「外来で測った血圧が至適域であっても、脳心血管疾患リスクは2倍以上。仮面高血圧はただちに治療すべき重大な疾患」

正常血圧という仮面をかぶった仮面高血圧の怖さ
「仮面高血圧」とは、健康診断や病院の外来で測定しても数値に異常はなく、自宅で測ることで初めて血圧が高いことが分かるもので、隠れた高血圧という意味から仮面高血圧と呼ばれています。さらにこれは血圧が上昇している時間帯により「早朝高血圧」、「昼間高血圧」、「夜間高血圧」に分けられます。外来で測定しても血圧が高いことを把握できないため見つけにくいものですが、仮面高血圧は脳心血管疾患リスクが2倍以上となるため、ただちに治療する必要がある状態※です。
※Asayama K et al. PLoS Med 2014
仮面高血圧に含まれる病態とその因子

就寝中の血圧が相対的に高いと脳卒中死亡率が高い

夜間血圧は正常であれば昼間より10~20%低くなりますが、昼間の血圧より夜間の血圧が高い場合、脳心血管疾患リスクが高まります。さらに夜間高血圧の基準値である120/70mmHgを超えると「夜間高血圧」と診断されます。夜間の血圧レベルが昼間より10~20%低い状態を1とした時、血圧が下がらず変わらない人は2.56倍、上昇する人は3.69倍、脳卒中死亡率が高いという研究結果があります※。
こうした研究結果からも、夜間血圧が上がることを放置することは非常に危険です。また冬の早朝、起きてこないので家族が様子を見に行くと、倒れて脳卒中を起こしていたという話はよくあります。夜間高血圧や早朝高血圧は、脳卒中を起こしやすい時間帯と重なっているため、特に管理に気をつける必要があるでしょう。
※Ohkubo T et al. Am J Hypertens. 1997;10:1201
夜間高血圧の従来の測定方法

就寝中の血圧の上昇を知るための手段としてはこれまで、昼間、夜間、24時間平均の値が得られる「自由行動下血圧測定」によって測定されてきました。これは右図のように、血圧測定装置を24時間身体につけておくことで、定期的(15分~1時間おき)に自動的に血圧が測定され、24時間の変動を知ることができるものです。それにより、早朝昇圧の程度や外来での測定値が高い現象の診断、そして夜間就寝中の血圧を知ることができます。しかしこの測定装置は医療機関が患者に貸し出して使用できるもので、一般の人が気軽に測定できませんし、頻繁に測定すること自体が睡眠の質を下げてしまい※、血圧上昇をもたらすことから、測定値が必ずしも真の夜間血圧を反映する訳ではないとも言われています。
※Asayama K, et al. J Hypertens. 2019: 905.
家庭血圧計による夜間血圧測定
血圧測定には、標準的で確立された測定法である「診察室血圧」、日々の測定条件をそろえやすく、偏りが入りにくい「家庭血圧」、24時間の血圧変動を知ることができる「自由行動下血圧」の3つがあります。自由行動下血圧は、世界的に昼間(135/85mmHg)、夜間(120/70mmHg)、24時間平均(130/80mmHg)の基準値が設定されており、外来血圧よりも低く、家庭血圧に近い値となります。
従来、夜間血圧の測定には自由行動下血圧計がよく用いられています。また家庭血圧計でも上腕式で測定できるものがありますが、いずれも測定時の動作音によって本人やパートナーの睡眠の質を下げてしまったり、就寝中に血圧測定が頻繁に行われることで、患者自身の測定意欲が低下してしまう※1点が課題でした。
こうして睡眠の質に影響が出てしまうと「本当の夜間血圧」とは異なる値を示す可能性があることから、家庭血圧計で睡眠の質を保ちつつ夜間血圧を測定する方法について検討が進められてきました。一方で、測定頻度が高くても夜間覚醒が著しく低く、目覚めたときに「よく眠れた」と答えた人がとても多かったというデータ※2から、良好な睡眠の質を担保しつつ夜間血圧を測定できる手首式血圧計の有用性に注目が集まっています。
※1 Asayama K, et al. J Hypertens. 2019: 905.
※2 Imai Y , et al. Blood Press Monit 2018: 318.
手首式血圧計に期待したいこと
手首式血圧計は上腕式よりも動脈の完全圧迫が難しいのですが、多くのメリットがあることから期待が高まっています。ただし、現時点のガイドラインでは、「座位安静時は比較的正確だが、血圧測定は上腕測定を基本とする」と定められており、一般の生活者が手軽に手首式血圧計を使用して夜間血圧を測定するには、しっかりとしたエビデンスの蓄積が必要でしょう。今回オムロンヘルスケアが臨床研究向けに発売する夜間血圧が測定できる手首式血圧計が、今後の高血圧治療に活用されていくことを期待したいものです。