女性の更年期症状と心房細動のリスク

「更年期だから仕方がない」 -その思い込みが命に関わる病気を見逃している-
動悸、息切れ、疲労感——これらの症状を経験したとき、「年齢のせい」と思い込んでいませんか?この判断が、実は重大な病気の発見を遅らせる可能性があります。
杏林大学循環器内科学教授の副島京子先生によれば、更年期の症状で多い動悸や息切れは、心房細動の症状と酷似しており、多くの女性が「更年期だから」と片付けてしまい、受診しないことが問題となっています。オムロン ヘルスケアが実施した1000人規模の調査でも、動機や息切れなど、更年期と思われる症状を訴える女性のほとんどが医療機関を受診していないことが明らかになりました。しかし、その症状の中には重篤な脳梗塞を引き起こすといわれている危険な不整脈「心房細動」が隠れている可能性があります。

女性特有の「我慢してしまう」傾向が招く深刻なリスク
オムロン ヘルスケアが行なった調査によれば、20代から60代女性の8割以上が日常生活で「動悸」「息切れ」を実感し、そのうち6割以上が不安を感じています。それにも関わらず、「病院に行くほどの症状ではない」と考え、全体の半数以上が医療機関を受診しません。この傾向は、女性の心房細動の発見が遅れる一因となっています。

更年期症状と心房細動の
見分け方
専門医が教える更年期症状と心房細動の相違点
更年期症状の特徴と心房細動との共通点
副島先生によれば、更年期とは閉経前後5年ずつの約10年間のスパンを指し、一般的な症状として「ドキドキ、ほてり、急に汗が出る、理由もなく疲れる、眠れなくなる」などがあります。これらの症状は、心房細動の症状(動悸、息切れ、疲労感)と非常に似ているため、見分けが困難です。
女性ホルモンの変化が招く複合的リスク
更年期になると女性ホルモンのバランスが変わり、それまで女性ホルモンで抑えられていた心臓の病気や老化が一気に進行し始めます。それにより、体調不良の原因を「年齢のせい」と自己判断してしまうケースが多いのですが、心房細動が隠れているリスクを考慮し、異常を感じたら早期にかかりつけ医を受診することが推奨されています。

心房細動の基本的なメカニズム
心房細動は日本で約100万人の患者がいる非常に一般的な不整脈です。正常な心臓は心房(上の部屋)のペースメーカー細胞により1分間に60~100回定期的に拍動しますが、心房細動では心房が傷んで1分間に約500回震えてしまう状態になります。この結果、脈拍は人によって非常に早くなり、ドキドキしてしまうケースもあります。
無症状でも進行する心房細動
一方で、心房細動は患者の約4割が無症状で、全く自覚症状がない場合もあります。しかし、症状がないからと言って安心できるわけではなく、心房細動による脳梗塞のリスクはそうでない人に比べ、約5倍に高まります。しかも心房細動の症状がなくても、脳梗塞の発症リスクや死亡率に差はありません。

心房細動が引き起こす
重篤な合併症
血栓による脳梗塞 -心房細動が招く最も危険な合併症-
血栓形成のメカニズム
副島先生によれば、心房細動では心房がきちんと収縮しないため血液をうまく送れなくなり、血液が淀んでしまいます。その結果、心房の中で血液の塊(血栓)ができてしまい、それが運悪く頭に飛ぶと脳梗塞を引き起こします。
重篤な脳梗塞のリスク
心房細動による脳梗塞は「非常に重症な脳梗塞を起こす」ことが特徴です。心房細動が原因でできる血栓は大きいものが多いため、重症になりやすいという特徴があります。
女性特有の注意点
女性の心房細動は症状が軽微で見過ごしやすく、更年期症状と混同されることが多いため、早期発見が困難になる傾向があります。

心房細動の
リスクファクター
加齢によるリスク増加
心房細動のリスクファクターの中で最も大きな要因は「加齢」です。50代の心房細動を発症するリスクを1とすると、 60代になると5倍、70代になると7倍、80代になると9倍と、年齢が上がるにつれて心房細動リスクは指数関数的に増加していきます。
加齢以外のリスクファクターにも注意
しかし、実は加齢以外にも心房細動のリスクファクターは存在します。高血圧や肥満、睡眠時無呼吸症候群の罹患や喫煙、過度の飲酒のほか、激しすぎる運動習慣もリスクとして挙げられています。
女性特有のリスク:更年期とホルモンバランス
これまで、女性は男性に比べて心房細動の発症率は低いと考えられてきました。しかし、近年の研究では、心血管疾患の既往歴がない女性の場合、男性よりも心房細動の発症リスクが高いデータも認められています。女性の場合、動悸やめまいを「更年期のせい」と自己判断し、心房細動に起因する症状を見過ごしてしまうケースが問題となっています。
早期発見と
適切な対応への提言
「更年期だから」という思い込みを捨てて
家庭での心電図チェックの重要性
副島先生は「『これ更年期だわ』と思わずに、まず心房細動のチェックをすること」を強く推奨しています。心房細動の4割は症状がないため、家庭用心電計などで「自分で心電図をチェックして大丈夫かどうか、何らかの方法でスクリーニングする」ことが重要です。
「更年期だから仕方がない」という危険な思い込み
「何でもかんでも更年期だからしょうがないと思わずに、本当にちゃんと病気がないかなというのはチェックしておく必要がある」という副島先生の言葉は、多くの女性への重要なメッセージです。「更年期だから」と放置した動悸や息切れが、実は心房細動に伴う症状の可能性もあることを認識する必要があります。

我慢せずに早めの受診を
副島先生が最も強調するのは「我慢せずに早めに受診することが何よりも重要」という点です。女性の心房細動は発見時に進行していることが多いため、症状を感じたら躊躇なく医療機関を受診することが、重篤な合併症を防ぐ鍵となります。

すべての女性への切実な願い
副島先生の専門医としての経験に基づくメッセージは、更年期を迎えるすべての女性への切実な願いでもあります。動悸や息切れ、疲労感といった症状を「年齢のせい」「更年期のせい」として片付けず、自分の体の声に真摯に耳を傾け、必要に応じて適切な医療を受けることで、自身の命と健康を守ることができるのです。