AI×医療が可能にする、
これからの高血圧治療
―京都大学との共同研究で描く医療の未来像―
オムロン ヘルスケアは、京都大学と高血圧治療の未来を見据えた共同研究「健康医療AI講座」を2021年6月に立ち上げました。
本講座では、オムロンの強みである日中および夜間の血圧変動、心電データなどの生体センシング技術と京都大学の強みであるAI解析技術を融合させ、脳・心血管疾患の発症を予測し、重症化予防を実現していきます。
今回は、技術開発の濱口が共同研究講座へのオムロン ヘルスケアの期待とこれからを紹介します。
医療分野におけるAI(人工知能)への期待
共同研究講座の立ち上げの背景と目的は。
昨今、日本においては、健康意識の高まりや高血圧治療の進歩、日々の血圧測定の普及などによって、国民全体の血圧値は年々低下傾向です。しかし、その一方で、脳血管疾患による死者数は下げ止まり、心疾患は増加傾向にあります(図1)。
このデータから、現在の脳・心血管疾患におけるいくつかの問題点が見えます。その要因の1つに、高血圧が挙げられます。これは、依然として「血圧が適正にコントロールされている方が少ない」ということです。「高血圧治療ガイドライン2019」によると、高血圧治療を受けている方の27%しか血圧を適正にコントロールできていないといわれています(図2)。
オムロン ヘルスケアでは、循環器事業の事業ビジョンとして、「脳卒中や心不全など脳・心血管疾患の発症ゼロ(ゼロイベント)」を掲げています。ゼロイベント実現を目指す私たちは、この高血圧治療の現状を打破するために何ができるのでしょうか?
そこで、着目したのが最新テクノロジーであるAIでした。私たちの血圧計で測定した質の高い信頼できる生体技術データとAI技術とを掛け合わせれば、将来の高血圧治療の進化に貢献でき、脳・心血管疾患にまつわる医療課題を解決することができるのではと考えました。
京都大学との連携で期待することとは。
医科学分野でのAI活用において、京都大学は最先端の研究を行っています。今回の共同研究講座の研究代表者でもある京都大学 奥野 恭史教授はこうおっしゃっています。
“病気になってからではなく、病気になる前にいかに病気を食い止めるかが重要です。日本では、生まれてから死ぬまでの間に様々な健診を受けますし、最近ではパーソナルヘルスケアの観点から、ウェアラブルデバイスや健康アプリなども広く活用されるようになり、一生を通じて健康データの蓄積が容易になりました。このようなデータを使いAIで解析することで、近い将来、病気の予測だけでなく、早期介入や個別最適化した提案ができるようになります”
今回、京都大学と連携することで、私たちだけではなし得なかった、事業ビジョンであるゼロイベントへの革新的なアプローチができると期待しています。
AIを活用して目指すものは。
今回の共同研究講座では、AIで測定データを解析し疾病の発症リスクを予測するというだけでなく、効果的な予防や治療のプラン提案までを行うAIの開発を目指しています。
すでに京都大学では、健診データをAIで解析して、生活習慣病の発症予測と健康改善プランを提案するというアルゴリズムの開発に成功しています(弘前大学・京都大学との共同研究)。このアルゴリズムを用いて、健診だけではなく日々の生活ログやバイタルデータを解析できれば、さらに精度の高いイベント発症リスクの予測や生活習慣の改善プランを提案できるようになると考えています。
ゼロイベント実現に向けて
今回の共同研究「健康医療AI講座」で取り組む課題とは。
具体的に2つの課題に取り組みます。
1つ目の課題は、「血圧コントロール不良の改善」です。高血圧治療を受けても血圧コントロールがうまくいかない場合に対する血圧改善に向けたアプローチです。
2つ目の課題は、「イベント発症の早期発見」です。血圧を適正にコントロールできていたとしても、脳・心血管疾患イベントが起こってしまう場合があります。そのイベントの予兆をいかに確立高く、検知できるかに挑戦します。
各課題における研究テーマは。
1つ目の課題に対する研究テーマは、血圧コントロール率のさらなる向上を目指した「パーソナライズ血圧改善AI開発」です。高血圧の要因は生活習慣や個人の特性など人によって様々です。その関係性を紐解くことで、よりパーソナライズ化された服薬治療、生活習慣改善につなげていきます。
そして、2つ目の課題に対する研究テーマは、イベントの早期発見・重症化予防を目指した「イベント予兆の検知AI開発」です。家庭で日々計測される様々なデータから、傾向の変化などを捉え、イベントの予兆としてAIで高精度に早期に検出しようという試みです(図3)。
目指すのはよりよい高血圧治療
オムロン ヘルスケアが目指す、循環器疾患医療の未来とは。
私たちの循環器事業のビジョンであるゼロイベントの実現に向けて、家庭で計測したバイタルデータを用いた治療支援をさらに推進していきたいと考えています。
私たちが目指す先は、あくまで「治療支援」であって、医療従事者に代わるAIの開発ではありません。AIによって患者さんごとにパーソナライズ化した生活習慣改善提案やイベント予兆検知を活用して、医師の治療をサポートしていきたいと考えています(図4)。
昨今、医療の現場では、日本だけでなく世界中で医療従事者の負担増や、地域医療の格差拡大が叫ばれています。この「健康医療AI講座」は、そういった問題に対する解決の糸口となるだけでなく、高血圧治療の進化をもたらし、世界中でのゼロイベント実現につなげられると確信しています。
技術開発統轄部統轄部長