vol.127 早期診断・治療が可能になってきた「線維筋痛症」

健康・医療トピックス

まるでガラスの破片が流れるような痛み。こんな激痛が出現する「線維筋痛症(せんいきんつうしょう)」という病気をご存じですか? 確かに痛みは存在するのに体のどこにも異常は見られず、詳しく検査しても炎症や免疫機能にもまったく問題がない…。摩訶不思議ともいえる痛みの症状が、この病気の大きな特徴です。

2007年の厚生労働省研究班調査によると日本での有病率は、人口の約1.7%。患者数は約200万人と推定されています。発症者は20~60歳代の女性に多く、とくに中高年の女性に多く発症します。これまではなかなか診断がつかず、何年も治療にたどり着けない病気とされてきましたが、2012年にプレガバリン(商品名リリカ)が線維筋痛症の保険適用になり、近年では早期診断・治療で治せる病気になってきています。

vol.127 早期診断・治療が可能になってきた「線維筋痛症」

うつ病などを併発しやすい「線維筋痛症」

線維筋痛症の原因ははっきりしていませんが、思春期に受けた虐待やトラブル、手術や事故などによる外傷、PTSD(心的外傷後ストレス障害)などが発症や増悪のきっかけになることがわかっています。痛みに対する不安から精神疾患を併発することが多く、「うつ病」の合併率は30~50%、躁状態と抑うつ状態を繰り返す「双極性障害」は25%。ストレスを我慢して内在化させる「失感情症」も44%と高くなっています。

抗うつ薬がどうして痛みに効くのか不思議ですが、それは痛みの原因が脳にあるからです。うつ病を合併していると、ちょっと触られただけで激痛に感じることがあります。これは、脊髄から脳へつながる中枢神経系に関連する痛みの大きな特徴です。

線維筋痛症の脳内では、刺激に対して過剰に反応する「知覚過敏」が起きていると考えられます。抗うつ薬には、脳内のセロトニンの再取り込みを抑える働きがあります。セロトニンが増えることで痛みの伝達経路の障害を治し、過剰な働きを抑えて痛みを改善します。保険適用になったプレガバリンでは、痛みを起こす物質の放出を抑えて痛みをやわらげる効果があるといわれています。

漢方薬を併用し、痛みの悪循環を断ち切る

線維筋痛症は、痛み以外に「睡眠障害」や「疲労感」、「朝のこわばり」などの出現率が高く、これらの症状を改善するために漢方薬も用いられています。聖マリアンナ医科大学神経精神科学の長田賢一准教授は、抗うつ薬である程度痛みは改善されたものの、眠れないと訴える患者を対象に、抑肝散(よくかんさん)を用いて効果を調べました。その結果、抑肝散を併用した患者は、1か月間で不安の症状がなくなり、眠れるようになって痛みもとれることがわかりました。この研究成果は、2013年10月の日本線維筋痛症学会第5回学術集会で発表されました。眠れない背後には不安があり、よく眠れるようになると痛みもとれてくる。抑肝散を併用して不安を取り除くことは、「痛い→不安→眠れない→痛い」という負の悪循環を断ち切ることに有効ではないか、と長田准教授は話しています。

がんばる女性は要注意。痛みは我慢しないで

子育て、仕事、家事、介護……。中高年の女性の日常は大忙し。痛みや不調があっても、我慢している人が多いのが現状です。つらくても弱音を吐かず、一生懸命がんばる。ストレスがあっても感じない女性こそ、要注意。なかなかとれない体の痛みは、過剰適応の警告かもしれません。

体幹部や肩関節に痛みを感じ、全身の筋肉や関節などに痛みが広がる。痛みの程度が強くなる。このような痛みが3か月以上続くときは、きちんと診察を受けましょう。線維筋痛症の痛みは消炎鎮痛薬を飲んでも効果はなく、飲み続けていると逆に胃潰瘍を起こすことがあります。つらい痛みがあったら一人で抱え込まず、早めに線維筋痛症の治療に詳しい医師に相談しましょう。

冬の過ごし方と心の負担を減らすポイント

また、痛みは寒いと強く感じるため、冬は体を冷やさないことがとても大事です。いまの時期は、お風呂に入って温まっても湯冷めしやすく、寝ているときも体は意外に冷えています。朝、起きたとき体は最も冷えた状態なので、就寝時は首にタオルを巻くなどして熱を逃がさないようにしましょう。汗をかかない程度に保温することで、睡眠の質が高まり、痛みの改善につながります。漢方薬では、八味地黄丸(はちみじおうがん)や桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)などに体を温める作用があります。

痛みの症状は、本人にしかわからない感覚です。線維筋痛症では、痛みのせいで動けなくなったり、物が持てなかったり、座ることや横になって寝ることもできなくなることがあります。このような様子は怠けていると見られがちですが、周囲にいる人は当人の訴えを受け止め、理解して心の負担を軽減してあげることが大事です。

監修
聖マリアンナ医科大学 神経精神科学教室 准教授
精神療法・ストレスケアセンター長 長田 賢一先生

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