高血圧による脳・心血管疾患の発症ゼロへ

血圧を語るゼロイベント
高血圧ドクターインタビュー

第一回 北海道編日本医療大学 総長 島本和明先生

「特定健診受診率の低さは『自由』な道民性の裏返し?」

北海道の「自由」な道民性

今年は、明治2年(1869年)に「北海道」と命名されてから150年目を迎える節目の年ですが、北海道は明治期以降、多くの方が本州から移住してこられました。その背景もあってか、好奇心にあふれ、「何事にもこだわらない性格」の人が多いと思います。この特徴は日々の中で随所に感じられます。
それが顕著に表れているのが、女性の喫煙率の高さと、離婚率の高さでしょう。これは、男女関わらず、周りの目を気にする必要がなく、抑制されることもない、「自由」な空気があるからでしょう。北海道随一の繁華街「すすきの」では、夜中でも女性だけで飲み歩いている姿をよく見かけます。本州の方は「ありえない」とビックリするようですが、僕らには当たり前の風景なのです。

約半年間、雪と暮らすという特殊性

北海道が「寒い」、「雪深い」というのはみなさんご存知の通りで、この気候・地理的特徴は様々な北海道のカルチャーを語る上で切り離せない要素です。雪は確実に「食」にも「運動」にも影響していて、道民の「野菜摂取量の少なさ」、「歩数の少なさ」はデータにも表れています。11月~4月までの約半年の間、雪と一緒に生活するのですから当然といえば当然かもしれません。
今では昔と比べて、冬でも新鮮な野菜が手に入りやすくなりましたが、やはりまだ寒冷期に新鮮な野菜を入手するのはなかなか困難です。そして、雪によって「door to door」の車生活となるのは、想像に難くないと思います。公共機関の移動手段をあまり使わない人も多いですね。だって外は寒いし、雪道を歩いたら危ないから、仕方がないのです。雪道で転んで骨折する人もたくさんいますから。

「北海道=雪深い」という特殊性は、道民の生活にも健康にも本当に大きな影響を与えているといえますね。

島本和明先生の写真 1

メタボリックシンドロームになりやすい道民の生活

これも冬の「寒さ」や「雪深さ」に関連するのですが、どうしても家の中にこもる期間が長い分、メタボリックシンドロームになりやすくなります。外に出て運動せず、部屋に居ながら、テレビを観て、美味しいものを食べ、ビールを飲む。それではメタボになりますよ(笑)。

また、北海道は畜産・酪農が盛んで、肉も乳製品も豊富なので、当然、それらの摂取量が多くなります。しかも美味しい。おまけに、北海道は何事にも「自由」なスピリットに溢れていますから、「食」について伝統食というものはなく、健康を気にせず「何でも好きなものを食べてしまう」という人が多いように思います。

寒さと血圧に関連はあるか?

一方、北海道は、高血圧や脳・心血管疾患の罹患率は全国平均並みで、他県に比べて特別多いわけではありません。「寒い地域=心筋梗塞や脳卒中が多い」というわけではないのです。「昔は多かった」とも聞きますが、この数十年で変わってきたようです。最近は衣服も暖かいものがたくさん出ていますし、家の暖房設備も整っています。寒い時期でも、家は完全暖房で暖かいので、冬だからといってたくさん服を着込む発想はありません。「家の中で冷たいビールを飲むのが好きだ」という人もおられるくらいです(笑)。
私達は40年以上前から「端野・壮瞥町(たんの・そうべつちょう)研究」という、高血圧と心血管疾患に関する調査研究を続けています。よく「寒い地方では血圧が高い」といわれますが、「実際どうなのだろうか」と北海道の2つの町を対象に、検証を始めました。端野町は、北海道の最北端北東に位置する「寒い町」、壮瞥町は南に位置する「暖かい町」なのです。イメージでは、寒い端野町の方が血圧が高そうな気がするでしょう? 私も研究を始めた当初、そう思いました。ところが、実際には、差がなかったのです。寒さや暑さは血圧を左右する最大の要因ではないのです。気候などの環境要因より、むしろ生活習慣(食事・運動不足・肥満・ストレス・喫煙・飲酒等)の方が高血圧には大きく影響を与えているのです。

島本和明先生の写真 2

喫煙率に見える道民の健康意識

北海道は喫煙率が他県に比べてずば抜けて高く、全国第1位です(喫煙率:24.7%)。特に、女性の喫煙率の高さは群を抜いており、大きな問題となっています。これは「がん」の多さにも関連してきます。北海道としても医師会としても、いま一番懸念している点は、「がん」の罹患率・死亡率の高さです。

ちなみに、北海道の特定健診受診率は全国最低です(平成26年の調査で37.4%:全国47位)。がん検診の受診率も低水準です。行政はみなさんに検診を受けてもらおうと一生懸命アプローチをかけていますが、なかなか受診率は向上しません。「検診を受けるも受けないも私の自由」と考える人が多いのかもしれません。道民の「自由」なスピリットは、良い面でありながらも、こういった面では負に働く場合もあるのだなと痛感しています。
高血圧診療の面でいうと、いま困っているのは、特定健診を受けて血圧が高いことがわかっても、理由をつけて受診勧奨に応じない人が多い点です。「病院に行ってください」と伝えても、「絶対行かない」という方が結構多いのです。また、せっかく受診しても途中で治療をやめてしまう人も多いですね。これには保健師さん達も頭を悩ませています。北海道の特殊性から、そういう方が他県より多いのかもしれませんが、北海道に限らず、全国的にも一定の割合でこのような方がいるとされています。
ある北海道の保健師さんが学会で発表されていたのですが、患者さんから聞いた「特定健診で受診勧奨しても病院に行かない理由」がとても面白いんです。もうほとんど屁理屈に近いですよ(笑)。

  • 「年を取ると血圧が上がるのは当たり前」
  • 「週刊誌に薬を飲むと危険と書いてあった」
  • 「薬を飲み始めると一生飲むので、できるだけ服薬を遅らせたい」

などはまだ序の口で、

  • 「本当に高血圧を管理しないと早く死ぬのか、試している」

という方もいるそうです。保健師さん泣かせですね。
そういった方には粘り強く正しい情報を伝えていくしかないと思っています。
北海道では、市民向けの啓発活動(市民公開講座等)も盛んですし、メディアへの情報提供も積極的に行っていますが、一朝一夕にはいきません。
「家庭での血圧管理が大事です」
「血圧は高いと脳卒中・心不全・心筋梗塞になりやすいです」
と、分かりやすく、繰り返し皆さんに訴えていく必要があると感じています。行政・メディア・医師会、みんなで力を合わせて取り組んでいかないといけない課題ですね。

島本和明先生の写真 3

北海道が抱える地方医療の難しさ

北海道は、広大であるがゆえ、人口が都市部に集中し、地方では過疎が進んでいます。地方から都市部への流入は毎年増え続け、とりわけ札幌には北海道の人口の約4割が集中している状況です。

札幌市内には大学病院や国立・市立病院、民間病院など、あらゆるタイプの病院がありますが、地方は違います。小さな市町村になると、一時は「医療崩壊」といわれたくらい、病院も医師も不足しています。医療が受けられる場所がないと住民は他の都市部に出て行かざるを得なくなります。「地方における医療人の確保」は、北海道にとって重大かつ緊急の課題です。
北海道ではその地形的特徴から、遠隔医療の研究が盛んに行われています。道東も離島も、医療過疎地だらけで研究場所として最適ですからね。ただ、それは国からの研究費の補助が出る数年間だけ行われる場合も多く、研究が終わった後はまた見放されてしまう状況です。現在、一部の遠隔診療は保険診療で認められていますが、北海道の地方部で必要な遠隔診療はこれでは十分にカバーできません。医療過疎地であっても、遠隔で都市部と同じ医療が受けられるようになり、広範囲の遠隔診療が保険でカバーできるようにならないと、北海道の地方医療の問題は解決できないと思います。

北海道のみなさんへ

特定健診受診率が低いということは、言い換えると、健康に無頓着で「血圧を測ったことがない」という人が北海道にはたくさんいるということなんです。高血圧の潜在患者は思っている以上に多いのではないでしょうか。
「検診にも行かないし、血圧も測らない」という「しない自由」を主張する方が多い北海道。「自由」な道民スピリットが、健康面においては負の方向に働いてしまっていませんか。みなさんには自分の体の状態を知るべく、積極的に検診に行き、家庭でも血圧を測る習慣をつけて欲しいと、切に願っています。
何歳になっても「自由」に、そして「健康」でいるために。

参考

厚生労働省「国民生活基礎調査」
厚生労働省「人口動態調査」
厚生労働省「患者調査」
厚生労働省「特定健康診査・特定保健指導・メタボリックシンドロームの状況」
平成23年度健康づくり道民調査

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