vol.171 新型栄養失調って何?

はじめよう!
ヘルシーライフ

日本で多くの人が栄養失調となったのは、第二次大戦中や終戦後まもなくのこと。その後は、栄養失調という言葉を耳にすることが少なくなりました。しかしここ最近、「新型栄養失調」という言葉が飛び交うようになっています。どんなことが原因で新型栄養失調になってしまうのでしょうか。

vol.171 新型栄養失調って何?

なぜ“新型”栄養失調になるのか?

食糧不足で栄養失調になってしまう時代が過去にありました。また、現在でも経済的理由で満足に物が食べられないという場合もあるでしょう。しかしそれ以外の理由で、今の時代でも栄養が不足してしまうことがあります。
その多くはまず、高齢者にみられます。麺類やお茶漬けなどさっぱりしたものだけで食事を済ませたり、歯を失ったことで硬いものを避けるようになったりといったことから、栄養が不足してしまうからです。また、高齢で単身の場合に調理をしなくなったり、足腰の不具合など体調が原因で買い物ができなくなったりした場合も、栄養不足を招きがちです。

こういった高齢者の場合とは異なる理由で、若い女性が新型栄養失調となっているケースがあると指摘する専門家がいます。自己流の食事制限ダイエットなどが原因で、栄養不足になってしまうのです。また、食事がファストフードに偏っていたり、同じものばかりを食べているケースも新型栄養失調をもたらす心配があります。これらは若い女性だけでなく、子どもや中年世代の一部の人にも見られる傾向だそうです。こういった場合は、摂取カロリーは足りているのに、タンパク質やビタミン、ミネラルといった特定の栄養素が不足してしまいます。そういう状態が「新型栄養失調」といわれているのです。

タンパク質は、筋肉や臓器、さらには免疫細胞をつくる材料です。筋肉量が減少すると太りやすい体質になってしまったり、免疫細胞が不足すると感染症のリスクが増えてしまいます。また、赤血球の中のヘモグロビンの材料でもありますので、タンパク質が不足すると貧血の心配が考えられます。新型栄養失調のなかでも、タンパク質不足が招く影響は甚大。これを防ぐためには、肉や魚、大豆製品などをしっかり取ることが重要です。

日本人に不足しているミネラルは?

タンパク質に次いで、不足が懸念されているのがミネラルです。人の健康維持に欠かせない必須ミネラルはカルシウムやリン、カリウムなど16種類ありますが、そのなかでカルシウムとマグネシウムの不足が心配されています。
一般的に、日本人に不足しているといわれているのがカルシウムです。事実、15~70歳の1日の摂取基準は、男性550~650㎎、女性650㎎※1なのに対して、実際の摂取量は男性443~578㎎、女性427~568㎎※2と基準に達していません。
人間の骨は絶えず作り直されているため、カルシウムが不足すると骨がもろくなってしまうリスクが高くなります。また、女性ホルモン・エストロゲンはカルシウムの吸収率を高めてくれるのですが、閉経後にはエストロゲンの分泌が減少してしまうため、小腸からのカルシウム吸収率も低くなります。そのため骨量が減少して、骨粗しょう症の原因になってしまうのです。

カルシウムと同様に不足気味なミネラルはマグネシウムです。そこには主食の変化も関係しています。
玄米100g(以下すべて、可食部100g中の成分量)に含まれるマグネシウムは110㎎、それに対して白米は23㎎です。食パン、フランスパン、ロールパンにも20~22㎎しか含まれていません。玄米の代わりに白米を食べるようになったこと、パン食が増えたことなども、マグネシウム不足の一因と考えられるのです。ちなみに、多くのパンに使われる小麦粉は強力粉ですが、通常の強力粉に含まれるマグネシウムは23~36㎎なのに対して、全粒粉には140㎎含まれています。マグネシウム不足を考えてパンを選ぶなら、全粒粉のものを選ぶといいでしょう。また、スーパーフードの一つとして注目を集めているアマランサスには270㎎も含まれているうえ、カルシウムなども豊富に含まれています※3。アマランサスは加熱しないと消化が悪いため、ご飯を炊くときに混ぜたり、レンジで温めてからサラダやヨーグルトにトッピングするなどの食べ方がおすすめです。
マグネシウムが不足すると、狭心症や心筋梗塞などのリスクが高くなるといわれています。また、カルシウムに対してマグネシウムの摂取量が少ないと、心疾患による死亡率が高くなるという研究結果もあります。そのため、カルシウムとマグネシウムを2対1の割合で摂取するといいとされています。また、マグネシウムはブドウ糖からエネルギーを産生する際の酵素反応にもかかわっています。つまり、マグネシウムが不足することで、ブドウ糖をエネルギーに変える効率が悪くなってしまうことが考えられます。そのため、新型栄養失調の一つといえるマグネシウム不足が、糖尿病患者の増加にも関連していると指摘する専門家もいるほどです。

※1 日本人の食事摂取基準(2015年版)の概要(厚生労働省)より

※2 平成27年国民健康・栄養調査(厚生労働省)より

※3 食品標準成分表2015年版(七訂)(文部科学省)より

不足気味と指摘されているビタミンは?

日本人に足りていない栄養素として、ビタミンAとB1を挙げる専門家もいます。
ビタミンAは視覚の正常化、皮膚や粘膜の健康維持に貢献するほか、がんの発症を抑えるのにも有効だといわれています。また、ビタミンAが不足すると糖尿病を発症するリスクが増すという研究結果もあります。
ビタミンAを多く含む野菜の代表はニンジンですが、その食べ方にも工夫が必要です。ビタミンAは脂溶性のビタミンなので、油と一緒に取ると吸収率が高いからです。生で食べた場合に比べ、吸収率は8~10倍も異なるとされていますので、ノンオイルドレッシングを使った生野菜サラダばかりでニンジンを取っていては、損をしていることになります。野菜炒めなど、異なる調理方法を駆使しましょう。
ちなみに豚や鶏のレバーにもビタミンAが多く含まれており、野菜に含まれる成分より体内での利用効率が高いとされています。だからといって、野菜を取らなくていいというわけではありません。野菜には抗酸化作用など、独自の機能があるからです。動物性食品、植物性食品のどちらかに偏らないようにすることも重要といえるでしょう。

ビタミンB1は、炭水化物をエネルギーに変えるときに必要なビタミンです。また、脳や神経の機能を維持する働きも持っています。夏にダメージを受けた肌を回復させる効果もあるといわれています。
ビタミンB1が豊富な食材は豚肉や大豆などです。ビタミンB1は水溶性で、熱に対してあまり強くないため、高熱で長時間調理すると失われてしまうことがあります。もちろん豚肉は、十分に加熱する必要があることは言うまでもありませんが、加熱によってビタミンB1が失われていることは考慮しておく必要があるでしょう。また、穀類では玄米100gあたり0.41㎎含まれていますが、精白米では0.08㎎と※3、5分の1に減ってしまいます。ぬかや胚芽にビタミンB1が多く含まれているからですが、せっかく炭水化物を取ってもビタミンB1が不足しているためエネルギーに変えることができないのは、もったいないと言わざるを得ません。

新型栄養失調の対策は?

新型栄養失調の対策としては、食事のバランスに勝るものはありません。朝食をとらなかったり、同じものばかり食べていたり、サプリメントに頼り過ぎたりといったことを避けることはもちろんです。そのうえで、多くの食材を取ることをお勧めします。
暑い時期にさっぱりした物ばかりで食事をしていたような場合、栄養不足が続いていた危険性があります。夏の間、もりそばやそうめんだけで食事を済ませていたなら、それを改めましょう。副食を加えたりして、栄養バランスを取り戻すことが必要です。

厚生省(現厚生労働省)が1985年に策定した「健康づくりのための食生活指針」で「1日30品目」を食べることが目標とされましたが、2000年には「30品目」の表現は削られています。その理由は、「30品目の数字を意識するあまり、食べ過ぎてしまいかねないので、数値表示をしなかった」とされています。現在では「主食、主菜、副菜を基本に、食事のバランスを」としたうえで「多様な食品を組み合わせましょう」「調理方法が偏らないようにしましょう」「手作りと外食や加工食品、調理食品を上手に組み合わせましょう」と記されています。
これは、「30」という数字にこだわる必要はないものの、多様性を重視しましょうということを意味しています。野菜を食べるにしても、前章でニンジンを例にしたとおり、生野菜、炒める、煮る、などと調理方法を変えてみましょう。調理方法が異なるということは、水溶性・脂溶性の栄養素、高温に弱い栄養素など、それぞれに対応できることになります。ある食事で高温に弱い栄養素が多少失われても、次の食事で別の調理方法を取り入れることで、その栄養素をカバーするようにするということです。自分で調理すると、同じような手順で下ごしらえをして、似た方法で調理しがちです。それを変えることで、栄養素が取れる可能性が高まるのです。調理方法に関しても多様性が重要だといえるでしょう。

温野菜は細胞壁が壊れた状態になっているため、栄養素の吸収率が高まります。加熱すると失われる栄養素がありますが、吸収率が高まるため、失われる分より多くの栄養素を吸収できるという意見を持つ漢方の専門家も少なくありません。野菜サラダだけ取っていれば万全、というわけではないようですので、ぜひ参考にしてみてください。

新型栄養失調の影響と考えられる深刻な例があります。2500g未満の低体重児の出産が増えているのも、妊娠中の体重増加を気にして食事制限をしたことなどによる新型栄養失調が一つの原因といわれているのです。もちろん、妊娠高血圧症候群や、妊娠中の喫煙・飲酒などが原因となる低体重児出産の場合もあります。しかしきっちり食事を取ることで低体重児出産のリスクを減らせる可能性もあるのですから、医師と相談したうえで妊娠中の生活習慣を大事にしましょう。

このコラムは、掲載日現在の内容となります。掲載時のものから情報が異なることがありますので、あらかじめご了承ください。

関連コラム

商品を見る