vol.205 適度の飲酒は健康によい面もあると聞きますが、その「適量」とはどれくらいなのでしょうか? 糖尿病患者で注意する点はありますか?
生活習慣病Q&A
- 適度の飲酒は健康によい面もあると聞きますが、その「適量」とはどれくらいなのでしょうか? 糖尿病患者で注意する点はありますか?
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アルコール依存症や糖尿病合併症が深刻な場合には禁酒。それ以外は節酒となります。節度ある適度な飲酒は、1日平均純アルコールで20g程度になります。60gを超える多量飲酒では低血糖を起こす可能性が高くなりますので注意が必要です。一般に「酒は百薬の長」などと広く言い伝えられていますが、原典である中国の漢書では「されど万病の元」という続きがあります。適度の飲酒は健康によいとの観察研究もありますが、飲めない人が無理に飲めば健康になるわけでもなさそうです。
一般的には、アルコール依存症の人は禁酒、それ以外は節酒が基本となります。「あなたは今までに、飲酒を減らさなければいけないと思ったことがありますか?」(Cut down)、「あなたは今までに、飲酒を批判されて、腹が立ったり苛立ったことがありますか?」(Annoyed by criticism)、「あなたは今までに、飲酒に後ろめたい気持ちや罪悪感を持ったことがありますか?」(Guilty feeling)、「あなたは今までに、朝酒や迎え酒を飲んだことがありますか?」(Eye-opener)の4つの質問のうち、2項目以上当てはまる人はアルコール依存症が疑われます。休肝日がない人やアルコール度数の高いチューハイなどを飲んでいる人の中に、アルコール依存症が潜んでいる可能性があります。
厚生労働省は健康日本21の中で「節度ある適度な飲酒」を1日平均純アルコールで20g程度としています。これは糖尿病があるなしに関わらずです。アルコールの量が60gを超えると、「多量飲酒」と呼ばれます。肥満の人だけでなく、痩せた人でも多量飲酒をすると2型糖尿病になるリスクが高まります。多量飲酒は神経障害などの糖尿病合併症、心筋梗塞などの心血管疾患、勃起障害(ED)のリスクを高めます。1型糖尿病の人が多量飲酒をすると、翌日の朝や午前中に低血糖を起こすリスクが高まることも報告されています。飲酒の際には、炭水化物を十分にとること、飲みすぎた次の日には低血糖予防のためにもしっかりと朝食をとっておいた方がよさそうです。
前述したアルコール20g程度とは、「ビール中ビン1本」「日本酒1合」「チューハイ(7%)350mL缶1本」「ウィスキーダブル1杯」などに相当します。アルコールの身体への影響は個人差があります。アルコールによる肝障害の指標であるγ-GT、AST、ALTなどが基準値内にあるかを確かめておくといいですね。
文献
1. Knott C et al. Diabetes Care. 2015 Sep;38(9):1804-1812.
2. Elgendy R et al. J Diabetes. 2019 Jan;11(1):14-22.
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4. Bellou V et al. PLoS One. 2018 Mar 20;13(3):e0194127.
5. Baliunas DO et al. Diabetes Care. 2009 Nov;32(11):2123-2132.
6. Turner BC et al. Diabetes Care. 2001 Nov;24(11):1888-1893.
7. Engler PA et al. Acta Diabetol. 2013 Apr;50(2):93-99.
先生のプロフィール

坂根 直樹 先生
独立行政法人国立病院機構京都医療センター
臨床研究センター 予防医学研究室室長
臨床研究センター 予防医学研究室室長
- 略歴
- 昭和64年 自治医科大学医学部卒業
昭和64年 京都府立医科大学附属病院(第1内科)研修医
平成3年 大江町国保大江病院内科
平成5年 弥栄町国保病院内科
平成6年 京都府保健福祉部医療・国保課
平成7年 綾部市立病院(内分泌科)
平成10年 大宮町国保直営大宮診療所
平成11年 京都府立医科大学附属病院修練医(第1内科)
平成13年 神戸大学大学院医学系研究科分子疫学分野(旧衛生学)助手
平成15年 独立行政法人国立病院機構京都医療センター(旧国立京都病院)
臨床研究センター 予防医学研究室室長 - ご専門
- 糖尿病、糖尿病教育、内分泌