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血圧を語るゼロイベント
高血圧ドクターインタビュー

第三回 青森編一般財団法人 黎明郷 弘前脳卒中・リハビリテーションセンター 理事長 保嶋実先生

「短命県」の汚名返上に向けて秘策はあるか

心を開くまで時間がかかる人見知りの県民性

一般的に「東北地方の人は真面目でおとなしい性格」といわれています。実直で少し強情なところがあるのも東北人に共通する県民性でしょう。その東北の中で、青森(特に津軽地域)は割と陽気でおしゃべりの人が多いですね。「津軽のおしゃべり」っていわれるくらいですから。人見知りのために打ち解けるまで時間がかかりますが、一度打ち解けてしまえばとことん親しくする、面倒を見る、という気質があるのも青森県民の特徴です。
青森はかつて、東は「南部」、西は「津軽」という、二つの藩から成り立っていました。そのため、それぞれに異なる歴史、文化、風土を持っています。県民性にも多少違いがありますが、「津軽」は社交的、「南部」は引っ込み思案の人が多い、といわれています。共通しているのは、「人見知り」の性格でしょう。

保嶋実先生の写真 1

塩辛い味を好む青森県民

青森県民は味の濃い食事が好きですね。塩辛いものを好んで食べることを「しょっぱ口(しょっぱぐち)」といいます。他県から来た人は青森の味の濃さにびっくりするのではないでしょうか。入院患者さんにアンケート調査をとり、病院に対する要望を聞くと、「病院食に塩気が足りない」と不満を持つ患者さんが多いのです。

患者さんには食塩摂取が血圧に与える影響を説明し、減塩も含めた栄養指導を行っているのですが、日頃から慣れ親しんだ味の好みはなかなか変えられないのでしょう。
青森県の世帯あたりの食塩購入量(消費量)は4,359gで全国1位です。全国平均は2,065gですので、青森県では実に全国平均の2倍以上の塩を消費していることになります。全国的にも寒く雪深い土地では、塩分高めの食生活になる傾向にありますが、青森ではそれが顕著なようです。

ランキングにみる独特な食生活と不健康要素

都道府県別ランキングをみると、青森県の独特な生活習慣がみえてきます。まず、食の面でいうと、「インスタントラーメン消費量」第1位、「ソーセージ消費量」第1位、「炭酸飲料消費量」第1位です。青森県民にとっては不名誉なことではありますが、青森県の不健康な食生活はよくメディアでも取り上げられています。「大量にインスタントラーメンを常備している」という家庭も多いですし、食事のときに他のものと一緒に食べるという人も多く、青森県民の食生活に欠かせないものとなってしまっています。医療従事者でさえ、病院の食堂や医局で「弁当とカップ麺」を食べているのですから。お味噌汁のような位置づけでカップ麺を食べているのかもしれないですね。また、日常的に炭酸飲料や缶コーヒーを飲む人も多いのも特徴です。水分補給や食事のとき、一般的にはお水やお茶を飲むことが多いと思いますが、青森県民はそういった味気のない飲み物はあまり好みません。青森県は一次産業が盛んなこともあり、私の病院には農家の方も多くいらっしゃるのですが、「農作業の合間には炭酸飲料か缶コーヒーを飲む」という患者さんはかなり多いのです。
食以外の面でみても、「スポーツ活動率」や「25歳以上トレーニング人口」でワーストですし、「肥満傾向児の出現率」1位は青森県です。そして、「喫煙率」をみても全国2位(23.8%)という高さです。食事面に加え、運動面や喫煙など、県民の健康を害する要因はたくさんあり、健康課題は山積みです。

保嶋実先生の写真 2

雪と暮らす生活、雪に阻まれる健康

青森県は「年間降雪量」全国1位です。1年のうち、3分の1は雪と共存しなければいけないのですから、本当につらいですよ。青森県では8月に「青森ねぶた祭」や「弘前ねぷたまつり」などの夏祭りが開催されますが、その祭りが終わると、「ああ、もうすぐ雪の季節が来るなあ」と物寂しく暗い気持ちになるものです。

「雪」は県民の健康に影響を与える一番の要素といっても過言ではありません。どんなに高齢でも、体調が悪くても、冬の間は毎朝雪と格闘しなくてはいけないのですから。雪国に住む人々の宿命ですね。
こちらの地方では「雪かき」とはいいません。「雪をかく」くらいでは収まらないのです。「雪片付け」といいます。雪は隅に寄せるだけではなく、砕いて運んで捨てるまでの一連の作業が必要なのですから、かなりの大仕事です。早朝の、しかも極寒の中で行うため、脳卒中や心筋梗塞のリスクも高まります。実際、冬の間、これらの疾患の患者数は青森県内で増える傾向にあります。
また、雪があるために、どうしても移動は車に頼ることになります。雪のない季節に散歩などの運動をしていた人も、冬の間は全くできなくなります。雪が積もって歩道がなくなってしまうのです。子供達も通学は親の車で送迎です。県民は冬の間の車生活に慣れてしまい、雪のない季節が来ても便利な車生活をそのまま続けてしまうのです。
雪国では「健康のために歩きなさい」、「運動しなさい」と言われても現実的に冬の間は不可能です。青森県ではスポーツ施設やコミュニティ施設なども少なく、室内での運動場所も限られています。「歩かない」のではなく、「歩けない」のです。青森県民の運動面の改善のためには、まず歩道を確保し、生活路に雪がない状態にするという、ハード面から始めないと変わらないのかもしれません。

短命県といわれる理由

青森は「短命県」だといわれています。この数十年来、平均寿命は男女ともにワーストが続いています。死亡率ランキング(全死因)をみると、男女ともにトップです。疾患別にみても、がんの死亡率は男女ともに1位、それ以外の主要疾患(脳血管疾患、腎不全、糖尿病、肺炎、等々)でも死亡率がかなり高い状況です。
この死亡率の高さは、先に述べたように、食生活の問題や喫煙率の高さ、運動量の少なさなども大きく関係していますが、「病院嫌い」という県民性も深く関係しているのではないかと感じています。青森県の人は、何か症状が出ない限り病院には行かないのです。「病院にかかるのは特別なこと」と考える人が多く、受診のハードルが高いようなのです。検診もなかなか受けてくれません。青森県には自営業の方も多いので、病院に行くことで仕事に支障も出ますし、経済的にも影響するため、ついつい受診は後回しになってしまうのかもしれません。

青森県民は病院嫌いを克服しなければ

私の病院では患者さんの多くが脳卒中で入院しているのですが、背景を調べてみると、その脳卒中になった患者さんの85%が元々「高血圧」で、しかもそのうちの約3割の人は、高血圧だと分かっていながら治療せずに放置していました。高血圧は自覚症状がありませんので、なおさらかもしれませんが、治療せずに済ませていた人の多さに驚きます。
ただ、患者さんは治療が開始されれば、本当に真剣に取り組んでくれます。家庭での血圧測定も言われた通りにしっかり毎日測ってくれるのです。人見知りの県民性なので、医師との間に信頼関係ができるまでに少し時間はかかりますが、一度打ち解ければ治療にも前向きになってくれます。根は真面目な人が多いので、症状が出る前に病院に来てくれさえすれば、命に関わる大きな病気になる人も減るのではないでしょうか。
まずは県民の「病院嫌い」を取っ払わないといけませんね。きちんと検診を受け、「病気と診断されたら治療する」という基本的な意識をみなさんに持ってもらいたいものです。

保嶋実先生の写真 3

「短命県」返上に向けての秘策とは

「短命県」といわれ続けている状況を打破するため、県でもたくさんの施策を展開しています。目立ったものだと、「だし活」があります。ただ「塩分を控えよう」と訴えるのではなく、「だし(出汁)」の美味しさをアピールすることで減塩しようという試みです。そのほか、長寿県の代表である長野県の取り組みを参考にして、地域に密着した健康推進員(名称:健やか力推進員)を育成していく試みも始まっています。この推進員の皆さんの今後の活躍が、地域の健康づくりの中心となり、県民の健康意識を高める大きな力となってくれると信じています。
「短命県」という汚名返上のためには、県民への「健康教育」がとても大切です。この「健康教育」は、大人に対してだけではなく、子どもに対しても行う必要があります。子どもの頃から正しい生活習慣を身につけてもらうのです。子どもは親の生活習慣を見て真似をするものです。親の食生活の乱れや喫煙習慣は子どもの将来の健康にとっても良くありません。「健康教育」によって子どもに正しい知識を持ってもらえれば、家でのコミュニケーションを通して家族全体の生活習慣改善にもつながるのではないかと考えています。
青森県の健康課題は山積みです。しかし、正しい健康知識の提供や人づくりを通じて県民の健康意識が高まれば、きっと青森県は変わるはずです。「教育を通じて人の意識を変える」、「生活習慣を変える」ということは時間がかかるとは思います。でも、いつか必ず、「短命県」を脱する日は来るでしょう。いや、もうその日は近いかもしれませんよ。

も始まっています。この推進員の皆さんの今後の活躍が、地域の健康づくりの中心となり、県民の健康意識を高める大きな力となってくれると信じています。
「短命県」という汚名返上のためには、県民への「健康教育」がとても大切です。この「健康教育」は、大人に対してだけではなく、子どもに対しても行う必要があります。子どもの頃から正しい生活習慣を身につけてもらうのです。子どもは親の生活習慣を見て真似をするものです。親の食生活の乱れや喫煙習慣は子どもの将来の健康にとっても良くありません。「健康教育」によって子どもに正しい知識を持ってもらえれば、家でのコミュニケーションを通して家族全体の生活習慣改善にもつながるのではないかと考えています。
青森県の健康課題は山積みです。しかし、正しい健康知識の提供や人づくりを通じて県民の健康意識が高まれば、きっと青森県は変わるはずです。「教育を通じて人の意識を変える」、「生活習慣を変える」ということは時間がかかるとは思います。でも、いつか必ず、「短命県」を脱する日は来るでしょう。いや、もうその日は近いかもしれませんよ。

「だし活」について分かりやすく説明した「だし活リーフレット」はこちら

参考

厚生労働省「国民生活基礎調査」
厚生労働省「人口動態調査」
厚生労働省「患者調査」
厚生労働省「特定健康診査・特定保健指導・メタボリックシンドロームの状況」
総務省統計局「家計調査」
青森県「健康あおもり21」

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