vol.102 今シーズンのインフルエンザ対策 効果が注目される漢方薬
インフルエンザの流行が気になる季節になってきました。インフルエンザは感染力が強く、いったん発生すると瞬く間に多くの人へと広がります。会話で飛び散る唾液や、咳、くしゃみなどの飛沫から感染するほかに、インフルエンザウイルスに触れた手指を介して、口、鼻、目などの粘膜から体内に入り込む接触感染によって拡大します。毎年、感染する人が出始めるのは11~12月頃。翌年の1~3月頃にかけて増加する傾向にあるので、これから寒い時期は注意が必要です。
インフルエンザの症状
インフルエンザの症状は、咳、鼻水、くしゃみなど風邪とよく似た症状もみられますが、ぞくぞくした寒気とともに38~40度の高熱が出て、頭痛や関節痛、筋肉痛、だるさなど全身に現れることが特徴です。症状は4~5日ほど続き、約1週間で軽快します。
しかし、抵抗力の弱い高齢者が感染すると肺炎を起こしたり、1~6歳ぐらいの乳幼児では急性脳症を発症したりすることがあり、このような合併症を併発すると命にかかわります。また、喘息やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)、心疾患、糖尿病、腎疾患などの慢性疾患のある人やがんで免疫力が低下している人では、重症化することがあるので早めに予防策をとっておくことが大切です。
インフルエンザにかからないようにするには
インフルエンザを防ぐには、ワクチンの接種が有効です。ワクチンとはインフルエンザウイルスの病原性(毒性)を取り除いて、病気に対する抵抗力(免疫)を高めたもの。ただし、ワクチンを接種したからといって、感染を100%防げるわけではなく、ウイルスに感染しても発症を抑える、発症しても重症化を抑えることを目的としています。
接種後、免疫が働き出すまで2週間程度かかるため、合併症などのリスクが高い人は早めの接種が望ましいでしょう。ただし、人によっては、腫れや赤みなどの副反応で受けられないこともあります。高齢者や乳幼児、小児、妊娠中の女性、病気のある人は、流行前にかかりつけ医とよく相談してみましょう。
インフルエンザの治療
インフルエンザにかかった場合は、抗インフルエンザ薬で治療します。治療薬には、タミフル、リレンザ、シンメトレル、ラピアクタ、イナビルなどがあり、医師が診察して処方します。よく用いられるタミフルやリレンザは、細胞の中で増えたインフルエンザウイルスが細胞の外に出ないようにして、細胞から細胞への感染を防ぐ作用があり、発症から48時間以内の服用が有効です。発熱の期間が短くなり、体内から出るウイルスの量も減らすことができます。
また、最近の研究では、漢方薬の「麻黄湯(まおうとう)」の効果も明らかになっています。小児科のクリニックにおける臨床試験で、インフルエンザA型、B型を発症した小児に対して、タミフルと麻黄湯を投与したグループに分け、インフルエンザウイルスが消失するまでの時間を比較した結果、ほとんど差がなく同等の効果があることがわかりました。日本臨床内科医会インフルエンザ研究班が行った2006年~2007年シーズンの臨床データでも、タミフルやリレンザと比較して、投与開始から解熱までの時間に有意な差は認められていません。
麻黄湯は、タミフルやリレンザのようにインフルエンザウイルスに直接作用するわけではなく、気道の上皮細胞の炎症を抑え、体の防御機能を高めることでウイルスに抵抗すると考えられています。インフルエンザの初期症状のほか、悪寒、発熱、頭痛、腰痛といった症状がみられる風邪にも効果があるのが特長です。インフルエンザの保険適応があり、安価なのもメリットのひとつ。
小児から高齢者まで幅広い年齢層に対して使用することができますが、麻黄の成分にエフェドリンが含まれているため、心臓や血管に負担をかけるおそれがあります。高齢者に使う場合、特に心臓が弱っている方や高血圧の持病がある方には注意が必要です。
治療時の薬の使い分けとしては、発熱や寒気、頭痛などの症状があってインフルエンザ診断キットでインフルエンザウイルスが検出された場合は、抗インフルエンザ薬による治療が行われます。麻黄湯は、診断キットでインフルエンザウイルスが検出されず、風邪とインフルエンザの両方の疑いがあるときなどに用いられます。
さらに、疲労時や手術後などに補剤として用いる「補中益気湯(ほちゅうえっきとう)」にも、ウイルスの増殖を抑える効果があることがわかっています。補中益気湯はインフルエンザにかかってから服用したのでは効果が乏しいため、ふだんから風邪をひきやすい人などに対して予防のために用いられます。
予防と治療の対策を万全に
インフルエンザの原因であるインフルエンザウイルスには、A型、B型、C型という3つの種類があり、人にうつると大流行を起こすのがA型です。A型のウイルスの表面には、ヘマグルチニン(H1~H16)とノイラミニダーゼ(N1~N9)という2つのたんぱく質の突起があって、表面の構造や遺伝子は時間の経過とともに少しずつ変化しています。そして、数十年に1回、ウイルスはがらりと形状を変えることがあります。これが新型インフルエンザの出現です。2009年に新型インフルエンザ(A型H1N1)が世界で大流行しました。これは大きく変異したウイルスに対して免疫をもっていない人が多かったため、感染が拡大したのです。
インフルエンザには、毎年流行を繰り返す季節性とこのような新型があり、後者はいわば未知のウイルス。いつ出現するのか予測もつかないので、インフルエンザが流行する時期は発生状況などもチェックしながら、かからないための予防とかかってもあわてない治療対策を万全にしておきましょう。
監修 千葉大学医学部附属病院 呼吸器内科 教授 巽 浩一郎先生
(参考)
「麻黄湯がインフルエンザ治療の新たな選択肢に」日経メディカル
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/special/pandemic/topics/201202/523756_2.html
更新日:2021.03.12
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