「真面目」で「議論好き」な長野県民
長野県民は、「真面目」で「堅実」な人が多いといわれます。山に囲まれ、交通の便も悪く、閉鎖的ともいえる地域社会の中では、律儀に生真面目に生きることが重視されるのでしょう。そのほか、理屈っぽく、「議論好き」だともいわれます。江戸時代に寺子屋の数が全国で一番多かった名残なのか、勉強熱心な県でもあり、「学問で身を立てなさい」と教育されて育つ人も多いため、「議論好き」になるのかもしれませんね。

長野で叶うかもしれない、心身ともに
豊かなライフスタイル
みなさんは長野県に対してどのようなイメージをお持ちでしょうか? 県民性とは逆に、開放的なイメージを持つ方も多いようです。長野県は、日本アルプスの山々に囲まれ、りんごや蕎麦などの農産物も豊富で、温泉や高原などのリゾート地も多く、自然豊かな美しい場所です。
「移住したい都道府県ランキング」でも、全国1位に輝きました。「幸福度ランキング」も全国4位ですから、県外からみても、実際に住む県民からみても、とても魅力的な県なのでしょう。また、長野県は「長寿県」としても知られており、「心豊かに」、「健康的に」暮らす長野県民のライフスタイルは、いま、大変注目を集めています。
「長寿県」は一日にして成らず
長野県が「長寿県」と呼ばれる理由は、「平均寿命の長さ」、「一人あたりの医療費の低さ」にあります。平均寿命は、男性全国2位(81.75年)、女性全国1位(87.67年)の長さです。疾患別の死亡率をみても、日本人の死因の1位を占める「がん」の死亡率は全国最下位です。言うなれば、「病気をせず健康で長生きする人が多い」ということです。
長野県は以前から長寿県だったわけではありません。かつて、脳卒中の死亡率がトップクラスだった時代もあったほどです。当時、脳卒中死亡率の高さの原因として考えられたのは、「食塩摂取量の多さ」でした。冬の寒さが厳しく、昔から保存食として塩辛い物を食べる習慣があったため、1日あたりの食塩摂取量がかなり多くなっていたのです。その結果、高血圧を引き起こし、脳卒中をはじめとする重大な病気へとつながっていました。その状況を変えようと、県をあげて大々的に取り組み始めたのが「減塩運動」です。この減塩運動は、「食事の塩分を減らそう」という県発信の啓発キャンペーンにとどまらず、地域の保健師さんやボランティアの方々が、住民目線で積極的に減塩指導や生活習慣改善指導などに動いてくださったことで、県民に広く、そして深く伝わることになりました。この地域に密着した、草の根的な運動が功を奏し、県民の健康意識が少しずつ高まっていったのです。
「食塩摂取量」に関しては、以前ほどではないものの、まだまだ改善が必要で、長野県の大きな健康課題となっています。食塩摂取量は直近の調査で、男性が全国3位(11.8g/日)、女性が全国1位(10.1g/日)と、いまだ全国平均より高い状況が続いています。「漬物や佃煮をよく食べる」、「料理の味付けが濃い」、「味を見ずに醤油をかける」など、昔ながらの食生活がなかなか改善できず、食塩摂取量に影響しているのでしょう。
私は京都に長く住んでいましたので、長野県に移ってきた当初は、味の濃さ、塩辛いものの多さに、とてもびっくりしたのを覚えています。出汁の旨みを活用するなり、塩分濃度の高い調味料の使用量をうまく減らしていけるといいですね。
世界一の健康長寿を目指す「信州ACEプロジェクト」が始動中
現在、長野県では、健康課題である「脳卒中を中心とした生活習慣病の予防」に力を入れ、「信州ACEプロジェクト」を展開しています。ACEとは、脳卒中などの生活習慣病に効果のある、以下の3つを表しています。
- Action(体を動かす):毎日意識して「歩く」ことで、体の機能低下を防ぐ
- Check(健診を受ける):生活習慣病の早期発見・早期治療のために特定健診を毎年受診する
- Eat(健康に食べる):塩分を減らした食事を心掛け、野菜摂取を積極的に増やす
これは、日本にとどまらず、「世界で一番(ACE)の健康長寿を目指していこう」という想いを込めたプロジェクトです。上から言われて「仕方なし」に行うのではなく、地域のコミュニティや企業などが積極的かつ自発的に「健康づくり」に取り組んでいる、大変素晴らしい県民運動だと思います。
平成27年の、脳卒中を含む脳血管疾患の死亡率は、男性16位、女性18位にまで下がってきています。平成22年の時点では、男性12位、女性6位でしたので、着実にACEプロジェクトの効果が出てきているのでしょう。
健康のためには、「毎日の生活で、自分にできることから取り組む」ことが大切です。「ACE」を日々心掛けて生活していきたいものですね。

食塩摂取が多いのになぜ「長寿」なのか?
「長野県は食塩摂取量が多いのに、どうしてそんなに長寿なの?」と疑問の方もいるでしょう。長寿の理由としては、先にご紹介した「信州ACEプロジェクト」の成果だけでなく、「野菜摂取量の多さ(全国1位)」や、「高齢者の高い就業率(65歳以上の就業率全国 1位)」も大きく関係しているのです。
長野県は農業が盛んなため、農家を営む高齢者の方がたくさんいらっしゃいます。農家は早朝から外での畑仕事で体を動かしますし、日光にも当たるため、体がとても丈夫なのです。しかも、自分で作った新鮮な野菜が豊富にあるのですから自然と野菜摂取量も多くなります。また、高齢になっても「毎日やるべきことがある」ことは健康にとって、とても大事なことです。やりがいや生きがいを持って心豊かに暮らし、心身ともに健康であることが、何よりも「長寿」の秘訣なのではないでしょうか。

わかりやすい例をご紹介したいと思います。長野県に「松川村」という「長寿」の村があります(2013年 男性長寿日本一)。
松川村には、農業を営む方が多く、病院の外来に朝一番にいらっしゃっても、「ここに来る前に草むしりして一仕事終えてきた」というような、とても元気な高齢者の多い村です。日常的に体を動かす習慣があるためか、病気になっても重症化しない人が多い印象があるのが、松川村の特徴でしょうか。
対照的なのは、松川村のすぐ隣にある「大町市」で、ここは企業の工場などが多い地域です。企業で働く方達は、定年後にどうしてもメタボリックシンドローム(以下、メタボ)になりがちです。勤務していた時代の食生活を定年後も続けてしまう上、運動量も少なくなるからでしょう。実際に大町では心筋梗塞や動脈硬化などを起こす方が多い印象があります。隣り合う地域でも、「高齢になってもやりがいのある仕事を持ち、日常的に体を動かしているかどうか」が患者さんの病気の特徴や程度の差に大きく関係しているのかもしれないですね。
血圧を下げることで病気を予防しよう
「食塩摂取量」と「血圧」の間には「相関関係」があります。つまり、食塩摂取量が多ければ多いほど、血圧も上がるということです。その結果、高血圧が原因の病気にかかる危険性も高まります。今後は、脳血管疾患だけでなく、高齢化社会の進行とともに増加していくであろう「心不全」にも注意が必要です。この「心不全」の増加を食い止めるためにも、やはり「減塩で血圧を下げること」が非常に大切なのです。元々日本人は世界の中でも食塩摂取量が多いのですが、その日本の中で食塩摂取量がトップクラスのわけですから、長野県民は特に気をつけなければいけませんね。
逆にいえば、食塩摂取以外の不健康要素(健康課題)があまりないのが長野県です。食塩摂取量を減らすことができれば、高血圧の患者さんもグッと減り、脳卒中などの脳血管疾患による死亡率も下がり、健康で長生きする高齢者の方も増えてくるのではないかと思います。
「減塩」には、引き続き、地域の保健師さんやボランティアの方の力も借りながら、取り組んでいくつもりです。「県民の血圧をどれだけコントロールできるか」。これは、私達、循環器診療に携わる医師の腕の見せ所でもありますね。

おわりに〜県民の皆さんへ〜
「移住したい都道府県ランキング1位」の長野県には、クリーンで健康的なイメージがあるようです。その長野県のブランドイメージに矛盾しないように、県民もしっかり心身ともに健康でありたいですね。ポイントは、「減塩」と「日々の血圧管理」です。この2つがきちんとできれば、より健やかな人生が送れるのではないかと思います。
単に「長生き」というだけでなく、一人ひとりが生涯にわたって生きがいを持ち、健やかに暮らせるように、私は今後も長野県民のために力を注いでいきたいと思っています。
「健康長寿世界一を目指す」。この大きな目標に向けて一緒に頑張っていきましょう。
参考
厚生労働省「国民生活基礎調査」
厚生労働省「人口動態調査」
厚生労働省「患者調査」
厚生労働省「特定健康診査・特定保健指導・メタボリックシンドロームの状況」
総務省統計局「家計調査」
長野県健康づくり県民運動「信州ACE(エース)プロジェクト」
長野県「しあわせ信州『データで知る信州』」