできません。これからはいろいろな場面・方法――例えばリスクの高い人には年に複数回心電図検査を行うなど――で心房細動を見つける機会を増やしていくことが重要になるでしょう。
自宅で手軽に心電図を記録できる家庭用心電計もあるので、近い将来そうした機器が普及することも望まれます。欧米では心電記録機能が搭載されたスマートデバイスも複数発売されています。いずれ日本でも家庭用の心電計が普及することが予想されるので、医療従事者が最先端の医療技術やデバイスの情報をキャッチアップすることも必要になると思っています。
心房細動を見つける機会を増やし、早期発見早期治療に取り組んでもらいたいと思います。

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