vol.10 体にやさしい痔の手術

健康・医療トピックス
“3人寄れば痔主が1人”といわれるほどポピュラーな疾患が『痔』です。痔は大別すると『痔核(じかく/いぼ痔)』『裂肛(れつこう/切れ痔)』『痔瘻(じろう/あな痔)』の3つになります。
その3つの中で最も患者さんの多いのが痔核で、男女共に約60%を占めています。
痔核とは肛門の静脈にできた静脈瘤の一種で、静脈がうっ血して膨らんだり、その支えが弱くなって肛門から外へ出たりする――この状態をいいます。
また、肛門の出口、肛門上皮と奥の粘膜との間に歯状線と呼ぶ部分があり、この線より内にできた痔核を内痔核、外にできた痔核を外痔核といいますが、患者さんの大半は内痔核で悩んでいます。

内痔核は症状の度合いによってI度からIV度に分類されています。
vol.10 体にやさしい痔の手術

I度

排便時に出血するものの、内痔核は脱出しない。

II度

排便時に内痔核が脱出するが、排便が終わると自然に戻る。

III度

排便時に内痔核が脱出し、指で押し込まないと戻らない。

IV度

排便に関係なく内痔核は脱出しっぱなしの状態。

I・II度であれば日常生活の改善と薬によって治りますが、III度以上になるとそれでは治らないケースも出てきます。その場合は、手術となります。

「痔の手術は痛い!」と昔からよくいわれていましたが、今日では、体にやさしい痛くない手術が登場しています。
それは内痔核に有効な半導体レーザーを用いた『ICG併用半導体レーザー治療』です。
ICGとはインドシアニン・グリーンの略で、肝機能の測定に用いられる色素のことです。まず人体に無害なICGを切除する痔核だけに注射で注入し、次に、半導体レーザーを患部に接触させることなく照射します。ICGはレーザー光線を強く吸収する性質があるので、痔核は十分に焼かれて退縮してしまいます。
この治療方法では、出血や痛みがきわめて少ないとあって、入院日数も3泊程度ですみますが、医療機関によっては日帰り手術でこれを行っているところもあります。いずれにしても十分な説明を受け、納得してから手術を受けるのが大事です。
しかし、このICG併用半導体レーザー療法によって痔核が完治するということではなく、I度の状態にまでおさまります。あとは、お尻を清潔にし、便秘や下痢をしない、腰を冷やさない、長時間同じ姿勢をしない、アルコール・刺激物はひかえるなど、生活習慣を改善することが大切です。お尻にやさしい日常生活は、実は生活習慣病予防にも結びつくのです。その点から、“痔も生活習慣病”という専門医が多くなっています。

このコラムは、掲載日現在の内容となります。掲載時のものから情報が異なることがありますので、あらかじめご了承ください。

執筆者プロフィール

松井 宏夫

松井 宏夫

医学ジャーナリスト
略歴
1951年生まれ。
医療最前線の社会的問題に取り組み、高い評価を受けている。
名医本のパイオニアであるとともに、分かりやすい医療解説でも定評がある。
テレビは出演すると共に、『最終警告!たけしの本当は怖い家庭の医学』(テレビ朝日)に協力、『ブロードキャスター』(TBS)医療企画担当・出演、『これが世界のスーパードクター』(TBS)監修など。
ラジオは『笑顔でおは天!!』のコーナー『松井宏夫の健康百科』(文化放送)に出演のほか、新聞、週刊誌など幅広く活躍し、NPO日本医学ジャーナリスト協会副理事長を務めている。
主な著書は『全国名医・病院徹底ガイド』『この病気にこの名医PART1・2・3』『ガンにならない人の法則』(主婦と生活社)、『高くても受けたい最新の検査ガイド-最先端の検査ができる病院・クリニック47』(楽書ブックス)など著書は35冊を超える。

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