vol.61 新しい禁煙補助薬の実力

健康・医療トピックス
今年5月8日、待望の飲む禁煙補助薬『チャンピックス』が日本でも発売されました。すでに世界60カ国で500万人以上が使用しているとあって、ここでも日本の対応の遅れが目立ちます。
たばこは多くの病気の原因となっているにもかかわらず、その喫煙率は、日本の男性では41.3%、女性では12.4%であるのに対し、ドイツの男性 29.8%、女性19.1%、イギリスの男性25.0%、女性23.0%、アメリカの男性19.1%、女性14.9%‥‥と日本の男性の喫煙率は先進国の中ではきわめて高いのです。欧米並みに喫煙率を下げ、健康被害をより少なくするためにも、禁煙成功への道は多ければ多いに越したことはありません。
ニコチン依存症の人が禁煙を始めると不愉快なニコチン離脱症状(イライラ、不安感、欲求不満、ニコチン渇望感、集中困難etc.)が出てきます。その症状を消失させるためにニコチンをたばこ以外の『ニコチンガム』『ニコチンパッチ』によって補給し、次第に量を減らしていって2カ月で依存症を治すというのがこれまでの『ニコチン置換療法』でした。
一方、チャンピックスはニコチンをまったく含まず、ニコチンに頼らない初めての飲む禁煙補助薬です。
たばこを吸ってニコチンが体内に入ると、神経細胞に存在するα4β2ニコチン受容体に結合します。すると、神経伝達物質の一種であるドーパミンが放出され、その働きによって“快感”が得られます。それが喫煙行動の強化に結び付き、依存症につながるのです。
チャンピックスの成分バレニクリンは、α4β2ニコチン受容体に結合してニコチンの結合を妨げます。それが、喫煙による満足感を抑制するのです。
そのため、日本での臨床試験では、きわめて良い結果が出ています。9~12週の禁煙成功率は65.4%、プラセボ群(偽薬)の39.5%を大きく上回りました。 実際の治療方法は、まず、初診時に必要な検査を行い、禁煙開始予定日を決めます。その1週間前からチャンピックスの服用を始めます。1~3日目は 0.5mg錠を1日1回食後に服用。4~7日目は0.5mg錠を1日2回、朝・夕食後に服用。ここは助走期間です。この助走期間中はたばこを吸っていてもかまいません。ただし、体験者によると、助走期間の3日もすると「たばこを吸っても美味しいという感じがなくなる」そうです。
そして、8日目から禁煙開始に入ります。ここからは1mg錠を1日2回、朝・夕食後に服用。これを11週間続けます。トータルするとチャンピックス服用期間は12週間になります。
チャンピックスはニコチンガム、ニコチンパッチと一緒に使うことはできませんが、ガムやパッチで失敗した人には、さらに禁煙成功へのチャンスができたことになるので、ぜひチャレンジしてみるとよいでしょう。
vol.61 新しい禁煙補助薬の実力

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執筆者プロフィール

松井 宏夫

松井 宏夫

医学ジャーナリスト
略歴
1951年生まれ。
医療最前線の社会的問題に取り組み、高い評価を受けている。
名医本のパイオニアであるとともに、分かりやすい医療解説でも定評がある。
テレビは出演すると共に、『最終警告!たけしの本当は怖い家庭の医学』(テレビ朝日)に協力、『ブロードキャスター』(TBS)医療企画担当・出演、『これが世界のスーパードクター』(TBS)監修など。
ラジオは『笑顔でおは天!!』のコーナー『松井宏夫の健康百科』(文化放送)に出演のほか、新聞、週刊誌など幅広く活躍し、NPO日本医学ジャーナリスト協会副理事長を務めている。
主な著書は『全国名医・病院徹底ガイド』『この病気にこの名医PART1・2・3』『ガンにならない人の法則』(主婦と生活社)、『高くても受けたい最新の検査ガイド-最先端の検査ができる病院・クリニック47』(楽書ブックス)など著書は35冊を超える。

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