vol.197 以前から糖尿病治療でかかっている病院で、腎機能が悪いと指摘されており、最近さらに悪化していると言われました。腎機能はどんどん悪化して治らないものなのでしょうか。

生活習慣病Q&A
以前から糖尿病治療でかかっている病院で、腎機能が悪いと指摘されており、最近さらに悪化していると言われました。腎機能はどんどん悪化して治らないものなのでしょうか。
そうとも限りません。糖尿病腎症は5期に分かれます。現在の腎機能の状態を知って、それに対応した治療を行うことで、腎機能の悪化を防ぐ、あるいは改善することが期待できます。
糖尿病は血管の病気とも言われています。シャープペンシルの芯(0.3mm)よりも細い血管が傷つくのが糖尿病合併症の特徴です。この細い血管が集まっているのが神経、眼と腎臓です。そのため「糖尿病神経障害」「糖尿病網膜症」「糖尿病腎症」は糖尿病の3大合併症とよばれています。神経障害、眼、腎臓の頭文字をとって「し・め・じ」と覚えておくといいですね。
糖尿病腎症の病期は、腎機能とタンパク尿の所見から5期に分かれています。第1期(腎症前期)は腎臓の検査値に異常がない時期です。第2期(早期腎症期)に入ると尿中にアルブミンというタンパク質がわずかに出てきます。これを、微量アルブミン尿と呼びます。第3期(顕性腎症期)になると、尿中にタンパク質が出てきて、腎機能が徐々に低下していきます。中には、むくみ(浮腫)などの症状が出る人もいます。第4期(腎不全期)に入ると腎機能が徐々に低下し、体内の不要物を濾過して排泄するという機能がそこなわれてしまいます。むくみに加えて、身体がだるい、食欲がない、皮膚がかゆい、夜中に手足が痛くなる、貧血(腎性貧血)などの尿毒症の症状が出てきます。第5期(透析療法期)では腎機能が極端に低下し、週に3回など慢性の透析療法が導入される時期になります。今までは、いったん腎機能が低下し始めると元には戻らないと言われてきました。ところが、血圧、血糖、脂質などを厳格に管理することで腎機能の改善がみられる人がいることがわかってきました。しかし、ある時期を過ぎると元には戻ることはできません。これを「ポイント・オブ・ノー・リターン」と言います。元々は航空用語で、「帰還不能点」(飛行機がもはや出発点に戻るための燃料がなくなってしまうところ)という意味です。糖尿病腎症でも、この「ポイント・オブ・ノー・リターン」、つまり、もう後戻りできない段階があるのではないかと考えられています。ある研究によると、微量アルブミン尿が出ている時期では約50%、タンパク尿が出ている時期では20~30%が改善するとの報告もあります。改善のポイントは、血圧(130/80mmHg未満)、血糖コントロール(HbA1c 7%未満)、脂質(LDL-コレステロール120mg/dL未満)を達成することにあります。また、生活習慣の中では減塩に加えて、禁煙、内臓脂肪を減らす、運動習慣をつけることが大切だと言われています。食事の中のたんぱく質を制限することで腎機能が改善する人もいます。まずは、自分の腎臓の状態をよく知って、かかりつけ医の指示の元、腎臓に優しい療養に努めることが大切ですね。
文献
1. Perkins BA, Ficociello LH, Silva KH, et al: Regression of microalbuminuria in type 1 diabetes. N Engl J Med. 2003;348(23):2285-93.
2. Araki S, Haneda M, Koya D, et al: Reduction in microalbuminuria as an integrated indicator for renal and cardiovascular risk reduction in patients with type 2 diabetes. Diabetes. 2007 Jun;56(6):1727-30. Epub 2007 Mar 14.
3. Yamagata K, Makino H, Iseki K, et al: Effect of Behavior Modification on Outcome in Early- to Moderate-Stage Chronic Kidney Disease: A Cluster-Randomized Trial. PLoS One. 2016;11(3):e0151422.

先生のプロフィール

坂根 直樹先生

坂根 直樹 先生

独立行政法人国立病院機構京都医療センター
臨床研究センター 予防医学研究室室長
略歴
昭和64年 自治医科大学医学部卒業
昭和64年 京都府立医科大学附属病院(第1内科)研修医
平成3年 大江町国保大江病院内科
平成5年 弥栄町国保病院内科
平成6年 京都府保健福祉部医療・国保課
平成7年 綾部市立病院(内分泌科)
平成10年 大宮町国保直営大宮診療所
平成11年 京都府立医科大学附属病院修練医(第1内科)
平成13年 神戸大学大学院医学系研究科分子疫学分野(旧衛生学)助手
平成15年 独立行政法人国立病院機構京都医療センター(旧国立京都病院)
臨床研究センター 予防医学研究室室長
ご専門
糖尿病、糖尿病教育、内分泌

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