夏の脳梗塞予防は、上手な水分補給で

脳卒中・脳梗塞 予防・対策・生活改善

脳梗塞は夏にも多い!

脳梗塞は夏にも多いということを、ご存じでしょうか。
従来、脳梗塞や脳出血などは、血圧が上昇しやすい冬に多い病気として知られていました。ところが国立循環器病センターの調査によると、脳梗塞に限っては夏も冬と同じくらいの割合で発症することがわかっています(※1)。
その主な原因とされるのが、脱水症状です。夏は汗をかくため、気付かないうちに体内の水分が不足がちになります。そうすると血液の流れが悪化し、血管が詰まりやすくなるのです。
脱水予防には適切な水分補給が大切ですが、ただ多くとればいいというものではありません。夏の脳梗塞には、発症しやすいタイプや時間帯、水分補給のコツ、生活上の注意などに特徴があります。そのため上手な予防法を知っておきましょう。
まず脳梗塞には大きく分けて、脳塞栓症と脳血栓症という2つのタイプがあります。
脳塞栓症は、心臓付近にできた血栓が移動し、脳の血管を詰まらせるものです。長嶋茂雄・巨人軍名誉監督の脳梗塞は、このタイプです。
もうひとつの脳血栓症は、脳の血管そのものが狭くなったり、血栓ができたりすることで引き起こされます。実は夏に多いのは、この脳血栓症です(※2)。 脳血栓症は、普段健康そうにみえていても、脱水症状が引き金となって急に発症します。高齢者に限らず、30~50歳代の比較的若い世代でも、発作におそわれて倒れることがあるので注意が必要です。歌手の西城秀樹さんも48歳のときに脳梗塞で倒れましたが、その原因は減量や過労などによる脱水症状でした。

(※1)国立循環器病センターが調査を行い、2018年に日本循環器学会英文機関誌「Circulation Journal」で発表。

(※2)脳血栓症には、細い動脈に起こるラクナ梗塞と、頚動脈を含む太い動脈に起こるアテローム血栓性脳梗塞があります。この2つで、脳梗塞全体の約75%を占めますが、いずれも夏に多く、また脱水症状の影響を受けやすいという特徴がみられます。

vol.37 夏の脳梗塞予防は、上手な水分補給で

根底には動脈硬化が

脳梗塞は血管が詰まる病気だけに、多くの場合、その根底には動脈硬化があります。つまり血管の老化です。
加齢とともに、だれでも動脈硬化が起こりますが、それを促進するのが肥満、高血圧、糖尿病、高脂血症などの生活習慣病です。こうした病気をもっている人、あるいはその予備軍段階の人は、もともと脳梗塞のリスクが高いだけに、夏には適度な水分補給を心がける必要があります(動脈硬化の詳細については、「生活習慣病 基礎知識」をご参照ください)。
生活習慣病のなかでも、とくに注意したいのは、血圧が高めの人です。
血圧が高いと、血管にいつも大きな圧力がかかるため、血管壁が厚くなったり、傷つきやすくなったりして、動脈硬化が促進されます。とりわけ脳の細い動脈は影響を受けやすく、血管壁が厚くなると血液の流れが悪化し、詰まりやすくなります。そこに脱水症状が加わることで、血栓ができるリスクが急激に高くなります。
しかも困ったことに、脳の細い動脈に生じた小さな詰まりは、通常の健康診断やCT検査ではなかなか発見できません。それだけに日頃から血圧を管理し、同時に動脈硬化の検査も受けるようにすることが大切です。
また、次のような一過性の症状がみられたときは、脳梗塞を起こす前触れである可能性もあるので、注意しましょう(※3)。

1.片方の手に急に力が入らなくなり、はしやペンなどを落とす。
2.片方の手や足がしびれ、感覚がなくなる、もしくは鈍くなる。
3.片方の目が見えなくなり、視野が欠ける。
4.足元のふらつきや、めまいが起こる。

(※3)これらの症状は一過性脳虚血発作と呼ばれるもので、たいていの場合、まもなく消えてしまいます。ところが後になって、本格的な脳梗塞を起こすことがあるので、異常を感じたら早めに検査を受けることをおすすめします。

上手な水分補給の仕方

夏の水分補給というと、汗をかいたときに水を飲めばいい…そんなふうに簡単に考えていませんか。これは2つの点で間違っています。

<間違い1>
水分を摂取しても、すぐに血液の流れがよくなるわけではありません。からだ全体に浸透するには15~20分程度はかかります。したがって大切なのは、汗をかいていなくても、早め早めに、そしてこまめに水分補給を行うことです。
スポーツ時や外出時など、汗をたくさんかくときは、普通の水とともに、スポーツドリンクをとることが推奨されています。からだへの吸収が速く、汗と一緒に消耗した塩分などのミネラル補給にも役立つからです(※4)。
しかし、血圧が高め、もしくは治療中の場合は、塩分のとりすぎに注意が必要です。日頃から塩分を控えている人は、水分と塩分補給についてかかりつけの医師と相談することをおすすめします。

<間違い2>
夏には汗をかかなくても、脱水症状を起こすことがあります。その2大要因が、エアコンとアルコールです。
エアコンの効いた室内は思いのほか乾燥しており、汗をかかなくても常にからだから少しずつ水分が奪われています。室内にいるからと油断せず、きちんと水分補給をするようにしましょう。とくに高齢になるほど、のどの渇きに気付きにくくなるので、定期的に水分をとることが大切です。
また夏には、仕事帰りや自宅で冷えたビールをグイッと飲むことも多くなります。
ビールなどのアルコールを飲んでいると、たくさん水分をとっているように感じるかもしれませんが実際には逆で、アルコール類の利尿作用により、飲んだ以上に尿となって水分が排出されてしまうケースが多いのです。
アルコールを飲むときは、飲みすぎに気を付けると同時に、チェイサーで水を飲む習慣をつけるようにしましょう。

(※4)スポーツドリンクは、夏の熱中症予防にも効果的です。熱中症の場合、水分の補給だけでなく、塩分などのミネラルの補給が必要となるからです。

睡眠の前後にも水分補給を

普段でも私たちは、眠っている間に汗をかいて、平均するとコップ1杯程度(200cc)の水分を失っています。真夏の、それも熱帯夜ともなると、それ以上の大汗をかくことも珍しくありません。
また眠っているときは、一般に血圧が低下するため、血液の流れが遅くなり、血栓ができやすい状態になります。
さらに起床する前後からは、血圧が上昇すると同時に、活動に備えてアドレナリンが分泌されることによって血液が固まりやすくなります。
これらの条件が重なるため、夏の脳梗塞は睡眠中から起床後の時間帯にかけて、発症のリスクが高くなります。
水分不足を解消するために、まず寝る前に水を1杯飲むようにしましょう(※5)。朝起きたときに水を1杯飲むことも、脱水予防につながります。

(※5)寝る前にとる水分には、普通の水か白湯(さゆ)が適しています。お茶や紅茶、コーヒーなどにはカフェインが含まれているため、寝付けなくなることがあるので注意しましょう。

水の過剰摂取には要注意!

水分を多く摂取すれば、脳梗塞を予防できると思っている人もいるかもしれません。しかし、それが事実であるという直接的な証拠はいまだ示されていません。
脱水予防のためにこまめに水分補給することは大切ですが、それだけで脳梗塞を防ぐことはできません。食事、運動、喫煙、飲酒などの生活習慣を改善して、健康的な生活を送ることが大前提となります。
水は多すぎても少なすぎてもからだに悪影響を及ぼすものです。水分の過剰摂取は心臓に負担をかけるため、心不全の発生や悪化を引き起こすことがあります。また、水中毒、夜間頻尿やそれによる睡眠障害などのリスクも指摘されています。
とはいえ、適切な水分補給は、健康の維持に不可欠です。私たち日本人は全体的に水分摂取量が不足しがちな傾向にあります。血圧が高めの人や、動脈硬化の疑いがある人は、コップの水をあと2杯多く飲む習慣をつけましょう。

(参考)
『「水分を多く摂取することで, 脳梗塞や心筋梗塞を予防できるか?」システマティックレビュー』日本老年医学会雑誌
https://www.jstage.jst.go.jp/article/geriatrics1964/42/5/42_5_557/_article/-char/ja/
『25460782研究成果報告書』KAKEN
https://kaken.nii.ac.jp/file/KAKENHI-PROJECT-25460782/25460782seika.pdf
『「健康のため水を飲もう」推進運動』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/topics/bukyoku/kenkou/suido/nomou/index.html
『脳梗塞は冬の病気? 夏の病気?』国立循環器病研究センター
http://www.ncvc.go.jp/pr/release/20180425_press.html
『夏の日常生活における水分と塩分の摂取について:熱中症予防と高血圧管理の観点から』日本高血圧学会
https://www.jpnsh.jp/general_salt_01.html

更新日:2021.03.16

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