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2013.05.10

vol.119 受動喫煙の怖さを知っておこう

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受動喫煙とは

Vol.119 受動喫煙の怖さを知っておこう 神奈川県や兵庫県で「受動喫煙防止条例」が施行されたのをきっかけに、日本各地で受動喫煙対策への関心が高まっています(※1)。
受動喫煙というのは、自分の意志にかかわらず、他人が喫うタバコの煙を吸わされてしまうこと。タバコというと、刺激臭を嫌う人が多いのですが、臭いよりも健康への影響が大きいのは、煙に含まれるさまざまな有害物質です。じつはタバコの煙には、200種類もの有害物質(うち約70種類は発がん性物質)が含まれています。
とくにタバコで問題になるのは、喫煙者が吸い込む主流煙よりも、タバコの先から立ちのぼり、ほかの人も吸い込む副流煙です。というのも副流煙には、主流煙よりもずっと多くの有害物質が含まれているからです(※2)。

たとえば、タバコの3大有害物質を比較すると、主流煙を1とした場合、副流煙にはニコチンが2.8倍、タールが3.4倍、一酸化炭素が4.7倍も多くみられます(厚生労働省『喫煙と健康』第2版)。
ニコチンは神経毒性をもつ物質で、末梢血管を収縮させ、血圧を上昇させる作用があります。また、依存性があるため、タバコを喫わないとイライラし、なかなかタバコをやめられない原因にもなります。タールは、タバコの成分が熱で分解されてできる粘着性の物質で、ベンゼンなど多くの発がん性物質が含まれています。そして一酸化炭素は、タバコが不完全燃焼するときに発生する物質で、血液中では酸素よりも先にヘモグロビンと結合します。そのためからだが酸素不足状態になり、活動量が低下し、疲れやすくなります。また、血液中のコレステロールを酸化させ、動脈硬化を促進する作用もあります。

このように副流煙は、さまざまな作用をもつ有害物質を多く含むため、その影響は肺がんだけでなく、喘息などの呼吸器障害、心筋梗塞などにまで及ぶことが分かってきています。
その一方で、受動喫煙の危険性に対する認識度は、まだあまり高いとはいえません。多くの方は、分煙したり、空気清浄機があれば、防ぐことができると思っているのではないでしょうか。こうした誤解をなくし、受動喫煙による健康障害をできるだけ減らすための対策について、知っておきましょう。

(※1)神奈川県では2010年4月から、兵庫県では2013年4月から、病院などの公共施設は全面禁煙にし、また大規模なホテルや飲食店などにも禁煙、あるいは分煙のための設備を求める条例を施行しています。

(※2)主流煙は、喫うときに800℃もの高温になるため、有害物質も燃焼されやすくなります。それに対して副流煙は低温のため、煙のなかに多くの有害物質が残り、それだけ危険性の高い煙だといえます。

受動喫煙とがんの関係

受動喫煙の影響として、だれもがまず思い浮かべるのは肺がんでしょう。
国立がん研究センターの多目的コホート研究によると、夫がタバコを喫う場合、女性(同居。自分は喫わない)の肺がんリスクは1.3倍程度になります。しかし、肺腺がんに限定すると、リスクは2倍以上にもなることが報告されています(※3)。
肺腺がんは、肺の奥(肺胞付近)にできるがんで、女性に多くみられます(詳細はバックナンバー100「肺腺がん」をご参照ください)。一般に、ほかのタイプの肺がんと比較するとタバコ(喫煙)の直接的な影響は少ないものの、汚染大気の影響を受けやすいという特徴があります。
受動喫煙の場合、空気中に広がった副流煙の微小有害物質を呼吸と一緒に吸い込むため、肺の奥深くまで入りやすく、それが肺腺がんを引き起こす一因だと推測されています。そのため多目的コホート研究では、「タバコを喫わない女性の肺腺がんの37%は、夫からの受動喫煙を避ければ防ぐことができる」としています。

受動喫煙とがんとの関係は、肺がんだけではありません。
国立がん研究センターの別の調査では、タバコを喫わない女性が家庭や職場で受動喫煙の状態にある場合、乳がんの発症リスクが最大で2.6倍にもなることが報告されています(※4)。ただし、これは閉経前の女性に顕著なことから、女性ホルモンの活性がなんらかの影響を及ぼしていると推測されています(閉経後の女性では明確なリスクはみられません)。
そのほかのがんについては、まだ詳細な調査がありませんが、国際がん研究機関(WHOの外部機関)では、受動喫煙を発がん性のリスクがもっとも高い「グループ1」クラスに位置づけています。

(※3)女性の肺腺がんのリスクは、夫の喫煙本数が1日20本未満では1.7倍、20本以上だと2.2倍になり、本数が多いほど受動喫煙の影響も大きいことが指摘されています。

(※4)同調査では、家庭よりも職場での受動喫煙の影響が大きいという結果もみられます。ただし、受動喫煙の時間や量には個人差もあるため、理由は明確になっていません。

呼吸器疾患や心筋梗塞にも注意を

肺がんなどのがんの発症には、15年~20年もの長い年月がかかります。そのため受動喫煙の影響がはっきりしていても、あまり緊急性を感じないため、予防対策も遅れがちです。
それに対して、もっと短期間で発生する病気があります。それは気管支炎や喘息、あるいは心筋梗塞などです。
タバコの副流煙には、PM2.5(大きさが2.5マイクロメートル以下)という微小の有害物質が大量に含まれています(※5)。中国大陸から飛来する大気汚染物質として社会問題にもなったので、覚えている方も多いでしょう。
環境省の基準では、PM2.5の濃度は1日平均で35μg(マイクログラム)以下(1㎥当たり)と定められています。全面禁煙の建物内では8~22μg程度ですが、喫煙可能な建物内ではその数倍~20倍にも濃度が上昇します。また、日本がん学会などのグループによる調査では、喫煙可能な居酒屋では568μgにも達していたことが報告されています。
この高い数値は、WHO(世界保健機関)やアメリカ環境保護局などの基準では、緊急事態レベル(「すぐに避難すべき」あるいは「呼吸器に重大な症状が現れる」)の2倍以上に相当します。もちろん居酒屋と、家庭や職場を単純に比較はできません。しかし、喫煙者がいれば室内のPM2.5の濃度は数十~100μgになり、その程度でも「呼吸器に症状が現れる」とされるレベルなのです(※6)。

実際、タバコの副流煙の影響で、早くから症状が出やすいのは呼吸器疾患です。気管支や肺の炎症、喘息などを起こしやすくなります。とくに子供や高齢者は影響を受けやすいので、受動喫煙を避ける必要があります。
また、2008年の中央環境審議会の報告では、PM2.5が虚血性心疾患、不整脈、心拍変動などの危険因子であり、とくに急性心筋梗塞との関係が指摘されています。高血圧糖尿病脂質異常症などの生活習慣病では、もともと心筋梗塞のリスクが高いので、発症を予防するためには自分が禁煙することはもちろん、受動喫煙もできるだけ避けることが大切です。

(※5)PM2.5は、化石燃料や草木の燃焼時に出る、さまざまな超微粒子化学物質の総称です。

(※6)2013年2月の日本の専門家会合による暫定基準では、1日の平均値が70μg超(1時間値では85μg超)の場合、「不要不急の外出や屋外での長時間の激しい運動をできるだけ減らす」としています。とくに「呼吸器や循環器に疾患のある人は慎重に行動する」旨の注意が示されています。

受動喫煙の被害を避けるには

受動喫煙の予防の難しさは、自分でも気づかずに副流煙などを吸い込んでいるケースが多いことです。
たとえば、空気清浄機があると、タバコの煙や臭いをあまり感じないので、つい安心しがちです。ところが、空気清浄機では一酸化炭素などのガス状物質は除去できないため、有害物質を防ぐ効果はありません(※7)。
また、喫茶店などに多い分煙の場合、禁煙場所はなんとなく空気がきれいだと思いがちです。ところが、ガラスなどで仕切られた喫煙コーナーからの人の出入りや、喫煙者の呼気や洋服に付いた有害物質の影響で、禁煙場所の空気も汚染されていることがさまざまな調査から分かっています。
このように受動喫煙は、見た目や臭いなどからは分かりにくい面もありますが、自分が被害を受けている場合には自覚症状がみられることも少なくありません。たとえば、目が痛い(しみる)、ノドが痛い(咳が出る)、頭痛が起こるなどの症状です。その程度のことならよくある、と思われるかもしれませんが、ほかに原因がなく、タバコが原因と思われる場合には、こうした症状は「急性受動喫煙症」に相当し、すでに注意が必要な段階です。私たちのからだに備わった防御センサーが、副流煙に含まれるアンモニア、二酸化硫黄、一酸化炭素、そして微小物質のPM2.5などを感知し、危険信号を送っているのです。
初期症状を放置していると、次第にからだが慣れてきて、目の痛みなどを感じにくくなります。ところが有害物質は継続して吸っているので、あるとき化学物質過敏症やアレルギー性皮膚炎、気管支炎、喘息、副鼻腔炎などの症状を引き起こします(慢性受動喫煙症)。

したがって、初期の軽い症状を感じたら、そうした場所は避けるようにすることが大切です。会合などの付き合いでやむを得ない場合でも、長居はせず、早めに切り上げましょう。とくに高血圧や糖尿病、脂質異常症などの方は、動脈硬化や心筋梗塞の予防のためにも十分な注意が必要です。
また、妊娠中の女性や幼児のいる家庭では、同居家族全員が協力して禁煙を心がけることが大切です。受動喫煙により、低体重児出産や幼児の発育障害、中耳炎、SIDS(乳幼児突然死症候群)などをまねきやすいことが知られているからです。家族がなかなか禁煙できない場合には、病院の禁煙外来を訪ね、医師と一緒に禁煙に取り組むなどして、胎児や子どもに受動喫煙の被害を及ぼさないようにしましょう。

(※7)厚生労働省のガイドラインでは、空気清浄機にはガス状物質の除去効果がないことを指摘し、職場では適切な場所に喫煙室を設置する必要があるとしています。


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