血圧を語るゼロイベント
高血圧ドクターインタビュー

第二回 滋賀編滋賀医科大学 社会医学講座
公衆衛生学部門 教授 三浦克之先生

「県民の『一体感』で勝ち取った長寿県の称号」

今も根付く「三方よし」の考え

滋賀には近江商人の気質がまだ根付いているといわれています。商売上手で勤勉で堅実なイメージを持たれることが多いですね。近江商人が大切にしていた「三方よし」という考えをご存知でしょうか?「売り手よし、買い手よし、世間よし(売り手と買い手がともに満足して、さらに地域社会への貢献もできるのが良い商売だ)」という着想で、多くの経営者の指針としても有名です。この考え方や気質は滋賀県民の根幹にあります。
また、県民性が感じられて興味深いのは選挙のときです。「どの政党が滋賀の選挙で強い」というのはないような気がします。「良い」と思ったらその人に政治を託す、「ダメ」と思ったら見切りをつけてきっぱり変える。その判断力や見切りの早さは滋賀ならではかもしれません。「地域をより良くしたい」と考える人が多いのだと思います。

琵琶湖は誇り

琵琶湖は「マザーレイク」と呼ばれるくらい、滋賀県民にとって心の拠り所です。みんなが琵琶湖を愛し、誇りに思っています。静岡県民が富士山を好きなのと同じですね。滋賀県民はいつも琵琶湖を見ながら生活しています。常に自然と一体感のある暮らしを送っているせいか、環境への関心が高いのも滋賀県民の特徴です。

都道府県別ランキングの「ボランティア活動の年間行動者率」を見ると、滋賀県が全国1位です。「地域社会のために」という滋賀県民の精神は、近江商人魂というだけでなく、琵琶湖と共存する暮らしから生まれたものかもしれません。

一躍長寿県となった滋賀。その長寿の秘密とは・・・

最新の統計で、滋賀県の男性の平均寿命は全国1位(女性の平均寿命は全国4位)となり、一躍「長寿県」として有名になりました。これには、がんや脳卒中などの主要な病気における死亡率の低さが関係していると考えられます。なぜ滋賀でがんや脳卒中の死亡率が低いかというと、それは「喫煙」と「食塩摂取量」で説明できます。がんの死亡率には「喫煙」が、脳卒中発症には「食塩摂取量」が大きく関係します。成人男性の喫煙率をみると滋賀県は全国最下位です。食塩摂取量についても少ない方です。そのほか、滋賀県の人は肥満が少なく、血糖値も低く、飲酒量も少ない方です。滋賀県民は健康的な生活を送る人が多く、他県に比べて健康意識も高いのではないかと思います。
歴史を遡ってみると、滋賀はずっと長寿県だったわけではありません。県だけでなく各市町村レベルで県民の健康対策に力を入れて長年努力してきました。その地道な努力があってこそ、今、長寿県となれたのです。

健康寿命の順位からみる滋賀県民の心配性気質

平均寿命とは別に、健康寿命(介護や寝たきりなどの健康上の問題がない状態で日常生活を送れる期間)という尺度があります。健康寿命の指標には2種類あり、主観ベースの健康寿命(「健康上の問題で日常生活に何か影響がありますか?」という問いをもとに算出したもの)と、客観ベースの健康寿命(要介護認定2~5を不健康な状態と定義し算出したもの)があります。

滋賀県は、この主観ベースの健康寿命では、男性16位・女性42位と順位が低いのですが、客観ベースの健康寿命だと男性2位・女性3位と順位が高く、指標によって随分異なります。ここからいえることは、滋賀県民の「自覚的健康感」が低いという、「心配性」の気質です。健康に対して気を遣っている分、不安になってしまうのでしょう。心配性でいるくらいの方が、健康を顧みず自由奔放に生きている人より寿命が長くなるのは確かでしょうね。
健康意識の高さからなのか、心配性の気質からなのか、私の印象としては、毎日の血圧測定も、服薬継続も、ちゃんとできている人は他県より多いのではないかと感じています。

「肉食系」の滋賀県民

滋賀県の健康面での課題として、急性心筋梗塞による死亡率の高さが挙げられます。急性心筋梗塞の死亡率は全国平均を上回っているのです。この原因は何だろうかと、様々なデータの分析がなされてきました。その結果、分かったことは、滋賀県民は悪玉コレステロール(LDLコレステロール)の値が高い人が多いという点です。このLDLコレステロールの高さが急性心筋梗塞の死亡率の高さに影響していると考えられます。
滋賀県民は肉を好んで食べます。近江牛は全国的にも有名ですが、滋賀は肉のレベルが本当に高いのです。さすがに近江牛は高価なので日常的に食べられませんが、安くて美味しい肉がたくさん出回っています。滋賀県民は肉に対してかなり舌が肥えています。データでみても、滋賀県の肉の摂取量は全国平均より高めですし、高齢者の肉の摂取量も多いのです。肉自体はタンパク質の摂取源として非常に重要ですが、動物性脂肪の摂取量が多くなることでLDLコレステロールが高くなり、結果として急性心筋梗塞の死亡率を高めてしまっていると推測されます。
今後、食生活がさらに欧米化していくと、急性心筋梗塞による死亡率がさらに高くなっていくかもしれません。また、今はまだ滋賀県民の肥満度は低いとはいえ、日本全体を見ると肥満度は上昇傾向にありますので、「お肉は脂身の少ないところにする」、「脂肪摂取を減らすような調理方法にする」といったことを心掛けてほしいと思います。

結束してやり遂げる力があるのは滋賀ならでは

いま、滋賀県では県全体で脳卒中登録の事業を進めています。滋賀医科大学が中心となり、全県の医療機関の協力のもと、脳卒中発症例を登録し、患者さんのデータを集積しているのです。脳卒中の死亡率は以前に比べて大きく低下したとはいえ、いまだ日本人の死因の第4位であり、寝たきりになる原因としては第1位です。この事業での集約データは、滋賀県のみならず、全国の脳卒中診療に役立てていける貴重なものとなっています。また、今後は脳卒中に加え、心筋梗塞の登録事業も始める予定となっています。そのほかにも、滋賀県草津市の住民の方にご協力いただき、「滋賀動脈硬化疫学研究(SESSA(セッサ))」も進んでいます。多くの調査研究がこの滋賀県で実施できるのは、県民の皆さんの協力あってのことです。
このように、県全体で一つにまとまって事業を展開することは、なかなかできそうでできないことです。全ての医療機関の協力が必要ですので、他県ではうまくいかないケースも多いようです。結束力や一体感が必要な事業が実行できるのは、滋賀県の県民性が成せる業(わざ)かもしれません。
オンライン診療や病診連携のネットワーク化も滋賀県は比較的全国に先駆けて動いたと思いますし、「新しいものにどんどん取り組もう」、「自分たちの地域をよりよくしていこう」という姿勢は誇れるものだと思っています。

地域住民の力で広がる、健康への取り組み

県民の健康を守るには、行政の力だけでは限界があり、各地域での活動がとても重要です。いま、滋賀県には「健康推進員」という方達が県全体で数千人います。この方達が地域の健康づくりを推進するためのリーダーとしてボランティアで活躍してくれているのです。県民の栄養調査のために1軒1軒家を訪問して調査してくれるのもこの方達ですし、減塩運動が広がったのもこの方達のおかげです。現在は、県民の野菜摂取量を増やすべく、活動してくださっています。行政の声掛けだけでは不十分で、このような地域に密着した「草の根」の活動が、県民の健康を支える上では大切なことだと思います。

IoTを活用した健康作り

滋賀県はスマートフォン(以下、スマホ)の普及率が全国1位です。県民の平均年齢が44.5歳(年少人口割合:全国2位)と若いこともあります。しかし、それだけではなく、高齢者でもスマホを使いこなす方が多いようです。そこで、滋賀県内のいくつかの市町が参加して始めたのが、健康推進アプリ「BIWA(ビワ)-TEKU(テク)」です。

健康づくりを楽しみながら続けることができるアプリで、スタンプラリー、健康イベントへの参加、健診の受診や健康に関する目標の達成等、健康に関するアクションを行うと、「健康ポイント」を貯めることができます。貯まったポイントは1年に1度、自治体から提供される景品の抽選に利用できます。
バーチャルウォーキングラリーも面白いですよ。これは、歩いた歩数でバーチャルコース内を進んでいくんです。彦根城一周(約4km)の短いコースから、琵琶湖一周(約200km)の長いコースまで4つのコースから選べます。コースを達成すると、名前入りの「完歩証」をゲットできます。ちなみに、私はすでに琵琶湖一周コースを完歩しています(笑)。
このようなIoTを活用した健康増進の取り組みは、これからもっと多くの自治体で進んでいくと良いと思います。健康管理には家庭での血圧測定は非常に大切です。さらに、血圧だけでなく体重や運動量などのデータも、アプリ等を活用することで連携・一元化して管理できるようになっていますので、様々な取り組みが生まれることに期待しています。
健康に長生きするためには、「自分で健康を管理すること」が大切です。特に脳心血管疾患の予防には「家で血圧を測る」、「意識的に歩く」、「塩分を控える」など、毎日できることから始めていって欲しいと思います。ときには「BIWA-TEKU」のようなアプリも活用しながら、楽しく健康管理していけたらいいですね。

参考

厚生労働省「国民生活基礎調査」
厚生労働省「人口動態調査」
厚生労働省「患者調査」
厚生労働省「特定健康診査・特定保健指導・メタボリックシンドロームの状況」 健康いきいき21−健康滋賀推進プラン−
滋賀脳卒中ネット
滋賀動脈硬化疫学研究SESSA

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