脳・心血管疾患の発症ゼロへ

血圧を語るゼロイベント
特別インタビュー

一般社団法人テレメディーズ代表理事/東京女子医科大学 高血圧・内分泌分野 講師 高血圧専門医谷田部 淳一 先生

「これからの高血圧診療~オンライン診療のメリット~」

いまや「国民病」ともいわれ、健康寿命を損ねる最大の原因となっている高血圧。電子血圧計などの普及により、診断も比較的容易となり、よい治療薬もたくさんあるにもかかわらず、多くの人はきちんと血圧をコントロールできていないという現実があります。こうした「高血圧パラドックス」を生む背景には、自覚症状に乏しく、治療を継続することが難しいという、高血圧特有の問題があります。治療へのモチベーションを高め、より多くの人に適切な血圧のコントロールを実現していただくためには、どんな工夫が必要なのか ―。
本インタビューでは、一般社団法人テレメディーズ代表理事であり、東京女子医科大学の講師も勤める谷田部淳一先生に、受診や治療継続のハードルとなっているもの、さらに高血圧診療の新たな選択肢として期待されている治療継続のための取り組みについてお聞きしました。

高血圧診療では、受診率が悪いことが問題といわれていますが、実際、どのくらい少ないのですか?
また、その理由についても教えてください。

一般社団法人テレメディーズ代表理事/東京女子医科大学 高血圧・内分泌分野 講師 高血圧専門医 谷田部 淳一

現在、わが国には約4,300万人の高血圧患者がいると推定されていますが、そのうち血圧がきちんとコントロールされているのは、1,200万人しかいないといわれています※1。残りの3,100万人は、自分が高血圧であるかも知らない(1,400万人)、知っているが治療していない(450万人)、治療していても目標値に達していない(1,250万人)人たちです※2
治療していない人がこれほど多い理由は、「自覚症状がないから大丈夫」「痛くもかゆくもないし」と治療を後回しにしている人が多いからです。たしかに軽症のうちは、自覚症状がほとんどないため、治療の効果や必要性を実感しにくいかもしれません。しかし、放置したままでいると、じわじわと進行して、やがて心筋梗塞や脳卒中、腎不全といった重篤な合併症を引き起こします。無症状のまま、大切な臓器を蝕んでいく高血圧は、別名「サイレントキラー(静かなる殺人者)」とも呼ばれ、私たちの健康長寿をおびやかす大きなリスクになっています。
心筋梗塞や脳卒中を発症してしまってから後悔しても、もう取り返しがつきません。高血圧治療の目的は、こうした脳・心血管疾患を予防することであり、20年後、30年後も元気でいるために、いま治療が必要なのだということを、まずはしっかりご理解いただきたいと思います。
実際、働き盛りのビジネスマンや健康診断を受ける機会が少ない主婦のなかには、高血圧に気づいていない人、気づいても放置している人が多く、こうした人への啓発活動、受診しやすい環境づくりも急務だと思っています。
※1、※2 日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会編:「高血圧治療ガイドライン2019(JSH2019)」

なかなか受診しない理由としては、ほかにどのようなことが考えられますか?

受診したくない他の理由として、「高血圧は一生治療が必要」という思い込みもあります。「高血圧は治らない」「だから、治療しても仕方ない」と思っている人が多い一方で、「治る高血圧もある」ということは、あまり知られていません。
高血圧には、原因不明の「本態性(一次性)高血圧」と、腎疾患や内分泌系の異常によって起こる「二次性高血圧」(腎血管性高血圧、原発性アルドステロン症、クッシング症候群、褐色細胞腫など)があり、後者は原因となる病気を見つけて治療すれば、血圧も下がります。たとえば、二次性高血圧のなかで多い「原発性アルドステロン症」という病気は、手術で根治できる場合もありますし、手術ができない場合でも診断が明らかとなれば、降圧薬を含む適切な治療を生涯続けることにご納得いただけます。高血圧というとどうしても「生活習慣が悪いから」と後ろ指を差されがちですが、ホルモンが過剰だという体質のせいであると説明できるようになります。
こうした二次性高血圧の人は、高血圧全体の1割以上いるといわれていますので、血圧が高いと指摘されたらとにかく一度受診して、自分がどちらのタイプの高血圧か、きちんと診断してもらうようにしましょう。また、治療していてもなかなか血圧が下がらない人も、二次性高血圧の可能性がありますので、主治医の先生とよく相談してみてください。

医師と患者のイメージ

せっかく治療を始めたのに、通院をやめてしまう人が多いのには、どのような理由が考えられますか?

一方、高血圧の9割を占める本態性高血圧の治療では、減塩、減量、運動といった生活習慣の改善が基本となります。しかし、降圧への影響はいずれも数mmHg程度で、劇的なダイエットでもしない限り、血圧に大きな変化がみられないのも事実です。そこで、降圧薬の力に頼ることになりますが、「薬はできるだけ飲みたくない」と服薬に抵抗を示す患者さんも少なくありません。「薬はからだに悪い」「副作用がこわい」という声もよく聞かれますが、本当にこわいのは、薬を飲まずに脳・心血管疾患を起こすことです。現在は、服用回数も少ない長時間作用型で、副作用が少ない降圧薬も登場していますし、血圧コントロールがうまくいけば、薬の量を減らせる場合もありますので、自己判断で飲むのをやめたり、飲む回数を減らしたりする前に、主治医の先生とよく相談していただければと思います。
また、本態性高血圧は、原因疾患のある二次性高血圧に比べ、治療へのモチベーションが低く、せっかく治療を始めても、通院をやめてしまう人が多いという問題があります。「自覚症状がないので治療効果を実感できない」「血圧が下がったので治ったと思った」という人には、治療の目的や薬の重要性について繰り返し説明するようにしています。一方で、「服薬して血圧を下げるには、医療機関に行くしかない」という現状の診療体制がハードルになっているケースも多く、より手軽に治療を続けていただける方法を私なりに模索してきました。

治療を続けていただくために、先生が行われている新しい取り組みについて教えてください。

そこで、高血圧患者さんに治療を継続していただく試みの一つとして、現在、私たちが取り組んでいるのがインターネットを活用したオンライン診療です。オンライン診療とは、血圧コントロールが安定している再診の患者さんに限り、患者さんが家庭で計測した血圧を専門医がモニタリングしながら、スマホなどを通じてコミュニケーションをとることで、診察の代わりとするものです。処方箋や薬を自宅まで郵送してもらうこともできるため、通院時間や病院・薬局での待ち時間を気にする必要もなく、これまで忙しくて定期的な通院が難しかった患者さんの治療開始・継続につながるのではないかと期待しています。

オンライン診療「テレメディーズ®BP」の概要

オンライン診療「テレメディーズ®BP」の概要

オンライン診療では、顔が見えない分、家庭で測定した血圧の記録が重要な参考資料となります。現在では、通信機能付きでデータを転送できる家庭用血圧計もありますので、こうした便利な機器を活用しながら、血圧値を上手に管理したり、共有していくのもよいでしょう。
実際、こうした自由な診療スタイルは、忙しいビジネスマンに適したイメージがありますが、さまざまなシーンで役割の多い女性にも需要が高いことがわかりました。近年、高齢出産が増え、血圧が上昇してくる更年期に差しかかっても子育てに追われている女性や、子育てがひと段落して本格的に職場復帰されることで、ますます大変になる女性も多く、こうした現代社会のあらゆる生活者ニーズにも合致しているのではないかと思っています。
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最後に、高血圧治療を続けていくうえで、患者さんへのアドバイスがあればお願いします。

高血圧は「治す」ものではなく、「うまく付き合っていく」もの。そう考えれば、もっと気楽に治療と向き合えるのではないでしょうか。私はよく患者さんに、「毎朝血圧を測るのは、挨拶するのと同じ。血圧をきちんとコントロールするのは、顔を洗ったり歯を磨いたりするのと同じ」とお話ししています。特別なことでなく、血圧も身だしなみの一つとして、当たり前のように気にしていただければと思います。
生活習慣の改善も、できそうなことから始めていただければ結構です。外食が多く減塩が難しければ、体重を減らすという別の手もあります。運動はストレスの解消にもつながります。大切なのはできる範囲で少しずつ実践していくことです。
患者さんからよく、「いつまで治療を続ければよいですか」と聞かれることがあります。この質問を裏返せば、「いまの治療が負担」という意味だと思います。治療を継続していただくためにも、先が見えない不安のなかにいる患者さんに寄り添い、どうすれば治療が続けられるのか、その人に合った選択肢をご提案していくことも、私たちの大切な役目だと思っています。

高血圧イーメディカル

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