vol.149 神経障害性疼痛とは - ストレスとの関係と治療方法について

健康・医療トピックス

皮膚や足がピリピリ、ビリビリと感じる

腰痛、肩こり、頭痛など、私たちは日頃から感じている痛みはさまざまです。日本人の約20~30%がなんらかの痛みを感じているといわれています。その中で重症の慢性痛とされているのが「神経障害性疼痛」。組織の損傷や病気による皮膚の症状が治っても神経が痛みを起こす病気で、代表的な疾患が「帯状疱疹後神経痛」です。帯状疱疹は、子どもの頃にかかった水ぼうそうのウイルスが体内に潜んで、ストレスや加齢などで免疫機能や体力が低下したときに再び活性化して発症するもの。皮膚にできた水疱は時間の経過とともによくなりますが、皮疹が治った後も痛みが残って長く続くことがあります。

慢性の痛みや治療に詳しい日本大学総合科学研究所の小川節郎教授は「帯状疱疹がよくなっても皮膚がピリピリするときは、99%帯状疱疹後神経痛の可能性があります。また、最近では糖尿病を長く患って痛みやしびれが出る糖尿病性神経障害や、脊柱管狭窄症が治った後に足にビリビリと響くような痛みを訴える人が増えています。これらも神経障害性疼痛です」と話します。

vol.149 神経障害性疼痛とは - ストレスとの関係と治療方法について

神経障害性疼痛の原因 - ストレスの関係

神経障害性疼痛とは、神経が傷ついて過敏になり、痛みの信号が出過ぎている状態です。「触っただけで痛い」「素足で砂利道を歩いているようだ」など、通常とは異なる感覚が現れます。難治性でその原因や病態はわかっていませんが、中枢神経の損傷や機能異常によって引き起こされるのではないかと考えられています。

ストレスによる脳機能の低下 - 中枢機能障害性疼痛

私たちの脳には、痛みが起きたときに、モルヒネに似た物質を出して痛みを抑える機能が備わっています。ところが、不安や怒り、暴力などの強い精神的ストレスを慢性的に受けると、痛みを抑える脳の機能が低下して、痛みを強く感じるようになってしまうのです。こうした心理的な影響が大きく関与する痛みを「中枢機能障害性疼痛(心理社会的疼痛)」といい、神経障害性疼痛や線維筋痛症も、その範ちゅうにあるとされています。

痛みがあるときは、あまり動きたくないものですが、痛い、嫌だといって逃げ続けるのは考えもの。痛みを抑える脳の働きがますます悪くなって、さらに強い痛みを感じるようになる「痛みの悪循環」に陥りがちです。そのため、否定的な考え方をどこかで打ち切ることが重要だと小川教授は指摘します。「いつも痛いと言って暗い顔をしていた患者さんが、あるとき外来で、『私、考え方を変えたのです。痛いけどハワイに行ってきました』とお話しになって、それから痛みがよくなっていきました。自分の回避的な思考に気づいて、変えることはなかなかできないことですが、痛みを納得して目標をつくることでよくなっていくことがあります」。

神経障害性疼痛の治療方法 - 三環系抗うつ薬、プレガバリン

神経障害性疼痛の治療では、三環系抗うつ薬やプレガバリン(商品名リリカ)が広く使われています。ただし、眠気、ふらつき、頭がぼーっとするといった副作用があり、痛み以上の深刻な問題と指摘されています。痛い、痛いと訴えると薬の量や種類が増えて、副作用によって生活の質が低下しやすくなるため、薬だけに頼らないことが大切です。

運動による脳機能の回復

小川教授は「脳の機能をMRIで診てみると、回避的な思考から体を動かすようになると脳の機能はよい方に変わります。これまで気分の問題といわれていましたが、運動が脳の機能回復によいと科学的にわかってきたので、患者さんには好きなことで体を動かしてとお話ししています。慢性の痛みに対しては、しようと思ってする運動がよいです」とアドバイスします。

神経障害性疼痛の予防方法 - 痛みを我慢しない

急性の痛みは体の異常事態を知らせるSOSです。多くは局所的で一過性のものですが、痛みをずっと我慢していると脳にその刺激が伝わって過敏になり、慢性化しやすくなります。神経障害性疼痛は、肺がんの手術で肋間神経を切ったときや乳がんで乳房を切除したときなど、術後に起こることも少なくありません。事故や外科治療で腕や脚を切断し、存在しないのにもかかわらず、痛みを感じる幻肢痛も神経障害性疼痛のひとつです。

痛みを感じる神経回路を防ぐ

慢性疼痛患者を対象にした調査によると「痛みがあっても我慢するべき」と回答した人の割合は、74.3%。つまり、4人に3人が「我慢するべき」と考えて、実際にそうしているのです。しかし、そのままにしていると、脳がその痛みを記憶してしまい、痛みを感じる神経回路ができてしまうことに。そうした事態を避けるためには、術後に痛みが残る場合も我慢しないことが肝心です。早めに医療機関を受診して適切な治療を受けましょう。

監修 日本大学総合科学研究所 教授 小川節郎先生

(参考)
『慢性疼痛患者の4人に3人「痛みは我慢するもの」慢性疼痛実態調査』株式会社ミクス
https://www.mixonline.jp/tabid55.html?artid=42838
『慢性疼痛について①』かわたペインクリニック心療内科
http://www.kawata-cl.jp/mentalcare/html/information.cgi?id=1394041835

更新日:2023.12.07

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