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2016.12.09

vol.162 浴室やトイレに潜む危険。それが「ヒートショック」

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Vol.162 浴室やトイレに潜む危険。それが「ヒートショック」

浴室やトイレには危険が潜んでいます。特に、寝室や居間と温度差がある冬には、リスクはさらに高くなります。急激な温度差によって引き起こされるヒートショックには、命にかかわる事態を引き起こすことが考えられるからです。では、どんな点に注意をすればいいのでしょうか。今回は、ヒートショックのリスクを下げる方法を探っていきます。

ヒートショックがなぜ危険なのか

私たちの血圧は常に一定であるわけではなく、1日のうちでも変動があります。多くの人は朝の血圧は低めで昼にかけて上昇していき、夕方から夜には徐々に低くなっていきます。また、夏は低く、冬は高くなるという季節変動もあります。冬は気温が下がるので、体温を保持しようと交感神経が働いて血管が収縮するため、血圧は上がってしまうのです。
このように絶えず変動している血圧ですが、最も危険なのが急激な温度変化です。例えば暖かい部屋から寒い屋外に移動したとき、血圧は上昇します。また、冷たい水に触れるだけで、20mmHg以上も血圧が上昇することがあります。このように、急激な温度変化で血圧は乱高下しますが、その血圧変動によって起こる健康被害のことをヒートショックといいます。

室内と屋外の温度差を少なくすればヒートショックを防げるかというと、そんなことはありません。外出しない場合でも、冬場の入浴には危険が隠れています。
暖房の効いた部屋と浴室では、かなりの温度差があります。浴槽のお湯から出る湯気の影響をほとんど受けない脱衣所では、さらに温度差が広がるかもしれません。部屋からいきなり脱衣所へ行き服を脱いだら、急激な温度変化が体に襲いかかります。裸足になって、浴室の冷たい床に触れるのも危険です。そんな血圧の急上昇によって、脳出血や脳梗塞、心筋梗塞が引き起こされる場合があるのです。高血圧動脈硬化の心配がある人は、いっそう注意しなければなりません。また、高齢者の場合は、家族など周囲の人が気をつける必要があります。
実際、1年間で約1万7000人もの人々がヒートショックに関連した入浴中急死と推計されており、そのうち1万4000人くらいが高齢者だと考えられています※1。また、入浴中の事故死は冬季に多く、全体の約5割が12月から2月にかけて発生しています。そして、入浴中の事故死は気温に関係しているという報告もあるのです※2。

では、こんなケースでヒートショックに見舞われないためにはどうしたらいいのでしょうか。それはもちろん、居間・寝室と浴室・脱衣所の温度差をできるだけ少なくすることです。
脱衣所に小さな暖房器具を置くことが、手っ取り早い方法です。ただし、着替えやタオルなどが散乱しがちなスペースですから、火災に対して十分な注意が必要です。また、裸足が直接脱衣所の床に触れることのないように、厚手のバスマットやじゅうたんを敷くことも効果的です。
お湯を張った浴槽のふたを外すだけでも、湯気で浴室が暖められます。入浴前に、シャワーからお湯を出しておくのも一つの方法です。お湯は浴槽に向けるだけでなく、浴室の床に向きを変えておくと暖めることができ、さらに効果が高まります。浴槽のお湯を床にまいておくのもいいでしょう。もちろん、入浴前後に水分補給を行うことも忘れずに。
なお、飲酒後の入浴を避けることもリスク回避には重要です。また、喫煙も血圧を上昇させます。入浴直前の喫煙も避けたほうがいいでしょう。

※1 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター「冬場の住居内の温度管理と健康について(平成25年12月2日)」より

※2 厚生労働科学研究費補助金 入浴関連事故の実態把握および予防対策に関する研究 平成25年度 総括・分担研究報告書(研究代表者 堀進悟)より

夜間や早朝のトイレには危険が潜む

浴室と同様に危険なのがトイレです。一般的な家ではトイレに暖房がない場合が多く、冬の夜中や早朝にトイレに行く場合には、温度差が極端に開いてしまうからです。
男性の場合、立った状態で排尿すると腹圧がかかるため、血圧が急上昇してしまうこともリスクを高める原因だと指摘する専門家もいます。洋式トイレで座って排尿する場合は、立った状態に比べて腹圧があまりかからないといわれています。
また、トイレでいきむことも血圧を上昇させます。暖かい部屋から移動した直後に力を入れ過ぎないようにしましょう。

近年、男性も自宅では座って排尿することが増えているといわれていますが、理由は「尿の飛び散りを防ぐため」「掃除が楽になるから」。しかし、トイレを清潔に保つことに加えて、血圧の上昇というリスクも考えたほうがよさそうです。
ただ、男性の尿道は女性より長いため、そもそも座っての排尿に向いていないという専門家も少なくありません。座った状態では尿道が曲がってしまうため、排尿してもスッキリせず、夜中に再びトイレに行くため起きてしまうことがあるというのです。また、尿漏れや尿道炎につながることもあるといいます。「立つ」「座る」のどちらにしてもメリット、デメリットがあるわけですから、自分や家族にとって、どのリスクの方が大きいかを考えて選択するのがよさそうです。
ちなみに、アメリカを中心に「便秘イス」なるものが流行の兆しを見せています。これは直接腰を掛けるためのものではなく、洋式トイレの前に小さい椅子を置いて足を乗せ、膝を高い位置にするためのものです。直腸を真っすぐにする姿勢をとることができ、和式トイレに近い形に座ることで、便秘に効果があるといわれています。医学的な証明がされているわけではありませんが、排尿や排便の姿勢は侮れないという根拠の一つといえるのではないでしょうか。

トイレに暖房器具を入れるのは難しい場合が多いでしょう。しかし、ちょっとした工夫で少し温度を上げることは可能です。
洋式トイレの場合、暖房便座を導入するのが確実な方法です。先ほど「冷たい水に触れるだけで血圧が上昇する」と述べましたが、冷えた便座がお尻に触れるだけでも同じことが起きるからです。暖房便座が難しい場合には、便座カバーを利用するのもいいのではないでしょうか。直接肌に触れる冷たい便座よりは改善されるはずです。
また、洋式トイレでない場合、トイレの電気をつけっぱなしにしておくという方法もあります。省エネという観点から考えると批判を浴びそうですが、冬限定なら有効な手段です。100W程度の電球でも、トイレ内の温度をわずかながら上げることができるからです。トイレのスリッパを季節ごとに選ぶことも考えてみましょう。冬場はヒンヤリしたものでなく、パイル地のような触感のスリッパにするだけでも違うはずです。

冬場にトイレに行くときには、1枚上着を羽織るなど、温度差に十分に気をつけなければいけません。入浴する場合も、急激な変化を避けるために高温のお湯を避け、40度程度のお湯にして5分以内にとどめるのが無難です。あまり長くお湯につかりすぎると血圧が下がりすぎ、気を失って溺死してしまうケースもあるといいますので、注意が必要です。

外出時にも危険がいっぱい

浴室やトイレなど室内での温度差はもちろん、室内外の温度差もヒートショックの原因となります。
冬の朝に外出するときや、仕事場から帰宅するときにも、防寒対策を万全にしましょう。室内で暖房を使用していると、つい防寒対策がおろそかになりがちです。外出時には、肌をできるだけ覆って、冷たい外気に直接触れないようにしましょう。マフラーや手袋、厚手の防寒着に加えて、マスクやニット帽なども有効です。

熱中症の対策として、「太い血管が通っている部分を冷やすといい」と聞いたことのある人も多いでしょう。太い血管は、首筋(頸動脈)や脇の下、鼠蹊部(太ももの付け根)などに通っています。つまり、全身を巡る血液を冷やすことで、熱中症に対抗しようというわけです。これは、血液を冷やさないようにすることにも通じます。つまり、首筋が冷えてしまうと頸動脈を流れる血液も冷え、全身を巡ってしまうことになるからです。
脇の下や鼠蹊部を防寒していないことは考えにくいですが、首元を露出するケースは少なくありません。すると首からの冷気で血管が冷やされ、結果的に全身を冷やしてしまうことになりかねません。マフラーは、外出時のヒートショックを防ぐ手っ取り早い方法です。

ところで、「ヒートショックプロテイン」という言葉を聞いたことはありませんか?これは、熱によって細胞の中で増えるたんぱく質のこと。紛らわしいですが、体に悪影響を与える「ヒートショック」とは別物です。ヒートショックプロテインは熱によるストレス、つまり“ヒートショック”によって体内でつくられるから、このように名付けられました。
ヒートショックプロテインは傷んだ細胞を回復させたり、細胞自体を強くすることで、私たちの体を守ってくれます。傷んだ肌も回復させ、免疫力の向上にも寄与してくれます。
ヒートショックプロテインを増やす簡単な方法が入浴です。入浴で体温を上げ、しっかり保温することでヒートショックプロテインを増やすことができます。つまり、入浴は私たちの体のためには有益なものなのです。部屋と浴室の温度差に気をつけ、入浴後も急激に体温が下がらないようにすれば、入浴を恐れる必要はありません。

高血圧など疾患のある人は特に注意

高血圧や動脈硬化が進行している人は、ヒートショックにさらなる注意が必要です。高血圧の人は動脈硬化が進行しやすく、動脈硬化が進むと高血圧になりやすいのですが、どちらにしても温度差による血圧の上昇で、心筋梗塞や脳卒中を引き起こしやすくなってしまうからです。
糖尿病や脂質異常症などの生活習慣病にかかっている人も、リスクは同じです。温度差には常に注意しながら生活を送ることをお勧めします。

こうしたリスクを最小限にするためには、自宅で血圧を測って自分の体の状態を知っておくことです。1日1回、可能ならば1日2回(朝晩)、自宅で血圧を測って記録することをお勧めします。
朝は起床後1時間以内に排尿を済ませてから、晩は就寝前に測るのが理想的です。どちらも座って1~2分、安静にしてから測りましょう。冬場は入浴後など、体が冷えないようにしながら測ることが必須です。年に1回健康診断で測っていても、高血圧は見逃されがちです。自宅で長期間にわたって記録した血圧の数値は、医療機関に行くときに持参するなどいろいろと活用できます。
いずれにせよ、高血圧や動脈硬化が進行している人は、ヒートショックの対策は欠かさず行うべきです。

ヒートショックとは話は異なりますが、妊娠・出産の際、季節と血圧について注意が必要なことがあります。通常、血圧は夏より冬の方が高い傾向にあることは冒頭に述べたとおりですが、妊娠していて夏の時期にすでに血圧が高い場合、冬に出産を迎える場合にはさらに血圧が上昇してしまうことがあるため、気をつけなければならないのです。妊娠期間中の収縮期血圧が妊娠120~150日の時期で100mmHg以下であったのが、280日前後で112mmHg以上になるなど、12mmHg以上も上昇してしまう例があるからです。すると、けいれんなどの子癇発作だけでなく、脳出血や早産、流産といったリスクが高まってしまうというのです※3。妊娠高血圧症候群では子宮や胎盤への血流が減少することで、胎盤形成不全や胎盤機能不全が起きてしまうこともあるといいますから、産婦人科など専門医を受診した際にはぜひ、相談してみてください。

※3 Metoki H, Ohkubo T, et al. J Hypertens. 2008


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