vol.100 タバコを喫わないのに肺がん。なぜ?

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増えている肺腺がん

肺がんは現在、多くのがんのなかで男性では死亡原因の第1位、女性では第2位で、年間6万5000人もの方が亡くなっています。ほかのがん(胃がんなど)と比較すると、発見が遅れがちで死亡率も高く、その対策(早期発見、予防)が重視されています。

肺がんの原因といえば、だれもがタバコ(喫煙)を第一にあげるでしょう。ところが最近は、タバコを喫わないのに肺がんになるケースが増えていて、「どうして私が肺がんに!」と驚く方が少なくありません。
じつは肺がんには、喫煙の影響が非常に大きいタイプ(扁平上皮がんなど)と、影響はあるもののそれほど大きくないタイプ(肺腺がんなど)とがあるのです(※1)。
喫煙による肺がんの発症リスクは、タバコを喫わない人と比較して男性で4~5倍、女性で3倍程度とされています。ところが、扁平上皮がんに限定すると、男女ともにリスクは10倍以上。それに対して肺腺がんでは、男性で2~2.5倍、女性で1.5倍程度。同じ肺がんでも、タイプによって喫煙の影響には大きな差があります。
男性の喫煙者の減少により、扁平上皮がんは減りつつあります。しかし、反対に肺腺がんは増加し、すでに男性の肺がんの40%、女性の70%に及んでいます(※2)。その結果、タバコを喫わないのに肺がん(肺腺がん)というケースが、とても多くなっています。
では、肺腺がんとはどんな病気で、原因は何なのでしょうか。

(※1)肺がんのタイプ(組織型)は、小細胞がんと非小細胞がんに大別されます。非小細胞がんはさらに、腺がん、扁平上皮がん、大細胞がんなどに分類されます。このうち腺がんは現在、発症数で第1位、扁平上皮がんは第2位となっています。

(※2)扁平上皮がんの場合は男性の40%、女性の15%。小細胞がんは全体の15%、大細胞がんは5%程度を占めています。

vol.100 タバコを喫わないのに肺がん。なぜ?

肺腺がんの早期発見

私たちが息を吸うと、空気はノドから気管支をとおり、肺に入ります。肺の中には細い気管支が木の枝のように広がっていて、その末端にある肺胞という部分で、二酸化炭素と酸素の入れ替えがおこなわれます。
肺腺がんは、その肺胞のある末端部付近にできるがんです(※3)。

一般に肺がんの症状といえば、咳と痰が代表的なもので、さらに息切れ、血痰(血の混じった痰)、胸痛、ゼーゼーいう呼吸音などがよく知られています。ところが肺腺がんは、肺の奥深くにできるため、初期には咳や痰などの症状がなかなか出ません。
あるときいきなり血痰が出て、驚いて検査を受けると、すでにかなり進行していた、というケースが少なくありません。なかには脳や骨に転移し、頭痛や腰痛、背中痛などがひどくなって検査を受け、発見されることもあります。
その一方で、胸部レントゲン検査で見つかることもあるので、早期発見のためにはまず定期的に健康診断を受けることが大切です。また、CT検査(X線断層撮影)では、肺腺がんはガラス様陰影(曇りガラスのような影)となって見えます。
咳や痰などの症状がなくても、息切れや胸痛などがある場合には、早めにCT検査を受けるようにしましょう。

(※3)肺腺がんは、肺の奥の粘液などを分泌する細胞(組織)にできます。一方、喫煙の影響を受けやすい扁平上皮がんは、肺の入り口付近の細胞(組織)にできやすいがんです。

原因の1つは女性ホルモン

肺腺がんの場合、喫煙も原因の1つですが、扁平上皮がんほど大きな影響はありません。では、喫煙以外の原因とは、何なのでしょうか。
近年のさまざまな調査研究から、「女性ホルモン」と「汚染大気」の2つが有力視されています。
女性ホルモン(エストロゲン)については、月経期間の長い(初潮が早く、閉経が遅い)女性や、エストロゲン補充療法を受けた女性に、肺がんの発症率が高いことが以前から報告されていました。このことからエストロゲンの影響についての研究が進められ、現在ではエストロゲンの体内合成にかかわる遺伝子と、肺がん(とくに肺腺がん)との関係や発症の仕組みが解明されつつあります(※4)。
その結果、エストロゲンの量や濃度が、肺腺がんのリスクを高める要因の1つであると考えられています。また、タバコを喫わない女性に、エストロゲンの影響が大きい傾向がみられることも指摘されています。
エストロゲンは高脂血症や高血圧の予防にも役立つ大切な女性ホルモンですが、その一方で、月経期間の長い女性やエストロゲン補充療法を受けた(受けている)女性の場合は、エストロゲン濃度が高くなる機会が増え、量も多くなります。それだけ肺腺がんのリスクも高くなることを忘れずに、定期的にCT検査を受けるようにしましょう(ちなみに男性の体内でもエストロゲンは合成されていますが、その影響についてはまだ不明です)。

(※4)国立がん研究センター研究所などによる遺伝子解析から、CYP19A1遺伝子の多型がエストロゲンの量に個人差をもたらすこと、また、エストロゲンが、肺腺がんの前駆(前段階)とされる細気管支肺胞上皮がんの発生に影響を及ぼすことがわかってきています。

空気中の汚染物質にも注意を

肺腺がんのもう1つの原因と推定されるのが汚染大気です。
私たちは呼吸するたびに、空気中にあるさまざまな有害物質(細菌やウイルス、自動車の排気ガス、タバコの煙、工場の煤煙など)を吸い込んでいます。肺の末端にある肺胞では、白血球の一種である肺胞マクロファージが有害物質を感知し、除去しています。この防御システムによって、肺胞の機能が守られています。
しかし、肺胞マクロファージが有害物質を取り除くとき、活性酸素が発生します。活性酸素は細菌などの除去に役立っていますが、大量に発生すると正常な細胞まで傷つけてしまいます。その結果、肺胞付近の細胞にがんが発生するリスクが高くなるのです。
吸い込む有害物質が多くなれば、それだけ肺胞マクロファージの出番が増え、活性酸素の発生量も増えます。大都市や工業化の進んだ都市に、肺腺がんの発生率が高いとされるのは、空気中の有害物質に触れる機会が多いからです。
予防のためには、できるだけ空気中の有害物質を体内に入れないように注意する必要があります。「風邪など呼吸器系の病気に気をつける」、「ウォーキングやジョギングは排気ガスの多い幹線道路沿いを避け、公園・緑地などを利用する」、「受動喫煙(ほかの人のタバコの煙)を避ける」などを心がけましょう。

毎日の食事に大豆食品を

エストロゲンが肺腺がんに影響を与えることから、化学構造が似ていて、大豆食品に多くふくまれるイソフラボンの働きが注目されています。
イソフラボンを多くとると、エストロゲン作用が増加するように思えますが、肺がんについては不思議なことにその反対なのです。
国立がん研究センターの調査によれば、タバコを喫わない男性の場合、イソフラボン摂取量が多いほど肺がん発症リスクが低くなることが判明しています(※5)。イソフラボン摂取量がもっとも多いグループ(平均値で1日当たり48㎎)は、もっとも少ないグループ(平均値で1日当たり9mg)と比較して、肺がん発症リスクが半分以下(約43%)と、はっきりとした予防効果がみられます。
また、タバコを喫わない女性の場合には、男性ほど顕著ではないものの、やはりイソフラボン摂取量が多いほど肺がんの発症リスクは減少します(摂取量がもっとも多いグループの発症リスクは、もっとも少ないグループの約67%)。
ちなみにこの報告では、イソフラボン12mgは豆腐で40g、納豆で3分の1パックに相当する量としています。もっとも多いグループは、毎日その4倍を食べている計算になります。

その一方で、喫煙者の場合には、イソフラボン摂取の効果はみられません。
これらのことから、予防のためにはまず禁煙すること。そして、イソフラボンをふくむ食べ物を多くとることが大切だといえます。イソフラボンの多い大豆食品には、豆腐や納豆のほか、大豆の煮豆、湯葉、豆乳、おから(うの花)などがあります。毎日しっかり食べるようにしましょう。

(※5)2010年に発表された国立がん研究センターによる多目的コホート研究の1つで、45~74歳の男女約7万6000人を対象とした調査。この調査では肺腺がんに限定せず、肺がんを対象としています。
また、欧米では、果実や野菜にも予防効果があるとする調査結果もみられますが、日本の調査では果実や野菜の効果は確認されず、国立がん研究センターによる別の調査では「果実にその可能性がある」とだけしています。

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