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2010.04.09

vol.82 おとなの「そけい(鼠径)ヘルニア」にご注意を

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そけいヘルニアって何?

Vol.82 おとなの「そけい(鼠径)ヘルニア」にご注意を 「そけいヘルニア」という病名には聞きおぼえがなくても、「脱腸(だっちょう)」といえば知っている方も多いでしょう。脱腸は子どもの病気…と思われがちですが、実際には成人のほうがずっと多く、それも中高年に顕著な病気です。
ところが子どもの病気と思っている方が多いため、恥ずかしがったりして治療が遅れるケースが少なくありません。そこでまず、この病気について知っておきましょう。
そけいヘルニアの最初の症状は、そけい部(太ももの付け根付近)に出るポコッとしたふくらみ。立ち上がったり、何かを持ち上げたりしたときなど、おなかに力が加わったときに出やすい傾向がみられます。
じつはそのふくらみは、内臓を保護している腹膜や腸の一部が飛び出してきたもの。ヘルニアとは、「飛び出す、はみ出す」という意味です。
ふくらみの大きさは人それぞれで、ピンポン球や鶏卵くらいに感じることもあります。さわるとやわらかく、手で押したり、からだを横にしたりすると、たいていは引っ込んでしまいます。そのため不安を感じながらも、放置していることが少なくありません。やがて同じ症状をくり返すようになり、ふくらみも次第に大きくなって、ひきつるような軽い痛みを感じることもあります。
さらに放置していると、手で押しても引っ込まず、痛みも強くなってきて、歩くのもつらくなります。こうした状態を「嵌頓(かんとん)」といいますが、飛び出した腸などが詰まる腸閉塞や腹膜炎などを起こしやすく、生命にもかかわるほど危険性が高くなります。
そうなる前にきちんと受診する(外科)ことが大切です。

そけいヘルニアはなぜ起こる

本来はおなかのなかにある腹膜や腸が、なぜ外へ飛び出してくるのでしょうか。主な原因は、加齢によって内臓や組織を支えている筋膜や筋肉が衰えることにあります。
太ももの付け根あたりには筒状のそけい管が、筋膜をつらぬくように通っています。そけい管は、男性では睾丸とつながる血管や精管(精子を運ぶ管)を、また、女性では子宮を支えるじん帯を保護しています。
加齢にともなって筋膜などが弱くなると、そけい管や周辺の筋肉層にすき間ができてきます。そんな状態のときにおなかに力が入ると、広がったすき間から腹膜や腸の一部がこぼれ出て、そけいヘルニアを起こすのです。
人によって、そけい管のすき間から出るタイプ(外そけいヘルニア)、筋肉層の隙間から出るタイプ(内そけいヘルニア)、そけい管より下の大腿管付近から出るタイプ(大腿ヘルニア)の3つがあります。患者数からいうと外そけいヘルニアがもっとも多く、また、内そけいヘルニアは高齢者に、大腿ヘルニアは中年以降の女性に多いという特徴があります。
これらのタイプはヘルニアの場所が違うだけで、基本的には同じ原因、つまり加齢によって内臓を支えている筋膜や筋肉が衰えることから生じます。日本では毎年わかっているだけで約15万人がそけいヘルニアの手術を受けていますが、加齢が主な理由なのでだれにでも起こりうる病気だといえます(※1)。
男女比でみますと、男性のほうがそけい管が太いこともあって、全体の80%は男性の患者さんです。男性は30歳代から増え始め、50~60歳代がピークになるのに対し、女性の場合は20歳代や30歳代の若い世代にもみられるという特徴があります(※2)。

(※1)そけいヘルニアの手術は推定で毎年 14~16万件になりますが、恥ずかしいなどの理由から受診しない人も多いため、潜在的な患者数は数倍はいるとみられています。

(※2)女性の患者さんに若い世代が目立つのは、生理などの性周期と関連しているからと推測されています。また、中年以降の女性に多い大腿ヘルニアは、飛び出した腸などがもどらない「嵌頓(かんとん)」になりやすいので注意が必要です。

そけいヘルニアの治療は

そけいヘルニアは薬で治すことはできず、基本的には手術が必要です。ヘルニアバンドやヘルニアサポーターなどで外側からおさえる方法もありますが、これらは手術までの一時しのぎと考えたほうがいいでしょう。
手術にはいくつかの方法がありますが、現在主流となっているのは、ゆるんですき間ができたそけい管や筋膜の部分に、メッシュのプラグ(栓)やシートの人工補強材を入れ、飛び出してこないようにする方法です。このメッシュ法だと局部麻酔で済み、傷も小さいのでからだへの負担も軽減できます。
最近は、体内で広がってすき間をふさぐ形状記憶タイプのメッシュシート(クーゲルパッチ)を使用する病院も多くなっています。手術方法については病院によって、また、ヘルニアの状態などによっても異なるので、事前に話をよく聞くようにしましょう(※3)。
以上は、一般的なそけいヘルニアの手術方法ですが、腸などがもどらない状態のままで悪化していると、切除手術などが必要になることもあります。とくに、腸の組織が壊死(えし)状態を起こしている場合には、遅れると生命にかかわるため、緊急の大きな手術になる可能性もあります。
それだけに、手で押して腸がもどる段階で受診するのがベストですが、もし腸がもどらない状態になったら早めに手術を受けましょう。

(※3)メッシュシートは手術用の糸と同じポリプロピレン製の人工膜で、体内にあっても心配のないものです。ただし子どもの場合は、成長を考慮してメッシュ法はおこなわれていません。一般に子どものそけいヘルニアは先天的な原因が多く、自然に治ってしまうこともあるため、成人の場合とは治療の考え方が異なります。

こんな人、こんな生活に注意を

成人のそけいヘルニアは、加齢による筋膜などの衰えに加え、おなかに力を入れることで起こりやすくなります。そのため職業によって、また、日常の生活行動によっても、注意が必要なケースがあります。
たとえば職業では、力を入れる仕事や重いものを持ち上げたり運んだりする仕事です。作業中に、どうしてもおなかに力を入れることが多くなるからです。立ち仕事でも、商品の製造や出し入れにたずさわる方は、同様のリスクがあります。こうした職業の方は、そけいヘルニアが出ると悪化させやすいので注意が必要です。
日常生活面では、日ごろから便秘気味でトイレでいきむことが多い方も要注意。また、肥満気味だったり、妊娠中の方も、腹圧がかかりやすいので注意が必要とされています。
男性のなかには、大きなくしゃみや咳をする方が少なくありませんが、こうした動作もおなかに力が加わりやすくなります。
加齢による内臓の筋膜などの衰えは、自分ではなかなか治せませんが、日常生活の習慣や動作などは改善することができます。

  • 便秘を解消する(食物繊維の多い根菜類やヨーグルトなどを食べる、適度の運動をして腸の働きをよくする)
  • 肥満を解消する(腹八分目にする、脂肪分の多い肉類を控える、運動習慣をつける)
  • くしゃみや咳は小さめにする(手やハンカチで口をおさえる)

力仕事などをする方はもちろんですが、中年以降はこうしたことに気をつけ、もし太ももの付け根付近にふくらみが出た場合には早めに受診することを心がけましょう。


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