心房細動の早期発見のために ~心電計付き上腕式血圧計HCR-7800Tを用いた臨床研究~

「脳梗塞や心不全など、脳・心血管疾患の発症ゼロ(ゼロイベント)」実現に向けて

オムロンヘルスケアでは、脳梗塞や心不全といった高血圧に起因する脳・心血管疾患(イベント)の発症をゼロにする「ゼロイベント」の実現に向けて、家庭での継続的な血圧測定の普及や、誰でも簡単に正しく測れる血圧計の開発などに取り組んできました。

近年の研究では、高血圧は不整脈の一種である「心房細動」を合併しやすいといわれており、高血圧患者の10%~20%は心房細動を有することが明らかになっています。*1「心房細動」は心原性脳塞栓症の要因ともいわれており患者の約4割は無症状*2であることから、早期発見が難しい疾患でもあります。現在、日本の高血圧患者は推計約4,300万人というデータもあり、未診断の心房細動である「潜在性心房細動」を持つ高血圧患者は多いと考えられます。また、心房細動は加齢とともに発症リスクが高くなる傾向にあるため、心房細動患者の早期発見は高齢化が進む現代において世界共通の課題となっています。

このような状況のもと、私たちは血圧測定と同時に家庭で心電図を記録できる新しいデバイス「心電計付き上腕式血圧計(HCR-7800T)」を2019年に米国で発売しました。(2022年に日本でも発売)。日々、家庭で血圧を測定するのと同じ頻度で心電図を記録することで、捉えにくい「心房細動」をいち早く発見し、早期の治療介入をサポートします。また、その価値を証明するために、さまざまな大学と共同で臨床研究を進めています。

  • *1Y. Yotov, Journal of Hypertension Vol 34, Sep 2016, e204.
  • *2Senoo K. Circulation Journal, 2012; 76: 1020-1023.

HCR-7800Tを用いた臨床研究

HCR-7800Tを使用すると、日々の血圧値と心電図を同時に記録できることから、利用者の適切な血圧管理と心房細動の早期発見を実現します。これにより脳・心血管疾患の予防につなげていきます。しかしながら、HCR-7800Tを臨床で活用した事例はまだ存在しないことから、新たに大学と共同でHCR-7800Tを用いた臨床研究を実施し、デバイスの有用性を確認しました。

<研究項目>

  1. HCR-7800Tによる心電図の判読精度
  2. 潜在性心房細動患者の早期発見
  3. アブレーション術後の心房細動の早期発見

1. HCR-7800Tによる心電図の判読精度

「心房細動の可能性」を検出するにあたって、医師の診察下における診断結果との間に大きな相違があっては、機器を信頼することはできません。そこで私たちは、HCR-7800Tによる心電図の判読精度を証明するために、持続性心房細動患者56名において、HCR-7800Tと12誘導心電図による心電図の記録を同時に実施し、その判読結果を比較しました。その結果、HCR-7800Tは、医師による12誘導心電図の判読と比較して、ほぼ同等の精度で心房細動を鑑別することができることが分かりました。*3
この研究により、HCR-7800Tは心房細動の検出について非常に高く信頼できるということを証明しました。

  • *3Senoo K. et al, Circulation Reports. 2020 May 27;2(7):345-350.

2. 潜在性心房細動患者の早期発見

心房細動は心原性脳梗塞症の大きなリスクであり、早期発見することが重要です。そこで私たちは、心房細動の啓発イベントに参加した65歳以上の一般住民(1,607名)に1機会2回の血圧測定と心電図記録を同時に実施し、記録した心電図を医師が判読しました。その結果、1,607名のうち15名(0.96%)が未診断の心房細動患者であることが判明しました。未診断の心房細動患者は、高血圧症ありの対象者の1.59%、高血圧症なしの対象者の0.51%であり、高血圧症がある人はそうでない人と比較して心房細動の併発率が約3倍高いことがわかりました。*41機会2回の限られた測定でも、本人も気づかなかった心房細動を発見できるという、HCR-7800Tの有用性を実証した結果となりました。

  • *4Senoo K. et al, PLOS ONE. 2022 Jun 6;17(6): e0269506.

3. アブレーション術後の心房細動再発の早期発見

心房細動の有効な治療として心臓カテーテルアブレーション手術(アブレーション手術)がありますが、術後の約30〜40%の患者に再発リスクがあり、またそのうちの約半数以上が無症候性であるため、術後も持続的な心電図のモニタリングが必要となります。
そこで私たちは、アブレーション手術予定の心房細動患者(最終解析対象者94名)に対し、12ヵ月のフォローアップ期間中、HCR-7800Tを用いて毎日、朝・晩の血圧測定と心電図の記録を実施しました。また3ヵ月ごとの医療機関における通常診療では、12誘導心電図を記録しました。その結果、フォローアップ期間中に家庭測定では31名(33%)、通常診療では18名(19%)の心房細動の再発を検出。家庭測定と通常診療の両方で心房細動の再発が検出された患者16名において、家庭測定による検出は、通常診療よりも40.9±73.9日早い結果となりました(P=0.04)。
これにより、HCR-7800Tを使用して家庭で心電図の記録を行うことはアブレーション術後の患者の心房細動再発の早期発見にも役立つことがわかりました。*5

  • *5Senoo K. et al, International Journal of Cardiology Heart & Vasculature. 2023 Jan 19;44:101177.