「身体の小さい選手でも幅と厚みをつけることが大事」
新たな取り組みは、専門家の指導のもとで進められてきました。チーム専属のトレーナーを置き、選手とコミュニケーションを取りながらメニューを組み、細かいフォームなどもチェックします。2年前には学校の敷地内にトレーニングルームを新設し、環境をより充実させました。黒田監督は、あらためて筋力トレーニングの重要性を口にします。
「高校年代から筋トレにも積極的に取り組まないと世界では全く通用しません。ある程度、身長が伸びてくれば、筋トレも並行したほうがいいと思っています。たとえ身体の小さい選手でも幅と厚みをつけることが大事。小柄だからといって、簡単に競り負けていいわけではない。うちはみんながブームのように筋トレに励んでいます。先輩に感化されて、後輩も鍛える。いい循環ができています。Aチームの選手たちは、ベンチプレスで80kgくらいは普通に上げますよ」
トレーニング改革の成果は、周知のとおり。2016年度の全国高校選手権で悲願の初優勝を果たすと、18年度、21年度と計3度も日本一に輝きました。昨年度はかつて教えを請うた東福岡以来となる全国3冠の偉業を達成。これも何かの運命だったのかもしれません。いまでは高校サッカー界をけん引する存在になっています。もちろん、筋力トレーニングばかりに特化しているわけではありません。黒田監督はバランスを大事にしています。
「青森山田の目指しているサッカーは、『何でもできるサッカー』『すべてにおいて相手を上回るサッカー』なので、「体づくり」もその一環。重要なのは、サッカー選手として必要なスキルをできるだけ多く獲得させること。インテンシティーの高い環境でも耐え、発揮できる『心・技・体』の育成こそが、世界につながるものだと思っています」逆に言うと、その中で使える「技術」でなければ、サッカーで活きる「技術」とは呼べないと言うことです。海外挑戦したJリーガーは誰もが「その差」を痛感するのです。
今春、卒業した松木玖生選手のプロでの活躍が、すべてを証明しています。一般的に高卒1年目の選手は体格面の問題からすぐにプロの舞台で活躍するのは難しいと言われますが、松木選手は例外。ルーキーイヤーからJ1のFC東京で主力となり、存在感を示しています。目を見張るのは物怖じしないタフなメンタル、技術の高さ、そしてフィジカルコンタクトの強さ。高校時代から鍛え上げた180cm、76kgの体は、19歳とは思えないほど頑強です。ケガらしいケガもほとんどしていません。
「(現FC東京の)松木は中学3年(青森山田中学校)くらいから筋トレを始め、高校に上がる前から胸板が出ていましたよ。どん欲に理想を追い求めて、一切の妥協はしなかったですね。本当に努力家でした。松木だけではなく、多くのOBもそうですが、高校時代から鍛えている分、大学、プロに入ってからもすぐに活躍できているんだと思います。卒業後の活躍は松木だけに留まらず、他の選手もプロや大学で一年目から活躍しています」