vol.85 カルシウム+ビタミンDで糖尿病の予防・改善を

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糖尿病予防のために

糖尿病の患者さんの中には、カルシウムが糖尿病(2型)の改善に大切なことを知っている方もおられることでしょう。でも、血糖値が少し高めといわれている予備軍の方など、一般の方にはまだあまり知られていません。
そこでまず、カルシウムと糖尿病との関係について、簡単にご紹介しましょう。糖尿病は、すい臓から分泌されるインスリンの働きが低下することから起こります。そのインスリンの分泌をうながすシグナルを送る役割をするのが、カルシウムなのです。
カルシウムが不足すると、インスリンが正常に分泌されなくなり、血液中のブドウ糖がうまくエネルギーに変換されません。すると、血液中にブドウ糖があふれて血糖値が高くなり、その状態が慢性化すると糖尿病を発症します。このことから、糖尿病の対策の一つとして、カルシウムを多くとることが大切とされています。
ところが、最近の厚生労働省研究班による調査から、意外なことがわかってきました。カルシウムだけでは効果は少なく、一緒にビタミンDを多くとることで効果が高まることが判明したのです。アメリカでは女性看護師を対象とした調査から、同様の効果が指摘されていましたが、男性もふくめて日本人では初めて実証されました。
日本ではこの10年間で糖尿病とその予備軍の方が1.6倍にも急増し、2200万人を超えています(※1)。もし、あなたの血糖値が高めだったり、家族に糖尿病の方がいる場合には、カルシウム+ビタミンDによる予防や改善について知っておきましょう(すでに糖尿病の治療を受けている方は、医師と相談してください)。

(※1)厚生労働省による「国民健康・栄養調査」では、1997年(糖尿病+予備軍=1370万人)から2007年(同2210万人)へと急速に増えています。

vol.85 カルシウム+ビタミンDで糖尿病の予防・改善を

糖尿病のリスクを下げる

厚生労働省研究班の調査(※2)では、まず乳製品およびカルシウムの摂取量によって4つのグループにわけ、糖尿病発症のリスク比較がおこなわれています。
その結果、女性の場合には乳製品の摂取量が「もっとも多いグループ」は、「もっとも少ないグループ」と比較すると、発症リスクが約30%低いことが報告されています。また、カルシウムの摂取量については、統計学上はっきりした違いはみられないとしています。
一方、男性の場合には、乳製品およびカルシウムの摂取量と糖尿病の発症について、関連性が認められませんでした。
次に、ビタミンDについては、単独で摂取した場合には男女ともはっきりした効果はみられないことがわかりました。
しかし、ビタミンDの摂取量が「多いグループ」と「少ないグループ」にわけ、さらに、カルシウム摂取量と合わせて糖尿病との関連を調査したところ、興味深い結果がみられました(※3)。ビタミンDとカルシウムともに摂取量が多いグループは、糖尿病発症リスクがはっきりと低かったのです。男性では約38%、女性では約41%ものリスク低下がみられました。
これらのことから、カルシウムとビタミンDを一緒に多く摂取することで、男女ともに糖尿病の発症リスクが低くなることが判明しました。
ただしこの調査では、カルシウムやビタミンDをサプリメントで摂取した場合については検証されていません。両方の栄養素とも、食事から摂取した場合のデータです。

(※2)厚生労働省研究班による「多目的コホート研究」による。日本各地の40~59歳の男女約6万人を対象にした5年間にわたる追跡調査で、2010年 2月に報告されました。

(※3)摂取量の多いグループとは、カルシウムの場合は中央値(グループの真ん中付近の数値)が男性で1日629mg、女性で810mgと報告されています。ビタミンDについては、平均より多いグループとされています。

リスクを下げる栄養素の組み合わせ

カルシウムとビタミンDを一緒に多くとることが、なぜ糖尿病のリスクを下げるのでしょうか。その相乗作用のメカニズムについては、まだはっきりとはわかっていません。ただ、個別には次のようなことがわかってきています。

<カルシウムと糖尿病>

さきほど少し紹介したように、カルシウムはすい臓の細胞に働きかけて、インスリンの分泌をうながすシグナルを送る役割をしています。
カルシウムは、細胞のなかにある量を1とすると、細胞の外(血液中など)にある量は1万倍にもなります。とても大きな差ですが、このバランスを保つことで、細胞はカルシウムによるシグナルを正確に感知することができるといわれます。
ところが、カルシウムが不足すると、細胞の内と外のバランスがくずれてしまいます。その結果、カルシウムによるシグナルが正確に伝達されず、すい臓からのインスリン分泌にも悪影響を与えることになります。

<ビタミンDと糖尿病>

ビタミンDは体内に入ると、肝臓と腎臓で活性化され、活性型ビタミンDになります。活性型ビタミンDは、すい臓のβ細胞に直接作用して、インスリンの分泌を促進する働きをしています。また、ビタミンDはよく知られているように、カルシウムの吸収を高める役割もしています。
ビタミンDが不足すると、こうした働きが低下するため、インスリンがうまく機能しなくなると推測されています。
このようにカルシウムもビタミンDも、インスリンの分泌への影響をもつ栄養素であることがわかっています。厚生労働省研究班の調査では、どちらも単独では目だった効果は確認されませんでした。しかし、カルシウムとビタミンDの両方を多くとることで相乗作用が生まれ、2つがうまく助け合うことが糖尿病のリスクを低下させる、と考えられています。

カルシウムとビタミンDを積極的に

成人が1日に必要とされるカルシウム所要量は、男性で650~800mg、女性で650mgとされています(2010年版「日本人の食事摂取基準」)。ところが私たちが実際にとっている量は、多くの世代で基準値を下回り、平均では男性で約550mg、女性で約525mg程度にとどまっています。食料事情のよい日本で、不足している数少ない栄養素の代表がカルシウムなのです。
カルシウムは食事からとる程度なら、多めにとっても体外に排出されるので悪影響を及ぼすことはありません(※4)。しかもカルシウムは、吸収があまりよくありません。もっとも吸収率がよい牛乳で約40%。小魚類では約30%、野菜類で20%前後です。
牛乳の吸収率が高いのは、牛乳には乳糖やCPP(カゼインホスホペプチド)といった吸収を助ける成分がふくまれているからです。カルシウムは沈殿しやすいので、牛乳パックなどから小分けにして飲むときは、一度パックを軽く振ってからコップに入れるようにします(パックを強く振るとこぼれやすいので注意してください)。
牛乳が苦手な方は、チーズなどの乳製品を多くとる方法もあります。牛乳にふくまれるカルシウムはコップ1杯で200mg程度。チーズは種類や製品によって差がありますが、100gで400~1000mg程度ふくまれています。
また、豆腐などの大豆製品も、カルシウムが多く、吸収率も高めの食品です。たとえば、木綿豆腐半分で、牛乳コップ1杯分くらいのカルシウムがふくまれています。
魚類も、カルシウムを摂取しやすい食べ物です。魚類には一般にカルシウムだけでなく、ビタミンDも多くふくまれています。その意味では、糖尿病の予防に適しているといえます。
ビタミンDの食事摂取基準量(目安)は、成人で男女とも1日5.5μg(マイクログラム)です。たとえば、ベニサケ(生)1切れで20μg以上、サンマ(生)1匹で15~20μgなので、魚類を定期的に食べることでビタミンDを多くとることができます。また、キノコ類にも多くふくまれています。
1日の耐容上限量は50μgなので、サプリメントなどで大量に摂取しなければ、からだへの悪影響もありません(※5)。
ビタミンDのもう一つの特徴は、太陽(紫外線)を浴びるとヒフでつくられることです(※6)。日ごろからウォーキングや散歩などを心がけ、会社勤めの方は昼休みに散歩するなどの方法で、太陽を浴びることが大切です。ただし、紫外線はシミなどの原因にもなるので、帽子や日傘を忘れずに。

(※4)サプリメントなどでカルシウムを大量にとり続けると、腎臓や尿管内などで結石を起こす原因になることがあります。過去に結石を起こしたことがある方は、医師に相談してください。

(※5)ビタミンDを短期間にサプリメントなどで大量に摂取すると、カルシウムの吸収が促進され、組織の石灰化を促進したり、食欲不振、吐き気などの副作用がみられることがあります。

(※6)ヒフに存在するプロビタミンDが、紫外線と体温によって変化し、ビタミンDになります。

このコラムは、掲載日現在の内容となります。掲載時のものから情報が異なることがありますので、あらかじめご了承ください。

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